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第三章 死闘
第81話 俺と親友。……そして、彼女達。
しおりを挟む「 ……い。 ……おい。 …おい、いずみ!」
肩を揺らしながら、俺は眠りこんでいる金森いずみに声を掛け続けた。
「……う、う~ん。 ………うん? あれぇ?どこ…ここ? ほえっ?ユウくんだ。ユウくん、おはよう!」
そして目覚めて直ぐにニッコリ笑った彼女を見て、俺はホッと胸をなで下ろした。……どうやら、無事のようだ。
「……おはよう、じゃないよ。大丈夫か?」
「うん?何だっけ? ……あれ? わたし、男の人に襲われていなかったっけ……?
はっ!そう言えば、あいつは!?あいつは何処に行ったの!?」
話しているうちに少しづつ今までの状況を思い出してきたみたいで、彼女はなにやら慌てた様子で辺りをキョロキョロと見回し始めた。そのまま黙って彼女の行動を見守っていると……
「……あれ?倒れてる。あの人、大丈夫かな? うん?春日君がいる。こんにちわ、春日君!」
……だ、そうだ。
まったく、もう……だよな?この女性《ひと》には、まるで緊張感ってものが無いのか?
だけど彼女の行動や仕草の一つ一つが、緊張と心配で圧し潰されそうになっていた俺の心臓を落ち着かせるのに効果覿面だった。それどころか、思わず吹き出しそうになっている自分さえいる。
「……あ、ああ。こんにちは、金森」
そしてどうやら彼女のそれらは、俺の親友である春日流にも同じ効果をもたらしていたみたいだ。多分、吹き出しそうになっているのを必死に堪えているんじゃないかな?奴の唇の端はひくひく、ずいぶんと忙しそうだ。
「ぷぷ…っ!いずみ……こんにちわ、ってなんだよ?俺たち心配してたんだからな。
……それに、ほら」
そして極めつけは、俺が差し出したハンカチ。
「………? ……え? ???」
何故ハンカチを差し出されたのか分かっていない彼女に、俺は小声で囁いてやった。……涎。垂れてますよ、と。
「………………っ! っ!?? っっ??!!」
あ~…… うん、とですね。 顔を真っ赤にして、慌てて俺のハンカチで唇の周りを拭っている彼女の姿を見た瞬間に、俺は完全に脱帽させられました。
「………じゃあ、俺いくな。先生が心配なんだ。……流、金森を頼んだ」
そう言い残して、慌てて踵を返そうとした俺の背中に声が掛けられる。その声は紛れもなく、もう一人の彼女の声だ。
「私なら、大丈夫よ。 そちらも、大丈夫みたいね?」
………嘘、だろ?
慌てて振り向いた俺の目に、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる彼女の姿が飛び込んできた。
「せ、先生!?奴らは、どうしたんですか!?」
「ああ、あの人たち?何故か急に倒れちゃったのよ。きっと、栄養が足りていなかったんじゃないかしら?」
そう言って、ふふっと笑う彼女。その髪にも服装にも、まるで乱れている様子はなく、いつもと同じ美しすぎる立ち姿の彼女がそこにいた。
……さっき別れてから、まだほんの1~2分位しか経っていないんだぞ?
優しい微笑みを浮かべ優雅に歩く姿を見つめながら、俺はこの姉妹を怒らせるのだけは絶対に止そうと心に誓った。
「ちわっす!黒木先輩!!」
隣で流が、体育会系の挨拶をして深々とお辞儀をした。
「……あら?もしかして、あなたが春日君? ふふっ、如月君からよくあなたの話を聞くの。うちの如月君が、いつもお世話になっています」
そして彼女が流に、まるで俺の母親みたいな挨拶を返しながら微笑みかけている。
「こ、こちらこそ…… ユウには、世話になってるっス!」
顔を真っ赤にした親友は、頭を下げ続けていた。その様子を見た俺は、あ~あと思った。流よ、お前もやっぱり男だな。先生のあの微笑みは、男にとっては殺人的な威力があるから。
……だが流よ。綺麗な薔薇には棘があるんだ。特に、この人の棘には猛毒が入っているんじゃないかと思うぞ?
微妙な笑顔で二人のやり取りを眺めていると、それに気が付いた彼女が眉をひそめた。
「……なぁに、如月君?変な顔で笑って。 私の顔に何かついているの?」
変な顔で悪かったなと、俺はもっと変な笑顔を返してやった。
「別に……。 無事で、本当に良かったって思ってただけです。黒木先輩」
そんな俺に、彼女はさっきとは別の顔を見せてくれた。
……少し、照れくさそうな微笑みだ。
「……貴方もね、如月君」
「あー!また二人でイチャイチャしてる!まったく紅葉ちゃんは油断も隙も無いんだから!」
いずみが、俺たちの間に割って入ってきた。
「ふふっ、いいじゃない。部長特権よ、いずみちゃん」
嬉しそうに戯れ合う二人を横目に、俺は流に声を掛けた。
「……流。お前は直ぐに、この場を離れた方がいい。助けてもらって何だけど、直に警察とか来て、この場所は大騒ぎになるからな。……ですよね、黒木先輩?」
「ええ。さっき警察には連絡しておいたわ。そうね。春日君は、この場にいない方がいいわね」
「お前、大会とか色々あるだろ?万が一があるといけないからな」
そう言って、俺は流の肩を叩いた。
「……あ、ああ。ありがとうユウ」
するとヤツはバツが悪そうな顔をして、俺にしか聞こえないような小声で話し掛けてきた。
「……だけどさ、ユウ。お前、部活で何やってるんだよ?」
そう囁きながら、俺はチラりと黒木先輩と金森いずみの顔を盗み見た。
「何って、 ……人助け、かな?」
その質問に、親友であるアイツは苦い笑いを浮かべている。
……人助けって、お前さ。いい加減にしろって。
お前と金森、それに黒木先輩も……
どこからどう見ても、唯の部活仲間って雰囲気じゃないじゃないか。お前ら全員、付き合ってるのかよ?
俺は心の中で、そうツッコミを入れずにはいられなかった。しかしそんな心の声を、俺は閉じ込めて。
「そ、そうか…… 人助け、か。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて俺は行くとするよ」
後ろ髪を引かれる思いで、俺はその場を離れることにしたんだ。
「ああ、本当にありがとう流」
「ふふっまたね。春日君」
「バイバイ!春日君、ありがとう!」
親友。……そして彼女達たちは、俺に手を振って見送ってくれた。そんな三人に軽く頭を下げてから、俺はその場を後にした。
少し離れてから、春日流は後ろをそっと振り返った。そこには、親友に戯れつく黒木先輩と金森いずみの姿があった。そしてそれを、うっとうしそうにあしらっているアイツの姿。
……そうか。
それが、お前の大切な人達なんだ?
流の口元には、自然と笑みが浮かんだ。流の目には三人の姿が、まるで長年連れ添っている家族の様に写ったからだ。
……だけどさ、ユウ。
そんな人助けなら、俺もあやかりたいもんだよ。
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