上 下
75 / 100
第三章 死闘

第75話 一人きりの闘い 前編

しおりを挟む
「青葉!」

 ユウの叫び声が空しく響く。画面から消えた彼女からの返事はない。

「……早速、動いて来たみいたいね。如月君、妹の事なら心配いらないわ。貴方は身をもって体験しているでしょう?」

 こんな事態なのに、紅葉の声は落ち着ついている。体験? ……そうだ。青葉と初めて出会った時の出来事をユウは思い出していた。

 ………あいつ、何か妙な技を使えるんだった。

 だけど大丈夫なのだろうか?そうは言っても、女の子一人っきりなんだぞ?

 その時、スマホから青葉の声が聞こえた。

「………囲まれてしまいました。1、2、3、4、――6人。柄の悪そうな男の人達が六人います」
 
 だが無事な声を聞いてほっとしたのも束の間、彼女から伝えられたのは絶望的な内容だった。なんと六人もの男達に、取り囲まれているというのだ。
 想像していた以上に悪い状況に、ユウは言葉を失ってしまった。しかしそんな状況の中で、彼女が返してきたのは意外すぎる言葉だった。

「姉さん、いいですか?手加減は、しますけど………?」

 そしてその言葉を受けた紅葉は、ふーっと深い溜息をつく。それから前髪をかき上げると、彼女はこう言ったのだ。

 お好きに、どうぞ―― っと。





 💀 💀 💀 💀 💀 💀 💀 💀 💀


 青葉が、スマホを制服のポケットにしまったと同時に、黒いワンボックスカーの運転席とサイドのスライドドアが開いて四人の男達が車から降りてきた。急いで来た道を戻ろうと振り返ると、二人の男達が道を塞ぐ様にして立っていた。

「青葉!」

 ポケットの中からユウの声が、聞こえた。

 青葉はゆっくりとスマホを取り出し、姉に状況を報告した。すると姉から返ってきたのは深い溜息と、お好きにどうぞ、という言葉。

 青葉の中で、もう心配事は無くなっていた。



「おいおい。こんな上玉、好きにしていいのかよ?あの人も、たまには気の利いた事してくれるじゃねえか。なあ?」

 男の一人が、下品な声を上げる。

「マジかよ!?こんないい女、見た事ないぜ。マジで最高かよ!」

 と、男共は勝手に盛り上がっている。

 ユウの言った通りだった。こいつらは、集団で狩りを行っている。

 姉がいるから大丈夫だろうが、万が一にも、いずみが危険に晒されているなら一秒でも早く合流したいと思った。こんな馬鹿共に、構っている暇は青葉には無かった。

 歓声を上げながら近づいてくる男達に苛立ちを覚えながら、青葉は一気に距離を縮めた。

 縮地しゅくち、と言う走法だ。

 青葉の修めている武術では基本中の基本の走り方だが、慣れていない奴等には急に目の前に現れた様に見えたことだろう。

「!」

 阿呆面で立っている先頭を歩く男の喉に手の平を叩き込みながら、右足を男の膝裏に掛け、そのまま地面に押し倒す。男は受け身も取れないまま、後頭部をアスファルトに打ち付けた。

 ………これで、一週間は目を覚まさないだろう。

 青葉はそのまま動きを止めずに縮地で近づき、近くで立ち竦んでいる男を同じ様に眠りにつかせた。しかし三人目の男は、驚いた顔をしながらも右手で青葉を掴みにきた。その手を左手で軽く往なしながら掴み、同時に捻り上げる。

 ボキボキと骨だか軟骨だかが、ひしゃげる感触が掴んだ腕に伝わってくる。

「うぎゃあ!!!」

 青葉はわめく男の喉仏に手の平を当てて後ろ足を掛けると、体ごと後ろに引き倒して後頭部をアスファルトに打ち付けた。


「てめえ!!」

 今度は、二人同時に男達が飛び掛かってきた。

 青葉は風の様な動きで二人をかわすと一人の背後に回り込み、トン……っと背中を押した。押された男はバランスを崩して前のめりに倒れ込むと、大袈裟に2、3メートルは転がった。
 
 そこに、もう一人の男が拳を振るってきた。青葉はそれを左手で往なしながら腕を掴み、そのまま自身の体を外側に回転させた。ボキリッと耳障りな音が辺りに響き、少し間を置いて男が膝から崩れ落ちるように倒れこむ。

 青葉が掴んでいた腕を離すと、男の腕はぶらんと垂れ下がった。
 肩が外れたのか、腕の骨が折れたのか知らないが、男は悲鳴を上げながら誰も居ない空中に向かって何かを訴えかけている。

五月蠅うるさい、ですよ?」

 そう言うと青葉は、他の男達と同じ様に男の意識を絶つ。

 視線を向けると、先程地面に転がった男は逃げようと地面をバタバタしていた。が、一瞬で近づいた青葉の手刀で頸部を一撃され、直ぐに動かなくなった。


「こりゃあ、驚いた。こんな可愛子かわいこちゃんが、古武術とはね。お嬢ちゃん、どこの流派だい?」

 最後に残った大柄な男が、ニヤニヤしながら尋ねてきた。

「……流派?そんなこと、聞いてどうするんですか?」

「いや、俺は格闘技が好きでね。ガキの頃から空手、柔道、ボクシング、お嬢ちゃんが今使った古武術なんかも一頻り修めたよ。で、今は戦闘術にハマってる。元傭兵なんでね」

 言いながら男は、太腿に取り付けたダガーを握り、ゆっくりと引き抜いた。
 
 確かに……です。

 その言葉通り。青葉はこの男から、他の男共とは比べ物にならない程の強烈な威圧感を感じていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

『器のちっちゃな、ふとちょ先輩』

小川敦人
青春
大学卒業後、スポーツジムで働き始めた蓮見吾一。彼は個性豊かな同僚たちに囲まれながら、仕事の楽しさと難しさを学んでいく。特に気分屋で繊細な「器の小さい」中田先輩に振り回される日々。ジム内の人間模様や恋愛模様が交錯しながらも、吾一は仲間との絆を深めていく。やがて訪れるイベントのトラブルを通じて、中田先輩の意外な一面が明らかになり、彼の成長を目の当たりにする。笑いあり、切なさありの職場青春ストーリー。

私を買ってるクラスの陰キャが推しのコンカフェ嬢だった話

楠富 つかさ
青春
 アイドルが好きなギャル瀬上万結(せがみ まゆ)はアイドルをモチーフとしたコンセプトカフェにドハマりしていしまい金欠に陥っていた。そんな夏休み明け、ギャル友からクラスメイトの三枝朱里(さえぐさ あかり)がまとまったお金をATMで下ろしている様をみたというのでたかることにしたのだが実は朱里には秘密があって――。  二面性のある女子高生同士の秘密の関係、結びつけるのはお金の力? ※この物語はフィクションであり実在の人物・地名・団体・法令とは一切何ら全くもって関係が本当にございません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...