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1.203号室 住人 橘鈴音
5.
しおりを挟む再び玄関のドアが開いた。
とたんにノラがむくりと起き上がり、玄関の方へと駆け寄っていく。
「あ、ノラただいま~。鈴ちゃん、遅くなってごめんね~」
あ、美沙恵ちゃんだ。
「美沙恵ねーちゃん、お帰り」
そう言って伊織くんは立ち上がる。
ノラが美沙恵ちゃんの足にスリスリしてる。いいなぁ。
靴を脱ぐためにしゃがんだ美沙恵ちゃんの背後から瀬川さんが姿を現した。
「スミマセン、お待たせしました。あれ?伊織?」
靴を脱いだ美沙恵ちゃんと瀬川さんが部屋へと入ってくる。
「部活は?」
「テスト前だから昼までだった」
え、そうなの?じゃぁ早く勉強しなきゃじゃない。もしかして私に付き合ってくれてたのかなぁ。悪いことしたなぁ。
伊織くんはスポーツバックを手に部屋を出て行こうとしていた。
「あ、みっちゃんのケーキが冷蔵庫にはいってたから」
「わ~、甘い物欲しかったんだ~。伊織くん、食べた?」
「うん、さっき鈴ねーちゃんと。な?」
急に話を振られて驚いた。
「うん、めちゃくちゃ美味しいガトーショコラだった」
「やった~。ガトーショコラ好き」
美沙恵ちゃんはニコニコだ。お菓子でニコニコさせてしまうみっちゃんさんは凄い人だなぁ。
「じゃ、帰るね。鈴ねーちゃん、またね」
「あ、ありがとう」
伊織くんはさわやか笑顔で去って行った。あの子、きっと学校で女の子に人気あるんだろうなぁ。
「美沙恵さん、ケーキどうされますか?」
瀬川さんが冷蔵庫を開けながら問いかける。
「ここで食べてくよ。いつきくんもまだでしょ??一緒に食べよう。もちろん鈴ちゃんも」
「え?私さっきいただいたよ?」
「大丈夫、大丈夫。みっちゃんのガトーショコラ軽いからいくらでもペロリだよ~」
いや、確かにそうなんだけど。私が食べたら他の人の分がなくなっちゃうんじゃないのかな。
「大丈夫、大丈夫。皆が皆食べないし。最終日に伊織くんのお腹に入る量が若干減るだけだから」
え?それってよくないんじゃないの?って思いながらも押し切られてしまうのが私だ。
「いつきくん、私の分もコーヒー入れて~。鈴ちゃんには私が紅茶入れてあげるね。さっきは何飲んだの?」
ケトルでお湯を沸かしながら美沙恵ちゃんは問う。
隣で瀬川さんはコーヒーの準備。年格好が似てるからかな。なんだか美沙恵ちゃんと瀬川さん、二人並ぶとお似合いだよね。もちろん美沙恵ちゃんのお婿さんは瀬川さんじゃないけど。
「アールグレイ入れてもらったよ」
「ならアッサム入れたげるね」
そういうとどこからともなくポットと茶葉を取り出してきた。あれ?ティーパックじゃない?
「橘さんは紅茶がお好きなんですか?」
不意に瀬川さんから声をかけられた。
「あ、はい」
「紅茶はもちろん大好きだけど、コーヒー苦手なんだよね~」
美沙恵ちゃん!わざわざ言わなくていいから!
「そうなんですか?コーヒーの香りは大丈夫ですか?」
瀬川さんは心配そうに問いかける。その手元にはドリップ準備万端のコーヒーが鎮座していた。いつの間に?素早い。
「あ、大丈夫です」
時々、本当に時々ダメなときもあるけど、今は大丈夫だ。
「体長悪いときは香りもダメなんだよね~。嗜好の問題というより体質だから仕方ないよね~」
あ~、美沙恵ちゃん、もうその辺でご勘弁を……。
へにゃりと眉が下がってしまう。
「大丈夫だよ~。いつきくん、腹黒だけど優しいから。そんなことじゃ鈴ちゃんをバカにしたり怒ったりしないから~」
み、美沙恵ちゃん?何か今さらーっと、聞いてはいけない類いの言葉が聞こえてきたような気がしたんだけど。え?この人こんなに温和そうなのに腹黒いの??
ぎょっとして瀬川さんを思わず見てしまった。あ、気まずい。目が合っちゃったよ。
「橘さんはどんな種類の紅茶が好きなんですか?日本茶はお好きですか?」
美沙恵ちゃんの言葉が聞こえてないはずはないのに。瀬川さんはニッコリ微笑んで美沙恵ちゃんの言葉をまるっと無視した。オトナって……すごいなぁ。
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