しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

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2.202号室 住人 宮間礼子

13.

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「礼子ちゃん!ゴメン!今すぐ店にきてっ」

 それは勤務先の店長からの電話だった。同僚のユキヒロが仕事中に倒れて病院に運ばれたので人手が足りないとのことだった。
 1歳年上のユキヒロはヘアーサロン「アラキ」の看板スタイリストだ。見目良く、話術も巧みでしかも腕がいいので若い女性やおばさま世代までファン層は幅広い。
そういった人種は男性客からは敬遠されそうなものだが、何故か若い男性からの人気も高い。
 それはさておき、風邪もひかない健康優良児の見本のような男が、何がどうして病院に運ばれたのか。とりあえず仕事場へ行けば詳細がわかるはずだ。パニック状態の店長の電話では要領を得ない。

 慌ただしく出かける準備をし、玄関をでる。鍵をしっかりかけてから一気に廊下を走り抜け階段を駆け下りる。途中、管理人のいつきが坂の下の商店街の電機屋藤田の店主とエアコンの室外機を囲んで話をしているのがみえた。
 ドタバタと足音がうるさかったのか藤田のおっちゃんが声をかけてきた。

「礼子ちゃん、そんなに走っちゃ危ないよ」

「大丈夫!毎日鍛えてるから!」

 毎日恐怖の坂道を上り下りして鍛えてるのだ。そこらの人と一緒にしてもらっちゃ困る。

 門に向かって走っていると、前方に立ち尽くす人影が見えた。通りすがりにしてはこちらをしっかり見てるし、そもそもこんな所、ここに用事がなければやってはこないはずなので、ここに用事がある客だろう。

 立っているのはグレーのダッフルコートの女の子。近づくにつれて容貌がはっきりと見えてきた。
 そして彼女の目の前にたどり着いて愕然とした。

  何でその髪型なんだ?って問い詰めたくなるのは職業病なのか。フワフワした髪質が全く活かされていない「ただ伸ばしてみました」のロングヘア。しかも「とりあえずまとめてみました」の低めポニーテール。前髪は……多分、自分で切ってるわね、この子。

「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」

 女の子は目を見開いたまま返事をしない。驚いてるのはわかるけど、時間がないのよ。急いでんのよ。

「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」

 いつきは今本宅の裏だ。呼び鈴で聞こえるかどうか怪しいもんだ。

「いつきぃ-、お客さんっ!」

 後ろを振り返り大声で叫んで呼んでおく。そして念のために玄関を教えておいた。これでとりあえずどうにかなるだろう。
 彼女のことは非常に非常に気になるが仕方がない。それよりも一刻も早くこの坂をおりて仕事場に行かなければならないのだ。
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