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1.203号室 住人 橘鈴音
6.
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3人で「おいしいぃ」を連呼しながらケーキを食べた。だって本当に美味しいからね、幸せ。
アッサムの香りを楽しみながらホクホクしてしまう。紅茶の楽しみを教えてくれたのは美沙恵ちゃんだ。美沙恵ちゃんの入れてくれる紅茶は絶品だ。同じお茶でも何故か美味しいんだよね。
嗜好品の飲み物も各自が持ち寄っていて、紅茶は美沙恵ちゃんセレクションらしい。茶葉で入れるのは美沙恵ちゃんとガトーショコラのみっちゃんさんだけだそう。
「鈴ちゃん来てくれるならこの子達も喜ぶよ~」
そう言って戸棚にずらりと並ぶ茶葉コレクションを披露してくれたのだけれど。紅茶屋さんですか?と問いたくなるような数だよ、美沙恵ちゃん。
自分の部屋に置いとくと狭いのでここに置いてるそうだ。浴室がない分キッチンスペースが広いのだそう。
「あ~、いつきくんのコーヒー美味しいよねぇ。これが飲めなくなるのは残念だなぁ」
美沙恵ちゃんはご機嫌でコーヒーを飲んでいる。紅茶派の美沙恵ちゃんがコーヒー飲むのは珍しい。あれ?って思ってたら
「別にコーヒーが嫌いなわけじゃないからねぇ。とびきり美味しくコーヒー入れてくれるいつきくんがいるんだからさ。選ぶなら自分でいつでも入れられる紅茶よりコーヒーでしょ」
とのことだった。納得。
「夕方にお時間をいただこうかと思っていいたのですが、今少しだけよろしいですか?」
あ、面接のことかな?美沙恵ちゃんを見ると
「私はいいいよ」とうなずいてくれた。
「はい、ではお願いします」
「あ、そんなに緊張なさらないでくださいね」
管理人さんはふわりと笑う。あ、なんかこの人和むなぁ。お兄ちゃんいたらこんなカンジなのかな。
「まず最大の問題なんですが。ノラがこのように出入りするので猫が苦手な方は難しいのですが」
はい、もちろん大丈夫です。ノラが膝の上で眠ってる美沙恵ちゃんが羨ましいくらいです。後で抱っこさせて貰えるかなぁ。
「ノラは橘さんのことを気に入ってるみたいなのですぐに懐いてくれますよ」
懐いてる?これで?ずっと無視されてるんだけど。
「本当だよ~。だって初対面の人がいるのにタワーに逃げ込まないで寛いでいるからね。いくらなんでも流石に初対面の人にまで警戒心ゼロにはならないよ~」
美沙恵ちゃんがノラちゃんを撫でながら答えてくれる。
そうなの?ノラちゃん、仲良くなれるのかなぁ。面接中だけど顔がにやけちゃうよ。
「抱っこしてみる?」
したいよ!でも大丈夫なのかなぁ。
「この子、ずーっと鈴ちゃんのこと気にしてるんだよ~。はい、いっといで」
そういって美沙恵ちゃんがノラちゃんを私の膝に乗せてくれた。
ノラちゃんは一瞬、体を硬直させてからそろりと体制を立て直して膝の上で丸まった!え?何これ。可愛い!それに温かい。
そろりと美沙恵ちゃんのように背中を撫でてみる。おお、ツルツルしてる。わぁ、気持ちいいなぁ、可愛いなぁ。もうニヤニヤが止まんないよ。
「もう、可愛いなぁ」
美沙恵ちゃんの声で我に返った。そうだ。面接中だった!でも初膝乗りはこのまま継続でお願いします。私からはとてもじゃないけど手放せないよ。
慌てて管理人さんの方を向く。
「猫の件は大丈夫ですね。あ、それと実は犬も飼ってまして」
なんと!ここは動物天国ですか?
「基本、僕の住まいで飼ってるんですが、時々ノラと遊ばせたりしています」
え?どういうこと?
「子犬の頃ノラが一緒にいたからか……ものすごく懐いてましてね。犬は大丈夫ですか?」
「はい!犬も大好きです」
どんな子だろう。まさかわんちゃんまでいるなんて。
「……可愛らしい小型犬ではないんですけど。大型犬で。ジャーマンシェパードなんですけど」
全然、まったくもって平気ですよ。大型犬なんて一生飼えないと思ってたのに。こんなに身近で会えるなんて!……うん?ジャーマンシェパード?
「あ、今は住人の方と散歩に行ってていないのでまた帰ってきたら紹介しますね。それと……」
それからも色々と話は続いた。とりあえずここのアパートは住人同士が仲良くて距離間が思っている以上に近いそうで、それを煩わしく思うなら生活していくのはうるさいかもしれないらしい。
「ひとり暮らしに孤独を感じることなく、第2の故郷だといえるくらい居心地の良い住まいを、がここのコンセプトなんです」
あ、じんわりいい話だなぁ。
「ちょっと通勤通学に不便だからね~。他との差別化は必要だよね~」
美沙恵ちゃんののんびりした声で現実に引き戻された。
そうだ。あの坂道だよね。暮らすとなるとどうしても避けては通れないよね。
「坂道というのは実はものすごく貴重なんですよ。平地のウォーキングよりも筋力がつきますしそれに伴いカロリー消費が増えます。血流も改善されて老廃物も排出しやすくなります。心肺機能も強化されてスタミナもアップです。最初は大変ですが、すぐに慣れるので皆さん健康な体を意識せずとも自然に維持されてます」
よどみない説明にちょっとびっくりだ。
「美沙恵さんもすぐに慣れましたよね?」
迫力ある笑顔で管理人さんは美沙恵ちゃんに問いかける。
「うん、思ってたより早く慣れるよ。夏はちょっとしんどいけどねぇ」
やっぱり!
アッサムの香りを楽しみながらホクホクしてしまう。紅茶の楽しみを教えてくれたのは美沙恵ちゃんだ。美沙恵ちゃんの入れてくれる紅茶は絶品だ。同じお茶でも何故か美味しいんだよね。
嗜好品の飲み物も各自が持ち寄っていて、紅茶は美沙恵ちゃんセレクションらしい。茶葉で入れるのは美沙恵ちゃんとガトーショコラのみっちゃんさんだけだそう。
「鈴ちゃん来てくれるならこの子達も喜ぶよ~」
そう言って戸棚にずらりと並ぶ茶葉コレクションを披露してくれたのだけれど。紅茶屋さんですか?と問いたくなるような数だよ、美沙恵ちゃん。
自分の部屋に置いとくと狭いのでここに置いてるそうだ。浴室がない分キッチンスペースが広いのだそう。
「あ~、いつきくんのコーヒー美味しいよねぇ。これが飲めなくなるのは残念だなぁ」
美沙恵ちゃんはご機嫌でコーヒーを飲んでいる。紅茶派の美沙恵ちゃんがコーヒー飲むのは珍しい。あれ?って思ってたら
「別にコーヒーが嫌いなわけじゃないからねぇ。とびきり美味しくコーヒー入れてくれるいつきくんがいるんだからさ。選ぶなら自分でいつでも入れられる紅茶よりコーヒーでしょ」
とのことだった。納得。
「夕方にお時間をいただこうかと思っていいたのですが、今少しだけよろしいですか?」
あ、面接のことかな?美沙恵ちゃんを見ると
「私はいいいよ」とうなずいてくれた。
「はい、ではお願いします」
「あ、そんなに緊張なさらないでくださいね」
管理人さんはふわりと笑う。あ、なんかこの人和むなぁ。お兄ちゃんいたらこんなカンジなのかな。
「まず最大の問題なんですが。ノラがこのように出入りするので猫が苦手な方は難しいのですが」
はい、もちろん大丈夫です。ノラが膝の上で眠ってる美沙恵ちゃんが羨ましいくらいです。後で抱っこさせて貰えるかなぁ。
「ノラは橘さんのことを気に入ってるみたいなのですぐに懐いてくれますよ」
懐いてる?これで?ずっと無視されてるんだけど。
「本当だよ~。だって初対面の人がいるのにタワーに逃げ込まないで寛いでいるからね。いくらなんでも流石に初対面の人にまで警戒心ゼロにはならないよ~」
美沙恵ちゃんがノラちゃんを撫でながら答えてくれる。
そうなの?ノラちゃん、仲良くなれるのかなぁ。面接中だけど顔がにやけちゃうよ。
「抱っこしてみる?」
したいよ!でも大丈夫なのかなぁ。
「この子、ずーっと鈴ちゃんのこと気にしてるんだよ~。はい、いっといで」
そういって美沙恵ちゃんがノラちゃんを私の膝に乗せてくれた。
ノラちゃんは一瞬、体を硬直させてからそろりと体制を立て直して膝の上で丸まった!え?何これ。可愛い!それに温かい。
そろりと美沙恵ちゃんのように背中を撫でてみる。おお、ツルツルしてる。わぁ、気持ちいいなぁ、可愛いなぁ。もうニヤニヤが止まんないよ。
「もう、可愛いなぁ」
美沙恵ちゃんの声で我に返った。そうだ。面接中だった!でも初膝乗りはこのまま継続でお願いします。私からはとてもじゃないけど手放せないよ。
慌てて管理人さんの方を向く。
「猫の件は大丈夫ですね。あ、それと実は犬も飼ってまして」
なんと!ここは動物天国ですか?
「基本、僕の住まいで飼ってるんですが、時々ノラと遊ばせたりしています」
え?どういうこと?
「子犬の頃ノラが一緒にいたからか……ものすごく懐いてましてね。犬は大丈夫ですか?」
「はい!犬も大好きです」
どんな子だろう。まさかわんちゃんまでいるなんて。
「……可愛らしい小型犬ではないんですけど。大型犬で。ジャーマンシェパードなんですけど」
全然、まったくもって平気ですよ。大型犬なんて一生飼えないと思ってたのに。こんなに身近で会えるなんて!……うん?ジャーマンシェパード?
「あ、今は住人の方と散歩に行ってていないのでまた帰ってきたら紹介しますね。それと……」
それからも色々と話は続いた。とりあえずここのアパートは住人同士が仲良くて距離間が思っている以上に近いそうで、それを煩わしく思うなら生活していくのはうるさいかもしれないらしい。
「ひとり暮らしに孤独を感じることなく、第2の故郷だといえるくらい居心地の良い住まいを、がここのコンセプトなんです」
あ、じんわりいい話だなぁ。
「ちょっと通勤通学に不便だからね~。他との差別化は必要だよね~」
美沙恵ちゃんののんびりした声で現実に引き戻された。
そうだ。あの坂道だよね。暮らすとなるとどうしても避けては通れないよね。
「坂道というのは実はものすごく貴重なんですよ。平地のウォーキングよりも筋力がつきますしそれに伴いカロリー消費が増えます。血流も改善されて老廃物も排出しやすくなります。心肺機能も強化されてスタミナもアップです。最初は大変ですが、すぐに慣れるので皆さん健康な体を意識せずとも自然に維持されてます」
よどみない説明にちょっとびっくりだ。
「美沙恵さんもすぐに慣れましたよね?」
迫力ある笑顔で管理人さんは美沙恵ちゃんに問いかける。
「うん、思ってたより早く慣れるよ。夏はちょっとしんどいけどねぇ」
やっぱり!
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