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1.203号室 住人 橘鈴音
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休憩をはさみつつ、のろのろと足を進めること約20分。レンガとアイアインの門に囲まれた2階建ての建物が目前に現れた。美沙恵ちゃから送られてきた写真と一致するその建物が「しゃんけ荘」。レンガの壁で一部囲まれた建物はおしゃれな洋館風で、どちらかといえば横文字の名前がついてそうな外観だった。
敷地は思ったより広い。アパートらしき2階建ての建物が1棟、数メートル離れたところに建っている同じ色調の離れのような2階建ての建物が1棟。前面の庭にはもう1棟くらい建てられそうな余裕がある。
アパートの端には桜の木が1本あり、お花見の時期にはとても華やかになりそうだ。離れの前には家庭菜園のような花壇があって、……あ、ローズマリーやミントがある。少し離れて白い軽四と軽トラックが停まっていた。
さて、どうするかと思っていた矢先に、アパートらしき建物の2階の玄関ドアが勢いよく開き、中から若い女性が出てきた。彼女は玄関の鍵を(おそらく)かけて、慌ただしく走りだし、ロングウエーヴの髪を振り乱して走り寄り、あっという間に門をくぐり抜けて目の前に姿を現した。
見た目「大人なお姉さん」と視線が合った瞬間、彼女が目を見開いて立ち止まり一言。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
呆気にとられて無言でいると、なおもお姉さんは言葉を重ねる。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
迫力に押されてそう答えると、お姉さんは後ろを振り向いて大声で叫んだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
そしてくるりとこちらを振り返ると、アパートから数メートル離れたところに建っている同じ色調の建物を指さし「玄関あっち」と言い残して坂道を走ってくだっていった。
……今のは、何だったのだろうか。
お姉さんは、多分このアパートの住人。一応、案内?もしてくれた?のだろうか。大声で誰かを呼んでくれてたし。……聞こえてるかどうかはわからないけど。向かう先も教えてもらった。慌ただしかったけど、多分いい人だ。いい人だけど……。
髪型けなされたよね?
鈴音は腰まで伸びた髪をひとつまみ掴む。
友人の黒艶ロングヘアに憧れて真似して伸ばしてはみたものの、髪質の違いでまとまりがなく思ったような髪型にはならなかった。ただ、ひとまとめにすると手間がかからずお手軽だったのでそのまま伸ばし続けていた。受験勉強第一ででオシャレは後回しだという言い訳もオプションでつけていたかもしれない。
もともと美容院が苦手で、できるだけ行かなくて済む方法を求めた結果の髪型でもある。手抜きと言われればそのとおりで、返す言葉などない。返す言葉はないんだけど……なんかヘコむ。
「あのー」
「うわぁぁ!」
突然背後から声をかけられ、反射的に叫んだ。勢いよくぐるんと振り返るとそこには背の高いお兄さんがちょっとビックリしたような表情でこっちを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
びっくりした、びっくりした!だけど声かけただけで叫ばれたらお兄さんもびっくりだよね。恥ずかしい……。なんだろう、今日はなんかついてないよ。さっきからヘコむことばっかりだ。
「あ、こちらこそ急に声をかけてしまって申し訳ありません。えっと、もしかして橘さんですか?」
「はい、そうです」
「美沙恵さんからお話は伺っています。ようこそおいでくださいました。管理人の瀬川いつきです」
お兄さんがとてもふんわり柔らかく微笑むので、つられて笑顔になった。
「初めまして。橘鈴音です」
敷地は思ったより広い。アパートらしき2階建ての建物が1棟、数メートル離れたところに建っている同じ色調の離れのような2階建ての建物が1棟。前面の庭にはもう1棟くらい建てられそうな余裕がある。
アパートの端には桜の木が1本あり、お花見の時期にはとても華やかになりそうだ。離れの前には家庭菜園のような花壇があって、……あ、ローズマリーやミントがある。少し離れて白い軽四と軽トラックが停まっていた。
さて、どうするかと思っていた矢先に、アパートらしき建物の2階の玄関ドアが勢いよく開き、中から若い女性が出てきた。彼女は玄関の鍵を(おそらく)かけて、慌ただしく走りだし、ロングウエーヴの髪を振り乱して走り寄り、あっという間に門をくぐり抜けて目の前に姿を現した。
見た目「大人なお姉さん」と視線が合った瞬間、彼女が目を見開いて立ち止まり一言。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
呆気にとられて無言でいると、なおもお姉さんは言葉を重ねる。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
迫力に押されてそう答えると、お姉さんは後ろを振り向いて大声で叫んだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
そしてくるりとこちらを振り返ると、アパートから数メートル離れたところに建っている同じ色調の建物を指さし「玄関あっち」と言い残して坂道を走ってくだっていった。
……今のは、何だったのだろうか。
お姉さんは、多分このアパートの住人。一応、案内?もしてくれた?のだろうか。大声で誰かを呼んでくれてたし。……聞こえてるかどうかはわからないけど。向かう先も教えてもらった。慌ただしかったけど、多分いい人だ。いい人だけど……。
髪型けなされたよね?
鈴音は腰まで伸びた髪をひとつまみ掴む。
友人の黒艶ロングヘアに憧れて真似して伸ばしてはみたものの、髪質の違いでまとまりがなく思ったような髪型にはならなかった。ただ、ひとまとめにすると手間がかからずお手軽だったのでそのまま伸ばし続けていた。受験勉強第一ででオシャレは後回しだという言い訳もオプションでつけていたかもしれない。
もともと美容院が苦手で、できるだけ行かなくて済む方法を求めた結果の髪型でもある。手抜きと言われればそのとおりで、返す言葉などない。返す言葉はないんだけど……なんかヘコむ。
「あのー」
「うわぁぁ!」
突然背後から声をかけられ、反射的に叫んだ。勢いよくぐるんと振り返るとそこには背の高いお兄さんがちょっとビックリしたような表情でこっちを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
びっくりした、びっくりした!だけど声かけただけで叫ばれたらお兄さんもびっくりだよね。恥ずかしい……。なんだろう、今日はなんかついてないよ。さっきからヘコむことばっかりだ。
「あ、こちらこそ急に声をかけてしまって申し訳ありません。えっと、もしかして橘さんですか?」
「はい、そうです」
「美沙恵さんからお話は伺っています。ようこそおいでくださいました。管理人の瀬川いつきです」
お兄さんがとてもふんわり柔らかく微笑むので、つられて笑顔になった。
「初めまして。橘鈴音です」
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