しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

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4 102号室 住人 光井慎

39.

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 自分の隣の相良くんは伊織くんとゲームの話でなんとなく会話が続いていた。無口で怯え満載の相良くんと会話ができる伊織くんはすごいな。
 美沙恵さんの隣に座っている小早川さんは今ピンチに陥っている。どうやら先日、美沙恵さんの従姉妹に何やら失礼を働いたらしく、礼子さんと美沙恵さんから地味に攻撃を食らっていた。その向こうではにこやかに見守るいつきさんの姿があった。気の毒なことだ。
 それにしても、件の従姉妹が自分と相良さん以外には面識あるようで驚いた。話を聞いてるとすんなりここにも溶け込みそうな子だけど……自分を恐がりそうな子だから気をつけないといけないなぁと思う。

 食事もあらかた済んだので食後のデザートの準備をすることにした。
席を立つといつきさんも一緒に立ち上がった。

「飲み物いれますね」

 ああ、なるほど。
 最近いつきさんは美沙恵さんから紅茶の入れ方を伝授されているらしい。ここの紅茶コレクションが存続されるのは喜ばしことだ。

「いつきくん、ロイヤルミルクティーお願いしていい?」

 美沙恵さんがすかさずオーダーする。

「はい、わかりました」

 何度か入れて貰ったことがあるが美沙恵さんのロイヤルミルクティーは本当に美味しい。じっといつきさんをみてると「光井さんも飲まれますか?」と聞かれたのでお願いした。

「他の方は何にされます?」
「アタシはアッサム飲みたい」
「あ、僕も」

 礼子さんと伊織くんが紅茶を選んだ。

「コーヒーでもいいですよ?」

 いつきさんがさりげなく助け船をだすと小早川さんが「オレ、コーヒーでもいいですか」と。

「脩平にーちゃんは何がいいの?」

 相変わらず伊織くんに世話をやかれている相良くんだ。

「相良さんはコーヒーですよね」

 いつきさんが準備をしながらそう告げた。
 なんでいつきさんは相良くんの好みを知っているんだろう……。まぁ、いい。とりあえずシュークリームの仕上げにかかることにする。
 
 前もって作っておいたシュー皮にクリームを入れていく。皮は昔ながらの皮だ。クッキー生地でもなければパイシューでもない、ノーマルな皮。仕上げに粉砂糖をふりかけてトレーに盛る。添えるフルーツは苺とせとか。せとかは皮の薄い柑橘類でジューシーでとても甘い。食べやすいようにキレイにカットしていく。

「まずは美沙恵さん、どうぞ」

 いつの間にやらミルクティーが入ったようだ。いつきさんが美沙恵さんにマグカップを差しだしていた。淡いブルーの上品な柄で美沙恵さんのマグカップ。ヨーロッパからの輸入品でマグカップにしてはいい値段のするものだ。
 お礼を言って美沙恵さんがカップを受け取る。促されて一口飲むとニッコリといつきさんに笑いかけた。

「うん、美味しい」
「ありがとうございます」

 ちょっとだけ安堵の表情を浮かべたいつきさんは、すぐに他の飲み物にとりかかる。喫茶店の店員並の働きぶりだ。

 盛り付けが終わる頃に伊織くんが近寄ってきた。

「うわぁ、美味そう。この取り皿持って行こうか?」

 手伝いに来てくれたようだ。本当によく気のつく高校生だ。今どきの高校生はみんなこんなのだろうか。

「お願いします」
「OK、OK」

 伊織くんはそう言って新しい小ぶりの取り皿を皆に配ってくれた。フワリとコーヒーの香りが広がった。いつきさんがコーヒーを入れ始めたようだ。

 大きめのシルバートレーに15個のシュークリームを並べ周りにフルーツを飾る。何故か甘い物を見ると別腹が発動されるらしいので少し多めに盛り付けた。味で楽しめ、視覚で楽しめるように神経を集中させる。

 満足いく形に収まったトレーを持って輪に戻ると、丁度いつきさんが最後に自分のマグカップを持って座った所だった。いつきさんはアッサムのようだ。

 トレーを輪の中央に置くと礼子さんと美沙恵さんの喜びの声が上がった。

「美味しそう!何なのこれっ。みっちゃん天才!」
「やーん、美味しそおぅ~」

 人が幸せそうにしてるのは見てて本当にいい気分になる。怒っているより悲しんでいるよりずっといい。
 ワイワイ騒ぎながらおのおのが手を伸ばしシュークリームを口入れる。美沙恵さんは……どうだろうかと、さりげなく表情をうかがい見る。
 その顔に偽りのない喜びが見え、なんとも言えない気持ちになる。この感情が何に分類されるのか自分にはわからないけれど、とりあえず自分は今幸せだなと、そう思った。
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