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第三章 死闘
第84話 ……不安。
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日は完全に落ちて、辺りは真っ暗になっていた。
男達が連行された後、ユウ達はその場で警察に事情を聴かれた。本来なら警察署でじっくりと話を聴かれる処なのだろうが、ある程度の事情を知っているのか、今日は簡単な聴き取りが行われただけで、直ぐにお役御免となった。
恐らくは、紅葉から小野に事前に話をしてあったからだろう。どうやら日を改めて警察署に赴き、そこでもう一度、事情を説明することになりそうだ。
しかし、この暴漢達による誘拐未遂事件に関してはユウ達はあくまでも被害者で、突然襲われ身を守ったに過ぎないのだからあまり心配することもないだろう。
――ただし。
この事件は、警察の尊厳にも関わってくる事件へと繋がっている。二つの未解決事件、十年前の女子高校生刺殺事件と連続少女行方不明事件だ。
何せ一課の課長の名前が、その二つの未解決事件の主犯として上がっているのだ。かなり慎重に、話を聴かれる事にはなるだろう。ただ既に犯行グループの主要メンバーから具体的な証言され始めているのだから、もう火東の緊急逮捕は免れない。
そして彼の逮捕で、二つの未解決事件は解決へと向かってゆくのだ。
残っている一番の心配事は、行方不明になっている女の子達の安否だ。どうか無事でいてほしい。そう願わずにはいられない。
しかし先程、連行される前に紅葉が主犯格のあの男と何か話しをしているのを、ユウ達は見てしまった。そして話し終わった彼女が浮かべたあの何とも言えない表情を見たユウは、何も言えないでいた。それは、いずみも同じだった様で、女の子達の安否については誰も口にしようとはしなかった。
この事件は計り知れない衝撃を警察や世間に与え、そして何よりも被害者の家族に耐えがたい哀しみを与える事になるだろう。
それでも、この事件は全て明るみにならなければならない。
これ以上、被害者を増やさない為に、そして被害者になってしまった可哀想な女の子達の為に、犯行に関わった奴ら全員に正当な裁きを受けさせなければならない。
ユウはやり場のない気持ちを、拳を握り締めて堪えていた。そんなユウに、紅葉は「貴方は、よくやったわ。あとは警察や司法、社会に任せましょう」と、言った。
思えば、いずみも紅葉も、ずっとユウの側に寄り添ってくれていた。その手が微かに震えているのは、きっと彼女達も同じ気持ちだからだろう。
そんな時に、全員のスマートフォンが一斉に鳴った。青葉からのグループ通話だ。聞けば、警察車両に乗って、こちらに向かっている最中だと言う。
「……姉さん。あの男は、小野は近くにいますか?」
「小野さん?いいえ、居ないわ。小野さんが、どうしたの?」
「あの男に連絡が取れないって、皆、騒いでいます。随分前にそっちに向かったから、姉さんの近くをウロウロしているかと思っていたんですけど……」
「いいえ、来ていないわ。彼は火東の次席だから、現場で指揮を執っている筈よ」
「そうですか……。 だから現場が混乱しているんですね。これで火東に逃げられでもしたら、あの男のせいです」
画面の向こうから聞こえてきた妹の冷ややかな言葉を受けた姉の眉尻が、ピクリと揺れる。
「まさか、そんなこと。あの人に限って信じられないけど……?」
妹から聞かされた内容は、何度も仕事を共にした紅葉には信じられない内容だった。少なくとも今まで紅葉の目に映っていた小野は、今、何をしなければいけないのか判断が付かない様な、出来ない男ではなかった筈だ。
紅葉の中で、不安が大きく膨らんでいく。
「……青葉。火東の潜伏先について、小耳に挟んだりした?」
「はい。確か……」
「そう。その場所なら、ここからそれ程、離れていないわね。私はそこに向かうから、あなたもその近くで降ろしてもらいなさい。ここへ向かう途中にある場所だから、問題ない筈よ。そこで落ち合いましょう」
はい、と答えた青葉と通話を切ってから、紅葉はユウといずみを見る。
「二人共、どうする?危険な目に遭うかもしれないけど、一緒に……」
「行きます!」
「うん!もちろん!」
言い終わる前に二人からの返事が返ってきて、紅葉は苦笑いを浮かべた。
男達が連行された後、ユウ達はその場で警察に事情を聴かれた。本来なら警察署でじっくりと話を聴かれる処なのだろうが、ある程度の事情を知っているのか、今日は簡単な聴き取りが行われただけで、直ぐにお役御免となった。
恐らくは、紅葉から小野に事前に話をしてあったからだろう。どうやら日を改めて警察署に赴き、そこでもう一度、事情を説明することになりそうだ。
しかし、この暴漢達による誘拐未遂事件に関してはユウ達はあくまでも被害者で、突然襲われ身を守ったに過ぎないのだからあまり心配することもないだろう。
――ただし。
この事件は、警察の尊厳にも関わってくる事件へと繋がっている。二つの未解決事件、十年前の女子高校生刺殺事件と連続少女行方不明事件だ。
何せ一課の課長の名前が、その二つの未解決事件の主犯として上がっているのだ。かなり慎重に、話を聴かれる事にはなるだろう。ただ既に犯行グループの主要メンバーから具体的な証言され始めているのだから、もう火東の緊急逮捕は免れない。
そして彼の逮捕で、二つの未解決事件は解決へと向かってゆくのだ。
残っている一番の心配事は、行方不明になっている女の子達の安否だ。どうか無事でいてほしい。そう願わずにはいられない。
しかし先程、連行される前に紅葉が主犯格のあの男と何か話しをしているのを、ユウ達は見てしまった。そして話し終わった彼女が浮かべたあの何とも言えない表情を見たユウは、何も言えないでいた。それは、いずみも同じだった様で、女の子達の安否については誰も口にしようとはしなかった。
この事件は計り知れない衝撃を警察や世間に与え、そして何よりも被害者の家族に耐えがたい哀しみを与える事になるだろう。
それでも、この事件は全て明るみにならなければならない。
これ以上、被害者を増やさない為に、そして被害者になってしまった可哀想な女の子達の為に、犯行に関わった奴ら全員に正当な裁きを受けさせなければならない。
ユウはやり場のない気持ちを、拳を握り締めて堪えていた。そんなユウに、紅葉は「貴方は、よくやったわ。あとは警察や司法、社会に任せましょう」と、言った。
思えば、いずみも紅葉も、ずっとユウの側に寄り添ってくれていた。その手が微かに震えているのは、きっと彼女達も同じ気持ちだからだろう。
そんな時に、全員のスマートフォンが一斉に鳴った。青葉からのグループ通話だ。聞けば、警察車両に乗って、こちらに向かっている最中だと言う。
「……姉さん。あの男は、小野は近くにいますか?」
「小野さん?いいえ、居ないわ。小野さんが、どうしたの?」
「あの男に連絡が取れないって、皆、騒いでいます。随分前にそっちに向かったから、姉さんの近くをウロウロしているかと思っていたんですけど……」
「いいえ、来ていないわ。彼は火東の次席だから、現場で指揮を執っている筈よ」
「そうですか……。 だから現場が混乱しているんですね。これで火東に逃げられでもしたら、あの男のせいです」
画面の向こうから聞こえてきた妹の冷ややかな言葉を受けた姉の眉尻が、ピクリと揺れる。
「まさか、そんなこと。あの人に限って信じられないけど……?」
妹から聞かされた内容は、何度も仕事を共にした紅葉には信じられない内容だった。少なくとも今まで紅葉の目に映っていた小野は、今、何をしなければいけないのか判断が付かない様な、出来ない男ではなかった筈だ。
紅葉の中で、不安が大きく膨らんでいく。
「……青葉。火東の潜伏先について、小耳に挟んだりした?」
「はい。確か……」
「そう。その場所なら、ここからそれ程、離れていないわね。私はそこに向かうから、あなたもその近くで降ろしてもらいなさい。ここへ向かう途中にある場所だから、問題ない筈よ。そこで落ち合いましょう」
はい、と答えた青葉と通話を切ってから、紅葉はユウといずみを見る。
「二人共、どうする?危険な目に遭うかもしれないけど、一緒に……」
「行きます!」
「うん!もちろん!」
言い終わる前に二人からの返事が返ってきて、紅葉は苦笑いを浮かべた。
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