しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

文字の大きさ
上 下
32 / 44
3 101号室 住人 小早川秀章

32.

しおりを挟む
 とりあえず、餌付け作戦でいくことにした。日持ちのするコンビニ菓子やらを常備し、渡す作戦だ。部屋に押しかける訳にもいかないから「さりげなく、自然に」がポイントだ。

 だがしかし。

 何故かほとんど橘さんと顔を合わせることがなくなった。見かけても挨拶だけして慌ただしく逃げ去られる。どやらオレが「女性と出会うと不快に思うだろうから出会わないように気をつけている」らしい。そんな気遣い無用だそ、おい。

 オレがいたらあの子が行きにくいだろうと、しばらくいつきさんの夕食にも行かなかった。しかしなかなか彼女と接触できないので久しぶりに行ってみればなんと彼女もオレの休日は食堂に食べに来なくなっていたらしい。

「土日くらいしっかり自炊したいとのことですけど……朝も昼もちゃんと自炊されてるんですけどねぇ。でもこちらも無理強いできませんし」

 と、いつきさんから早くなんとかしろと無言の圧力をかけられる。気まずすぎる。


 今日は休日。花子と散歩に行こうと思い、玄関を開けようとしたら外が何やら騒がしい。
 ゆっくり玄関のドアをあけると朝から伊織と橘さんが門を閉めきり、花子を庭に放して遊ばせていた。伊織がボールを投げれば嬉しそうに全速力で追いかける花子、橘さんがボールを投げれば飛距離がでないからか、余裕のある足取りで走る花子。皆が楽しそうに笑っている。
 オレに気がついたら確実に花子が飛んでくる。そうなればあの子の楽しい時間が終わってしまうわけで……仕方ない、少し時間をずらそう。

 再びゆっくりとドアを閉めて部屋に戻り、先ほどの光景を思い出す。
 他の人に向ける笑顔を自分にだけ向けてもらえないのは結構堪える。自分勝手だとはわかっちゃいるけど。
  一度植え付けられてしまった印象を修正するのはなかなか難しい。自業自得とはいえ……はぁ、なんかしんどい。
 いつか一緒に笑える日が来るんだろうか、と。そう思った自分に驚いたが、とりあえず自分のしでかした後始末だ。頑張るしかない。

 まさか数ヶ月後に礼子さんから「親父が2人に増えた……」と言われるハメになるとは、このとき思いもよらなかった。人間、何がきっかけで変わるかわからない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...