虹恋、オカルテット(わけありな男子高校生と美少女たちの青春がオカルトすぎない?)

虹うた🌈

文字の大きさ
上 下
94 / 100
第四章 手紙

第94話 手紙  (上)

しおりを挟む
 目覚めると、時計の針は午前10時を過ぎていた。

 むくりと起き上がり、布団の上で大きな欠伸を一つ。
 障子越しに、明るい陽ざしが差し込んでいる。今日は、久しぶりに晴れ空の様だ。


 ……そういえば美月さん、昨夜は急にどうしたんだろう?
 直ぐに、出て行ってしまったけど……?

 寝癖頭をモシャモシャとして、ユウは洗面所で歯を磨きながら昨晩のことを思い出していた。
 まあ……、あっちにはあっちの都合があるんだろう。と考えながらスマートフォンの画面を確認するとSNSに一件のメッセージが入っていた。

『13時に輝命寺こうめいじに集合』と、オカ研のグループメッセージだ。


 ……そっか、今日は勉強会をする約束だったっけ、と『了』と返信する。


 しかし、久しぶりにゆっくりと寝た。

 窓の外を視界に写すと、陽ざしの明るさに目が眩む。その眩しさに目を細めながら、ユウは大きく伸びをした。
 リビングへ行くと母とユメは出掛けた後で、テーブルの上には美味しそうな朝食が用意されていた。

『ちゃんと食べてね☆お兄ちゃん!』

 と、書かれたメモを見ながら、思わず吹き出してしまった。だって、ユメが自分自身を描いたイラストが、あまりにもそっくりだったから。

「……いつも本当、ありがとうございます」

 誰もいない部屋で一人、ユウは深々と頭を下げた。



 自転車に跨って、輝命寺の門を潜ったのは約束の時間の10分程前だった。本堂に軽く一礼をしてから、紅葉と青葉の住む建物に向かう。
 呼び鈴を鳴らすと、暫くして玄関がガラガラと開いた。

「おはよう青葉。お邪魔します」

 そう挨拶した先には、今日も黒い服装で身を包んだ彼女が立っている。

 青葉はペコリとお辞儀をして、「いらっしゃいませ……」と挨拶し、自宅へユウを招き入れた。……メイドさんか?

「いずみは、もう来てるの?イヌさんは元気?」

 玄関で靴を脱ぎながら質問すると、彼女は――

「はい。皆、揃ってます。ユウが来るって五月蠅うるさいいので、イヌさんはゲージに入れてあります。……こっち、私に着いて来て」

 と……言うが早いか、スタスタと歩き始めてしまう。その様子に、いつもと違う険を感じながら、ユウは慌てて後を追いかけた。

 青葉は、前にお邪魔したリビングや自室がある正面には向かわず、長い廊下の中央を左へ曲がった。そして廊下を更に先に進み、渡り廊下を挟んで本堂へ歩いてゆく。
 そして本堂の木扉もくひの前に立ち、「……ここ」と、中へ入るよう促した。

 青葉に従い、本堂へ一歩足を踏み入れたユウは、その空気感の違いに言葉を失った。

 ―――明らかに、別空間。

 まるで深い森の中に一歩足を踏み入れた様な、凛とした空間に身と魂が引き締まっていくのを感じた。一礼をして、奥へと進む。

 右手側には御本尊があり、左手側には今は閉まっている参拝者用の開き戸。――そして正面には、紅葉といずみが少し距離を置いて正座をしていた。

 青葉はユウに彼女たちの正面に座る様に促し、自らは二人の左端に座った。つまりは御本尊様の目の前で、紅葉を中心に置いた三人とユウは向かい合う形になった。


「……先生? いずみ……? これって、一体どうしたの?」

 ユウが訝し気に尋ねると、逆に紅葉から質問が飛んできた。

「如月君こそ、私達に隠していること、あるんじゃない?」

 ユウを見つめる三人の目は、真剣だった。


「隠していること、ですか? 特には、何も……」

「それじゃあ、質問を変えるわね。貴方は夜な夜な女の子を部屋に招き入れて、何をしているの?」

 その問い掛けは、ユウの体をビクリ震わせた。

「……知っていたんですか。何をって、ただ話を……彼女達の、記憶を視せてもらっただけです」

「何の為に、そんな事をしているの?他人の記憶を視るって事は、視る方にとっては、とても苦しい。特に……彼女達の記憶は、とっても苦しかったでしょう?」

「……確かに、苦しい記憶もありました。でも……それだけじゃなかったです。楽しくて、幸せな記憶も沢山あったんですよ」

「貴方のしている事は、とても危険な行為なのよ。記憶を視るって事は、魂と魂が繋がるって事なの。悪霊と魂が繋がる事が、どんなに危険なのかって前にも話したでしょう?」

「――先生ッ!彼女達は悪霊なんかじゃないんです!彼女達には大切な人達がいて、彼女達を大切に想っている人達もいる!俺達と同じ、この世界に存在している仲間で先輩じゃないんですか!?大体、普通の霊と悪霊の違いって何ですかっ!?

 ……俺達だって、いずれ彼女達と同じになるんです。先生は、苦しんでいるのを分かっていて……、見て……見ないふりをしろって……言うんですか?」

 ユウの話を黙って聞いていた紅葉は、大きく溜息をついた。

「……貴方、私が渡したアミュレットはどうしたの?あの子を身に付けていれば、貴方に霊は近付けない筈だけど?」

「……ここに、あります」

 ユウは首から下げているアミュレットを、シャツの中から取り出して紅葉に見せた。

「寝る時は、妹達の部屋の前に掛けてあります。家族を巻き込みたくないので」

「そう、自分から呼び寄せているなら、いくら祓っても意味ないわね。
 それで貴方は、彼女達の記憶を視て何がしたいの?具体的にはどうやって、彼女達を苦しみから助けるつもり?」

「はい。彼女達は、今はあの事件の事はあまり覚えていない様です。
 もちろん個人差はありますが、覚えていた子も何度も話す内に少しずつ、その記憶は薄れていっている気がします。
 多分、誰かに話した事で少し落ち着いたんだと思います。

 元々、一番最初の被害者だった美月さんが、その後に被害に遭って、どうしたらいいか分からずにいる女の子達を集めて皆で仲良くやっていたみたいですから、美月さんのお陰ですね。

 今の彼女達の一番の問題は、残された家族や大切な人達との関係だと思います」

「……関係?」

「はい。今、彼女達は基本的には自分の家族や、大切な人の近くで過ごしています。 
 姿こそ視えませんが、生前と同じ様に過ごしているんです。
 そして学校に行くみたいに美月さんを中心に集まって、遊んだり相談しあったりしてるみたいです。

 ……ただ、残された家族は違います。突然いなくなった娘や恋人を必死で探したり、哀しみに暮れたり。

 もちろん残された家族にしてみれば当然の行動ですが、彼女達はその姿を見ているのが、とっても辛いんです。
 いくら話し掛けても届かない声を、いつまでも上げている。……でも、届かない。

 それに今回、事件の全貌が分かって…… 彼女達が亡くなっている事を知った家族の哀しみや憎しみは……  言わなくても……分かるでしょう?

 その姿を見ているのが…… 彼女達は、とっても辛いんです。

 だから……彼女達の声を代わりに伝えてあげられたら、残された人達の力に少しでもなれるんじゃないかって……俺、思いました。

 ……でも。
 これは、ただの自己満足なのかもしれません。

 逆に、傷付ける事になってしまうかもしれない。俺も、彼女達も分かっているんです。でも……それでも伝えなくちゃって……
 残された人も……彼女達も……先に、進めない気がしたんです」

 話し終わっても紅葉は黙ったままで、ユウを見つめたまま何も言わなかった。

 暫く―――  沈黙が続き。


「……そう。では、それを貴方がやる理由は何?彼女達も、彼女達の大切な人も、貴方とは赤の他人じゃない。
 自分の命を危険に晒してまで、貴方がその苦しみを減らす手伝いをする理由は?」

「……分かりません。
 自分のやろうとしている事が正しいのか、間違っているのかも分かりません。
 でも……心が言うんです。自分の心が、それをやれって、叫んで仕方ないんです」

 苦しい表情を浮かべながらも、ユウは紅葉から視線を逸らそうとはしなかった。
 先に視線を外したのは、彼女の方だ。考え事をしているのか、ずっと瞼を閉じたままだ。……そして、何故か辛そうな顔をしている。

 ユウも、そんな彼女を見ていることが辛くなって下を向いた。所在なげに、自分の太腿をずっと見つめていた。


「……貴方の気持ちは、分かった。それで具体的には、どのような方法で彼女達の気持ちを伝えるつもりなの?」

 急に話し掛けられて、あたふたしながらユウはリュックから何かを取り出した。

「――手紙です。彼女達の気持ちを綴った手紙を、渡すつもりです」

「……手紙。そうね、それが一番、伝わるかもしれないわね。……もし、よかったらその手紙読ませてもらえる?」

「あ……、はい。下書きだし、まだ2~3人分しか書けていないんですけど、もしよかったら、ぜひ読んでみて下さい」

 取り出したのは―― そう、便箋びんせんだった。その何枚もの便箋を、紅葉に手渡した。

「――ありがとう。それじゃあ、読ませてもらうね」


 ――今。
 彼女が、手紙に目を通している。


 「……すみません。俺……手紙とか書いたことなくて……下手くそだと思います。何が悪いのかも、よく分からなくて……」

 緊張しながら、彼女が読み終わるのを待った。自分が下手なりにでも一生懸命に書いたものを誰かに読んでもらうというのは、本当に落ち着かなかった。自分の腿を無意味に摩りながら、ユウの喉はカラカラに乾いてゆく。

「……この手紙、貴方一人で書いたの?」

 そして、どれだけの時が流れたのか分からないが、唐突に質問をされた。

「え……?あ、はい。一人で書きました。文章で誰かに何かを伝えるって、本当に難しいですね。上手く、なかったでしょう?」

「いえ、違うわ。とても良い手紙よ。伝えたい事が、書いた人の気持ちと一緒に伝わってくる。とても良い手紙だわ」

「そ、そうですか?ありがとうございます!」

「ねえ、ユウくん。私達も、読ませてもらってもいい?」

 と、いずみが手を挙げる。

「あ、ああ。恥ずかしいけど、皆の意見が聞けた方が参考になるから」

 いずみと青葉が、それぞれ手紙を受け取って読み始めた。紅葉も違う手紙を手に取って読んでいる。
 待っている間、ユウは生きている心地がしなかった。
 正直、裸を見られる方がマシだと思う程に、恥ずかしかった。

「…………うん。凄いよ、この手紙……。絶対に……伝わると思う。」

 いずみの声に恐る恐る顔を上げると、彼女は目に涙を浮かべて微笑んでいた。

「そうですね、私も良い手紙だと思います。正直に言えば、気持ちとかよく分からないんですけど、私……この手紙が好きです」

 青葉も、よく分からない感想を話してくれた。

 でも…… どちらも、手紙の内容には肯定的な様子だ。全く自信など無かったので、ユウは素直に胸を撫で下ろした。


「如月君に提案があるのだけれど、いいかしら?」

 手紙をユウに返しながら、紅葉が話し掛けてきた。

「……? 提案、ですか?」

「――ええ。貴方が、しようとしていることね。正しいのか、間違っているのかは、私には分からない。それは、その手紙を受け取った人が決めることだからね。
 でも、私達にも手伝わせてもらえないかしら?貴方が、しようとしていること」

「……え?」

「私たちオカルト研究部全員で、その手紙を完成させましょう?
 そして届けるの、その手紙を必要としている人達の元へ―――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

混浴温泉宿にて

花村いずみ
青春
熟女好きのたかしが経験したおばさん3人との出会い

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

処理中です...