しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

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1.203号室 住人 橘鈴音

11.

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 食堂に戻ると伊織くんが英語のテキストとにらめっこしていた。

「あ。鈴ねーちゃん、お帰りっ!花子、大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。可愛いかった!」
 
「橘さんがウチを下宿先に決めていただけたので花子も喜んでましたよ」

「「え!?」」

 伊織くんと私の声が重なった。
 いつの間にそんな話になってるの??検討するんじゃなかったけ?

「花子は桜並木や紅葉の散歩コースは少し遠出になるので好きなんですよ。橘さんが一緒に散歩に行ってくれるとおっしゃったので喜んでましたよ?子犬の頃から一緒にいますからね。花子の感情は手に取るようにわかります」

 伊織くんが「そんなわけあるかっ」って呟いてるけど。
 それよりも一緒にお散歩するってことは、ここに住むってことになっちゃうのか?
 困惑してると管理人さんが心配そうにのぞき込んできた。

「何か不都合が?」

 不都合?不都合って……何だろう?

「通学にはどれくらいかかりそうですか?」

「電車で3駅向こうですね」

「食事はいかがでしたか?」

「ものすごく美味しいお料理ですよね」

「時々デザートもついてきますよ」

「あれは本当に……いくらでも食べたいですね」

「住人は?」

「伊織くんはいい子ですよね。他の方はわかりませんけど」

「他に何か不都合が?」

 あれ?何が問題だったんだっけ?

「……ねーちゃん、坂道は?」

 あ、そうだ!坂道!

「……慣れると10分もかかりませんよ。ね?美沙恵さん?」

「うん、すぐに慣れるよ~。ちょっとした負荷がダイエットにもなるしね?」

 のんびり聞いていた美沙恵ちゃんがニコニコしながら答える。

「それに猫は大丈夫でしたよね?」

「ノラちゃん、可愛いです!」

「犬も大丈夫ですよね?」

「花ちゃん、もちろん可愛いです!」

「明日、お時間があるようでしたら花子と少し遊んで行ってくださいね?散歩に行く前に少しでも慣れていた方がいいですからね?」

 え?花ちゃんと遊べるの!

「細々とした契約内容はまた親御さんを交えて後日となりますが。もう家族同然ですからね?花子も早く一緒に遊びたいと思ってますよ。お気に入りのボールがあるのでそれで遊びましょう。ここの庭は広いので花子も思いっきり走れますから。」

 管理人さんがツラツラと花ちゃんのお話をしてくれていたので私は気づかなかった。


「……なぁ、美沙恵ねーちゃん。鈴ねーちゃん大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないからここに呼んだんだよ~。伊織くん、後頼んだよ~」

 なんて会話が伊織くんと美沙ちゃんの間で交わされていたことを。
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