しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

文字の大きさ
上 下
6 / 44
1.203号室 住人 橘鈴音

6.

しおりを挟む
 3人で「おいしいぃ」を連呼しながらケーキを食べた。だって本当に美味しいからね、幸せ。

  アッサムの香りを楽しみながらホクホクしてしまう。紅茶の楽しみを教えてくれたのは美沙恵ちゃんだ。美沙恵ちゃんの入れてくれる紅茶は絶品だ。同じお茶でも何故か美味しいんだよね。

 嗜好品の飲み物も各自が持ち寄っていて、紅茶は美沙恵ちゃんセレクションらしい。茶葉で入れるのは美沙恵ちゃんとガトーショコラのみっちゃんさんだけだそう。

「鈴ちゃん来てくれるならこの子達も喜ぶよ~」

 そう言って戸棚にずらりと並ぶ茶葉コレクションを披露してくれたのだけれど。紅茶屋さんですか?と問いたくなるような数だよ、美沙恵ちゃん。
 自分の部屋に置いとくと狭いのでここに置いてるそうだ。浴室がない分キッチンスペースが広いのだそう。

「あ~、いつきくんのコーヒー美味しいよねぇ。これが飲めなくなるのは残念だなぁ」

 美沙恵ちゃんはご機嫌でコーヒーを飲んでいる。紅茶派の美沙恵ちゃんがコーヒー飲むのは珍しい。あれ?って思ってたら

「別にコーヒーが嫌いなわけじゃないからねぇ。とびきり美味しくコーヒー入れてくれるいつきくんがいるんだからさ。選ぶなら自分でいつでも入れられる紅茶よりコーヒーでしょ」

 とのことだった。納得。

「夕方にお時間をいただこうかと思っていいたのですが、今少しだけよろしいですか?」

あ、面接のことかな?美沙恵ちゃんを見ると

「私はいいいよ」とうなずいてくれた。

「はい、ではお願いします」

「あ、そんなに緊張なさらないでくださいね」

 管理人さんはふわりと笑う。あ、なんかこの人和むなぁ。お兄ちゃんいたらこんなカンジなのかな。

「まず最大の問題なんですが。ノラがこのように出入りするので猫が苦手な方は難しいのですが」

 はい、もちろん大丈夫です。ノラが膝の上で眠ってる美沙恵ちゃんが羨ましいくらいです。後で抱っこさせて貰えるかなぁ。

「ノラは橘さんのことを気に入ってるみたいなのですぐに懐いてくれますよ」

 懐いてる?これで?ずっと無視されてるんだけど。

「本当だよ~。だって初対面の人がいるのにタワーに逃げ込まないで寛いでいるからね。いくらなんでも流石に初対面の人にまで警戒心ゼロにはならないよ~」

 美沙恵ちゃんがノラちゃんを撫でながら答えてくれる。
 そうなの?ノラちゃん、仲良くなれるのかなぁ。面接中だけど顔がにやけちゃうよ。

「抱っこしてみる?」

 したいよ!でも大丈夫なのかなぁ。

「この子、ずーっと鈴ちゃんのこと気にしてるんだよ~。はい、いっといで」

 そういって美沙恵ちゃんがノラちゃんを私の膝に乗せてくれた。
 ノラちゃんは一瞬、体を硬直させてからそろりと体制を立て直して膝の上で丸まった!え?何これ。可愛い!それに温かい。

 そろりと美沙恵ちゃんのように背中を撫でてみる。おお、ツルツルしてる。わぁ、気持ちいいなぁ、可愛いなぁ。もうニヤニヤが止まんないよ。

「もう、可愛いなぁ」

 美沙恵ちゃんの声で我に返った。そうだ。面接中だった!でも初膝乗りはこのまま継続でお願いします。私からはとてもじゃないけど手放せないよ。
 慌てて管理人さんの方を向く。

「猫の件は大丈夫ですね。あ、それと実は犬も飼ってまして」

 なんと!ここは動物天国ですか?

「基本、僕の住まいで飼ってるんですが、時々ノラと遊ばせたりしています」
 
 え?どういうこと?

「子犬の頃ノラが一緒にいたからか……ものすごく懐いてましてね。犬は大丈夫ですか?」

「はい!犬も大好きです」

 どんな子だろう。まさかわんちゃんまでいるなんて。

「……可愛らしい小型犬ではないんですけど。大型犬で。ジャーマンシェパードなんですけど」

 全然、まったくもって平気ですよ。大型犬なんて一生飼えないと思ってたのに。こんなに身近で会えるなんて!……うん?ジャーマンシェパード?

「あ、今は住人の方と散歩に行ってていないのでまた帰ってきたら紹介しますね。それと……」

 それからも色々と話は続いた。とりあえずここのアパートは住人同士が仲良くて距離間が思っている以上に近いそうで、それを煩わしく思うなら生活していくのはうるさいかもしれないらしい。

「ひとり暮らしに孤独を感じることなく、第2の故郷だといえるくらい居心地の良い住まいを、がここのコンセプトなんです」

 あ、じんわりいい話だなぁ。

「ちょっと通勤通学に不便だからね~。他との差別化は必要だよね~」

 美沙恵ちゃんののんびりした声で現実に引き戻された。
 そうだ。あの坂道だよね。暮らすとなるとどうしても避けては通れないよね。

「坂道というのは実はものすごく貴重なんですよ。平地のウォーキングよりも筋力がつきますしそれに伴いカロリー消費が増えます。血流も改善されて老廃物も排出しやすくなります。心肺機能も強化されてスタミナもアップです。最初は大変ですが、すぐに慣れるので皆さん健康な体を意識せずとも自然に維持されてます」

 よどみない説明にちょっとびっくりだ。

「美沙恵さんもすぐに慣れましたよね?」

 迫力ある笑顔で管理人さんは美沙恵ちゃんに問いかける。

「うん、思ってたより早く慣れるよ。夏はちょっとしんどいけどねぇ」

 やっぱり!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...