13 / 44
2.202号室 住人 宮間礼子
13.
しおりを挟む
「礼子ちゃん!ゴメン!今すぐ店にきてっ」
それは勤務先の店長からの電話だった。同僚のユキヒロが仕事中に倒れて病院に運ばれたので人手が足りないとのことだった。
1歳年上のユキヒロはヘアーサロン「アラキ」の看板スタイリストだ。見目良く、話術も巧みでしかも腕がいいので若い女性やおばさま世代までファン層は幅広い。
そういった人種は男性客からは敬遠されそうなものだが、何故か若い男性からの人気も高い。
それはさておき、風邪もひかない健康優良児の見本のような男が、何がどうして病院に運ばれたのか。とりあえず仕事場へ行けば詳細がわかるはずだ。パニック状態の店長の電話では要領を得ない。
慌ただしく出かける準備をし、玄関をでる。鍵をしっかりかけてから一気に廊下を走り抜け階段を駆け下りる。途中、管理人のいつきが坂の下の商店街の電機屋藤田の店主とエアコンの室外機を囲んで話をしているのがみえた。
ドタバタと足音がうるさかったのか藤田のおっちゃんが声をかけてきた。
「礼子ちゃん、そんなに走っちゃ危ないよ」
「大丈夫!毎日鍛えてるから!」
毎日恐怖の坂道を上り下りして鍛えてるのだ。そこらの人と一緒にしてもらっちゃ困る。
門に向かって走っていると、前方に立ち尽くす人影が見えた。通りすがりにしてはこちらをしっかり見てるし、そもそもこんな所、ここに用事がなければやってはこないはずなので、ここに用事がある客だろう。
立っているのはグレーのダッフルコートの女の子。近づくにつれて容貌がはっきりと見えてきた。
そして彼女の目の前にたどり着いて愕然とした。
何でその髪型なんだ?って問い詰めたくなるのは職業病なのか。フワフワした髪質が全く活かされていない「ただ伸ばしてみました」のロングヘア。しかも「とりあえずまとめてみました」の低めポニーテール。前髪は……多分、自分で切ってるわね、この子。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
女の子は目を見開いたまま返事をしない。驚いてるのはわかるけど、時間がないのよ。急いでんのよ。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
いつきは今本宅の裏だ。呼び鈴で聞こえるかどうか怪しいもんだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
後ろを振り返り大声で叫んで呼んでおく。そして念のために玄関を教えておいた。これでとりあえずどうにかなるだろう。
彼女のことは非常に非常に気になるが仕方がない。それよりも一刻も早くこの坂をおりて仕事場に行かなければならないのだ。
それは勤務先の店長からの電話だった。同僚のユキヒロが仕事中に倒れて病院に運ばれたので人手が足りないとのことだった。
1歳年上のユキヒロはヘアーサロン「アラキ」の看板スタイリストだ。見目良く、話術も巧みでしかも腕がいいので若い女性やおばさま世代までファン層は幅広い。
そういった人種は男性客からは敬遠されそうなものだが、何故か若い男性からの人気も高い。
それはさておき、風邪もひかない健康優良児の見本のような男が、何がどうして病院に運ばれたのか。とりあえず仕事場へ行けば詳細がわかるはずだ。パニック状態の店長の電話では要領を得ない。
慌ただしく出かける準備をし、玄関をでる。鍵をしっかりかけてから一気に廊下を走り抜け階段を駆け下りる。途中、管理人のいつきが坂の下の商店街の電機屋藤田の店主とエアコンの室外機を囲んで話をしているのがみえた。
ドタバタと足音がうるさかったのか藤田のおっちゃんが声をかけてきた。
「礼子ちゃん、そんなに走っちゃ危ないよ」
「大丈夫!毎日鍛えてるから!」
毎日恐怖の坂道を上り下りして鍛えてるのだ。そこらの人と一緒にしてもらっちゃ困る。
門に向かって走っていると、前方に立ち尽くす人影が見えた。通りすがりにしてはこちらをしっかり見てるし、そもそもこんな所、ここに用事がなければやってはこないはずなので、ここに用事がある客だろう。
立っているのはグレーのダッフルコートの女の子。近づくにつれて容貌がはっきりと見えてきた。
そして彼女の目の前にたどり着いて愕然とした。
何でその髪型なんだ?って問い詰めたくなるのは職業病なのか。フワフワした髪質が全く活かされていない「ただ伸ばしてみました」のロングヘア。しかも「とりあえずまとめてみました」の低めポニーテール。前髪は……多分、自分で切ってるわね、この子。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
女の子は目を見開いたまま返事をしない。驚いてるのはわかるけど、時間がないのよ。急いでんのよ。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
いつきは今本宅の裏だ。呼び鈴で聞こえるかどうか怪しいもんだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
後ろを振り返り大声で叫んで呼んでおく。そして念のために玄関を教えておいた。これでとりあえずどうにかなるだろう。
彼女のことは非常に非常に気になるが仕方がない。それよりも一刻も早くこの坂をおりて仕事場に行かなければならないのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる