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4 102号室 住人 光井慎
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注文のピザを礼子さん達の元へ届け、厨房に戻る途中でカランと、何かが落ちる音がした。後ろを振り返ると、今年から高校生になる妹と同じくらいの年格好の女の子が四方八方に転がる何かを呆然と見つめている。コロコロと自分の足下に転がってきたのは小さな丸い玉だ。
しゃがんで拾い上げると、それは薄いピンク色をしていて穴があいている。おそらく天然石のブレスレットか何かのパーツだろう。妹から誕生日のプレゼントにせがまれた物と似ている。
妹にキラキラとした店内に連れ込まれたときは非常に居心地が悪かった。しかもどれも似たような物に見えるブレスレットを吟味し始めたのだからたまたものではなかった。どれがいいかと意見を求められ、散々あらゆる種類の物を見せられたので良く覚えている。
とりあえず飛び散ったそれらを拾い集めることにした。下が木の廊下だからよく転がっている。店内は薄暗いから見落とさないように気をつけなければ。
視線を前に向けると彼女も玉を拾っており、きょろきょろと視線を床へと向けていた。
チェック柄のワンピースを着た女の子は、確か両親らしき人と一緒に来店していたお客様だ。ホールの端の席で楽しそうにしているのを見かけた。この店はそこまでフォーマルではないけれどカジュアル過ぎることもない、少しだけ大人向けの店なのであれくらいの子が来るのは珍しい。ちょっとだけ背伸びをした姿が微笑ましく、印象に残っていた。
床に転がった玉を静かにひとつづつ拾い上げる。集めた玉は7つ。ピンクが3つと透明の大小のものが4つ。ざっと見渡すが他には落ちていないような気がする。
拾った物は彼女に渡さなければならない、と思う。しかしあれくらいの年齢の女の子が自分を怖がることは今までの経験上まず間違いはない。少々コワオモテでもいわゆるイケメンだったなら話は違ったのかもしれないが、自分はそうではない。ただただ目の細い表情筋の動きにくいデカイ男だ。確実に怖がられる。仕方ない、他のスタッフに事情を話して後からこっそり渡してもらうか?……忙しいけど怖がらせるよりはマシだろう。
そう結論づけて視線を上げると彼女が自分の手元を見ていた。凝視されている。マズいと思ったけれど遅かった。しっかり女の子と視線が合ってしまった。くりくりとした目が印象的な良くも悪くも普通の子だった。
声こそ上げられなかったが、確実に怯えられた。顔が引きつっている。仕方ない、さっさと渡してしまおう。
「……お客様、大丈夫ですか?」
地声よりトーンを上げてゆっくりと声をかける。広角を上げて微笑む努力をする。自分は怪しい者ではない、この店のスタッフだ。その証拠に他の者が着てるのと同じコックシャツを着てるだろう?と、もちろん声に出しては言わないが念を込めて話しかける。
拾った玉を女の子に渡そうとしてふと気がつく。彼女の手の中にもたくさんある玉。このまま渡したらまたバラバラになりそうだ。
女の子を見るとちょっと泣きそうになっている。本気でマズい。
「少しだけお待ちいただけますか?」
そう言って玉を持ったままその場を離れる。これで彼女が席に戻ったなら他のスタッフに後を任せることにしてスタッフルームへと急いだ。
自分の鞄から出勤前に購入したホワイトデーお返し用の透明なクッキーラッピング袋を1枚手にし、中に玉を入れた。付属のシールもついでに袋に入れる。なんともいいタイミングでこれを買っていたものだ。
急いで戻ると女の子は所在なさげにその場に立ったまま待っていてくれた。一呼吸置いて自分を落ち着かせる。声はワントーン高め、ゆっくり話す。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
そういって袋を差し出すが女の子は固まったまま動かない。でも受け取ってもらわなければこちらも困る。ああ、本格的に泣き出しそうな気配を感じる。やはりもう少し人当たりのいいスタッフ連れてくれば良かった。
ツラツラと後悔していると不意に恐る恐る彼女の手が伸びてきた。小さな手が袋を掴む。しっかりと袋を掴んだのを見届けて手を放す。
女の子は視線を合わすことなく軽く会釈して早足で席の方へと戻っていった。
ウチの料理は本当に美味しいと思っている。自分のせいでこの店が避けられるのは避けたいのだが……いろいろと難しい。
しゃがんで拾い上げると、それは薄いピンク色をしていて穴があいている。おそらく天然石のブレスレットか何かのパーツだろう。妹から誕生日のプレゼントにせがまれた物と似ている。
妹にキラキラとした店内に連れ込まれたときは非常に居心地が悪かった。しかもどれも似たような物に見えるブレスレットを吟味し始めたのだからたまたものではなかった。どれがいいかと意見を求められ、散々あらゆる種類の物を見せられたので良く覚えている。
とりあえず飛び散ったそれらを拾い集めることにした。下が木の廊下だからよく転がっている。店内は薄暗いから見落とさないように気をつけなければ。
視線を前に向けると彼女も玉を拾っており、きょろきょろと視線を床へと向けていた。
チェック柄のワンピースを着た女の子は、確か両親らしき人と一緒に来店していたお客様だ。ホールの端の席で楽しそうにしているのを見かけた。この店はそこまでフォーマルではないけれどカジュアル過ぎることもない、少しだけ大人向けの店なのであれくらいの子が来るのは珍しい。ちょっとだけ背伸びをした姿が微笑ましく、印象に残っていた。
床に転がった玉を静かにひとつづつ拾い上げる。集めた玉は7つ。ピンクが3つと透明の大小のものが4つ。ざっと見渡すが他には落ちていないような気がする。
拾った物は彼女に渡さなければならない、と思う。しかしあれくらいの年齢の女の子が自分を怖がることは今までの経験上まず間違いはない。少々コワオモテでもいわゆるイケメンだったなら話は違ったのかもしれないが、自分はそうではない。ただただ目の細い表情筋の動きにくいデカイ男だ。確実に怖がられる。仕方ない、他のスタッフに事情を話して後からこっそり渡してもらうか?……忙しいけど怖がらせるよりはマシだろう。
そう結論づけて視線を上げると彼女が自分の手元を見ていた。凝視されている。マズいと思ったけれど遅かった。しっかり女の子と視線が合ってしまった。くりくりとした目が印象的な良くも悪くも普通の子だった。
声こそ上げられなかったが、確実に怯えられた。顔が引きつっている。仕方ない、さっさと渡してしまおう。
「……お客様、大丈夫ですか?」
地声よりトーンを上げてゆっくりと声をかける。広角を上げて微笑む努力をする。自分は怪しい者ではない、この店のスタッフだ。その証拠に他の者が着てるのと同じコックシャツを着てるだろう?と、もちろん声に出しては言わないが念を込めて話しかける。
拾った玉を女の子に渡そうとしてふと気がつく。彼女の手の中にもたくさんある玉。このまま渡したらまたバラバラになりそうだ。
女の子を見るとちょっと泣きそうになっている。本気でマズい。
「少しだけお待ちいただけますか?」
そう言って玉を持ったままその場を離れる。これで彼女が席に戻ったなら他のスタッフに後を任せることにしてスタッフルームへと急いだ。
自分の鞄から出勤前に購入したホワイトデーお返し用の透明なクッキーラッピング袋を1枚手にし、中に玉を入れた。付属のシールもついでに袋に入れる。なんともいいタイミングでこれを買っていたものだ。
急いで戻ると女の子は所在なさげにその場に立ったまま待っていてくれた。一呼吸置いて自分を落ち着かせる。声はワントーン高め、ゆっくり話す。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
そういって袋を差し出すが女の子は固まったまま動かない。でも受け取ってもらわなければこちらも困る。ああ、本格的に泣き出しそうな気配を感じる。やはりもう少し人当たりのいいスタッフ連れてくれば良かった。
ツラツラと後悔していると不意に恐る恐る彼女の手が伸びてきた。小さな手が袋を掴む。しっかりと袋を掴んだのを見届けて手を放す。
女の子は視線を合わすことなく軽く会釈して早足で席の方へと戻っていった。
ウチの料理は本当に美味しいと思っている。自分のせいでこの店が避けられるのは避けたいのだが……いろいろと難しい。
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