しゃんけ荘の人々

２．２０２号室 住人 宮間礼子

２３．

　朝、出勤のために玄関を出たところで鈴ちゃんと出会った。

「礼子さん！おはようございます」
「おはよう、鈴ちゃん。早いわね？」

　確かまだ大学は始まっていないはずだ。

「はい、花ちゃんと一緒にお散歩したくて」

　鈴ちゃんはニコニコ笑う。
　ふんわりナチュラルボブになった彼女はとてもキュートだ。良くやった、アタシ！と、自画自賛してたら店長にも褒められた。

『あの子、いい笑顔で帰っていったわね？うまく寄り添えた？』と。

　店長は技術はもちろんだが、いつもお客様に寄り添い心を開きなさいと言っている。こちらが壁を作るとお客様もそれを感じ取って壁を作るのでリラックスできずに時間を過ごすことになるからと。個人差はあれ、人は満たされると知らず笑顔になるものらしい。

「美沙恵ちゃんに髪型褒められました」

  鈴ちゃんがはにかむ。
　実は昨日、鈴ちゃんが店から帰り際に、こっそりふたりで一緒に写真を撮った。美沙恵に送ってビックリさせようと。 そしてアタシとも仲良くやってますよアピールも含めていたんだけど。

「それで、美沙恵ちゃんが困ってましたよ？ずっと礼子さんにお世話になってたから。あっちで生活してる間、美容院どうしようかなって」

　フフと笑う鈴ちゃんを見て、本当に印象が変わったなぁと思う。この子こんなに笑う子だったっけ？

「鈴ちゃんの髪はアタシがしっかり面倒みてあげるから心配しなくていいわよ」

　ニヤリ笑うと弾けるような笑顔を返された。

「はい！お願いします」

　その純粋な笑顔が心臓に突き刺さる。あ、ダメだ。この子野放しにしちゃいけない子だ。今更だけどいつきの気持ちがわかった。めんどくさい親父だと思ってゴメン。アタシもめんどくさい姉になりそうだ。