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第三章 死闘
第82話 裏社会
しおりを挟む「さて、……と」
春日 流が立ち去ったのを見届けると、紅葉は倒れている男に近付いていった。そして男の顔を見て「あら?この人、知ってる」と言葉にする。
「え……?誰なんです?」
「最近、この辺りの裏社会で幅を利かせている組織の中心人物。つまりはヤクザね」
そして何故か、嬉しそうなこの笑顔だ。
「ヤ、ヤクザが犯行に関わっていたのが、そんなに嬉しいんですか?」
その笑顔と合わせて、何でこの人はそんな事に詳しいんだ?と、ギョッとした。
「ふふっ裏社会には裏社会のルールがあるの。そちらの関係なら話が早いわ。
ねぇ如月君、警察が来る前に、この人と話がしたいからロープで縛り上げてくれないかしら?多分、ロープなら車の中にあるから、暴れられたり逃げようとしたら面倒臭いじゃない?」
「あ、はい。ちょっと待ってて下さい」
彼女に言われた通りに車の中を弄ると、なるほどロープとビニールテープが助手席に転がっていた。ユウはそれらを手に掴むと慌てて男の元に戻り、慣れない手付きで男を縛り上げていった。
「……大丈夫そうね」
そして縛り具合を確認した彼女は満足そうに頷き、唐突に男の顔に平手打ちした。
パシッ! 渇いた音に続き、 ……うっと、男の唸る声。男が目を覚ましたのを見届けると、紅葉は何処かに電話を掛け始める。
「………あ、会長。お久しぶりです。ええ、ええ。ふふっ、そうですね。また機会があったら、お邪魔します。ええ……」
そして何やら楽しそうに、彼女は電話の向こうの相手と話し始めてしまった。当然だが、目を覚ました男は怒鳴り声を上げ始めた。
「てめえら!すぐこの縄ほどけや!こんな事してタダで済むと思ってるのか!?
ぶっ殺されたくなかったら、すぐにほどけ!!」
激しく暴れ始めた男に、誰が解くんだよ?と、心の中でツッコミつつも、ユウは紅葉が誰と話してるんだろう?と、訝しく思っていた。
「――――ええ。ところで会長。会長のお力をお貸し頂きたい案件がありまして、………ええ、そうなんです」
しかし怒りを向けられている当人には、怒声など届いていない様子だ。目の前の男など全く気にする素振りも無く、彼女の会話は続いた。
そんな彼女の態度に、とうとう男の怒りは頂点に達したらい。怒りで真っ赤に染まる顔で、睨み殺してやらんとばかりの激しい眼光を彼女へと向け続けている。
「ええ、ありがとうございます。では替わりますね。ええ、宜しくお願いします」
そして漸く長かったお喋りの終わりが見え始め、 紅葉はスマホから耳を離すと男の耳へとソレを近付けた。
「何しやがる!誰なんだ、てめえは!」
などと最初は激しく啖呵を切っていた男だったが、みるみる真っ赤だった顔は色を変え青くなっていった。そして最後には、青を通り越し色を失った。
「はい。はい。スミマセン。はい。………はい。分かりました。………はい、失礼します。………はい。」
そして可哀想なくらいに小さく縮まってしまった男が、行き場を無くしていた視線を、どうにか彼女の足元に向ける。
「あの…… 会長が代ってくれと、仰ってます」
男の言葉を受けて、スマホを受け取った彼女。手元へ戻ってきたそれを丁寧にハンカチで拭ってから自分の耳へと宛がう。
「はい。もしもし。はい。ありがとうございました会長。では、これで貸し借りなしと言う事で…… ええ!?そんな悪いです会長!そんなに大した事していませんから! ………分かりました。では今回は、会長のお言葉に甘えさせて頂きます。ええ。では、また」
会話を終えた彼女は通話をオフにし、スマホを制服のポケットへとしまい込んだ。それから、さて……と、ゆっくりと男に近付き、目の前に屈み込んだ。
そして男をじっと見つめながら、こう話し掛けた。
「あなた方のしたこと、細かい内容まで全て警察に話して頂けますか?ちなみに、もう一つのグループの方は全て話しているそうですよ。もし万が一、一つでも嘘の証言をしたら…… 分かっているとは思いますけど、二度と外の空気は吸えないばかりか、まともな死に方は出来ないと思って下さいね。
会長の息の掛かった人は、警察内部にも沢山いますから。………残念ですけど?」
「………はい。十分、分かっています。全て話します」
「そう、それがいいですね。あと、これは私からのお願いですが、先程あなたが見たバスケッットボールを持った男の子の事だけは、話さないで頂けます?」
頷いた男を満足そうに見つめ、それから彼女はさらに顔を男に近付けていった。
「それから………、ね。
私と私の仲間に、生涯…… 二度と関わらないで下さいね。
もし関わってきたら、会長とは関係なく…… 命は、無いと思え」
ユウと、いずみからは彼女の顔は見えなかった。だが、その言葉にハッと顔を上げた男は、彼女の顔を見た途端にビクリと体を大きく震わせ、ガタガタと震えていた。
蛇に睨まれた蛙と言う言葉が、ユウの頭に浮かぶ。
しかし――
くるりと振り返った彼女は、後は警察に任せましょう……と、いつもと変わらない優しい微笑みを浮かべているだけだった。
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