カルコックに於ける沿革の神集

エムダビの弁明

2. フラップスの生誕

 エルジホスプトが周囲のとおり、人に堕ちて5ヶ月は、自信が神の身であったことなど覚えていなかった。

 人に穢されたエルジホスプト、すなわちフラップスを産み堕としたのはマルフィニという名をもつ12歳の女であった。
 男女の目交いなど覚えがなかったマルフィニは、お腹が膨らみ、強い悪阻がくるまで、自信が神を腹に宿していることなど知るはずもなかった。

 マルフィニの母、フラオスは日に日に腹が膨らんでいく娘に向かって酷い嫌悪感を覚えた。
 ましてや、もともと誠実で信心深い少女であったマルフィニが、自分の知らない箇所で子供を持つなど考えられなかったのだ。

 フラオスはフラップスの死産を試みた。
 その計画を知ったマルフィニは、大きなお腹を抱えて家屋の外へと逃げ出す。

 マルフィニには自信があった。

「この子は奇跡の子に違いない。きっと、パラベシュトリ様からの贈り物だわ」

 皮肉にも、その年からフラップスの兄であるパラベシュトリは人の神であった。
 さて、胎児を身ごもった母親がその足で逃げるには、ある程度無理がありすぎる。
 そのことが祟り、運悪くマルフィニは酷い陣痛に見舞われた。

 その場所はクレスルクの水道街であった。

 痛み、苦しみで動けぬ中、マルフィニはとうとう赤子を我らが霊長の世界へと放り投げたのだ。

 こうして、フラップスは人へと堕とされた。