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第二章 絆
第56話 後悔
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その日は用事があると言う紅葉に青葉が付き添うこととなり、部活はお開きとなった。ユウといずみは一緒に帰宅しながら、中央通りにある例の公園で鯛焼きを片手にベンチで寄り添っていた。
「やっぱり、ここの鯛焼きはおいしいね~!」
今日は二人揃ってカスタードクリーム入りを買った。邪道だと言う人もいるが、中々どうして美味だ。隣ではいずみが、熱そうにふーふーしながら御満悦な様子で鯛焼きを頬張っている。
「ああ、美味いな。でも不思議だな。こうして、いずみとこの公園で初めて鯛焼きを食べたのつい先週のことなのに、ずっと前からの知り合いだった気がするよ」
それは本心だった。いずみとは、ずっと昔から知り合いだった気がする。
「本当? ……うれしい、私もそう思ってたの。二年になってユウくんとは直ぐに中庭で知り合ったけど、なかなか話す機会がなくって。ずっと話したかったんだけど、やっと先週話せたと思ったらビックリだよ!ずっと私が思ってた通りの人だったんだもん」
「思ってた通り?俺はどんな奴に、いずみには見えてたんだ?」
「えっ…… えっと……」
下の名前を呼ぶことに照れ臭さを感じながらユウが尋ねると、いずみは急に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「う、上手く説明出来ないけど、とにかく思ってた通りの人だったの……っ」
ふーんと返事をしながら、ユウは鯛焼きを一口、頬張った。
「……そういえばさ、髪型変えることにしたんだ?」
「う、うん。どうかな?」
いずみは昨日から学校でも縛ること無く、ストレートヘアにしていた。
「ああ、俺は今の髪型の方が、いずみに似合っていると思う。何か大人っぽくなった気がする」
「そ、そう?ありがとうユウくん!」
照れ臭そうにはにかみながら、いずみが自分の髪を撫でている。
お互い照れ臭い気持ちになって、暫し沈黙が訪れた。
「……さっきは怒ったりしてゴメンね」
「いや、いずみの言う通りだった。俺が逆の立場でも同じことを言ったと思う。こっちこそゴメン」
いずみは黙ったまま、首を横に振った。
「……昔から二人はね、本当に危ない事ばかりするの。人を助けてばっかり。
特に紅葉ちゃんは困っている人を見ると自分から首を突っ込んでいって、自分が危険な目に遭っても人を助けようとするの。
私ね、いつか二人が居なくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安だった」
唇をキュっと噛みしめながら、いずみは話は続いた。
「でも、ね。それが紅葉ちゃんなんだよね。私の大好きな紅葉ちゃん。だから、止められないの本当は分かってるの。
でも私ね、きっと止め続ける。嫌われてもいいから止め続ける。それが私の出来る精一杯の事だから。 ……ねえ、ユウくん。私、間違ってるかな?」
その問いに、ユウは首を横に振った。
「先生にも青葉にも、いずみの気持ち、ちゃんと伝わってると思う。だから嫌ったりする訳ないだろ。勿論、間違ってなんかいないさ」
「……うん。ありがとう、ユウくん」
話しながらユウは、先程の紅葉の言葉を思い出していた。彼女は、いずみが居なかったら私達姉妹は此処でこうしていられなかったと言った。きっと彼女たちは、何度も金森いずみという存在に救われてきたんだろう。
「それにね。それに…… 私、知ってるんだ。青葉ちゃんを、何かとても怖いモノが狙っているんでしょう?二人は絶対に何も話してくれないし、私には何も視る事は出来ないけど、その怖いモノとずっと二人が闘っているの私、知っているの。
紅葉ちゃんは小さい頃から、ずっとソイツから命懸けで青葉ちゃんを守っているんだってこと、私は知ってた。……だって小さい頃から、ずっと二人と一緒にいたんだもん。話してくれなくても分かるよ」
そう言って、いずみは悲しく微笑んだ。
「オカルトのこと研究しているのだって全部、青葉ちゃんを守る為なの。知らない人は紅葉ちゃんを魔女って呼ぶけど、私の目に映ってる紅葉ちゃんは妹のことが大好きな優しいお姉ちゃんだよ。
青葉ちゃんだってそう。人に視えないモノが視えて苦しんでいるのに、その上そんな怖いモノにも付き纏われても挫けないで、ずっと闘ってる。
……ねえ、ユウくん。なんで紅葉ちゃんと青葉ちゃんが、そんなに苦しい思いをしないといけないの?なのにあの二人は困っている人まで助けようとするの。 ……優し過ぎると思わない?」
……そうか、全部知っていたのか。知った上で、さっきの発言だったんだ。
直ぐ隣りで大粒の涙を流し始めた少女の、懐の深さをユウは改めて知った。
「ユウくんは、青葉ちゃんと同じ視える人なんでしょう?」
改まって聞かれるとドキリとする。正直、自分自身でもよく分からないのだ。
「……俺、少しだけ視えるみたいだ。正直、自分でもよく分からない」
流れる涙を隠す様子もなく、いずみがユウをじっと見つめている。
「私ね、ユウくんが羨ましいよ。もし私が視えることが出来たら、もっと二人を助けられるのにってずっと思ってた。でも、でもね。二人と同じ様に、ユウくんには絶対に危ないことしてほしくない。
……だから私、二人にユウくんを逢わせたこと、後悔してるの。
だってユウくん、絶対に危ないことするもん。ユウくんなら、きっと二人の力になれるって、分かるの。でも私、ユウくんが危ないことに巻き込まれるの絶対!絶対!絶対!嫌なの!
私、どうしていいのか分からない。わからないよ……」
大粒の涙を流しながら、いずみは小さな子供みたいに泣いた。ユウには隣で泣き続ける彼女の手に、そっと自分の手の平を重ねることしか出来なかった。
求めるようにいずみの手がユウの手を握ると、ユウもそれに応えた。
そしてお互いに指をからませ合い。いつしか二人は、お互いの手をしっかりと握り合っていた。
「やっぱり、ここの鯛焼きはおいしいね~!」
今日は二人揃ってカスタードクリーム入りを買った。邪道だと言う人もいるが、中々どうして美味だ。隣ではいずみが、熱そうにふーふーしながら御満悦な様子で鯛焼きを頬張っている。
「ああ、美味いな。でも不思議だな。こうして、いずみとこの公園で初めて鯛焼きを食べたのつい先週のことなのに、ずっと前からの知り合いだった気がするよ」
それは本心だった。いずみとは、ずっと昔から知り合いだった気がする。
「本当? ……うれしい、私もそう思ってたの。二年になってユウくんとは直ぐに中庭で知り合ったけど、なかなか話す機会がなくって。ずっと話したかったんだけど、やっと先週話せたと思ったらビックリだよ!ずっと私が思ってた通りの人だったんだもん」
「思ってた通り?俺はどんな奴に、いずみには見えてたんだ?」
「えっ…… えっと……」
下の名前を呼ぶことに照れ臭さを感じながらユウが尋ねると、いずみは急に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「う、上手く説明出来ないけど、とにかく思ってた通りの人だったの……っ」
ふーんと返事をしながら、ユウは鯛焼きを一口、頬張った。
「……そういえばさ、髪型変えることにしたんだ?」
「う、うん。どうかな?」
いずみは昨日から学校でも縛ること無く、ストレートヘアにしていた。
「ああ、俺は今の髪型の方が、いずみに似合っていると思う。何か大人っぽくなった気がする」
「そ、そう?ありがとうユウくん!」
照れ臭そうにはにかみながら、いずみが自分の髪を撫でている。
お互い照れ臭い気持ちになって、暫し沈黙が訪れた。
「……さっきは怒ったりしてゴメンね」
「いや、いずみの言う通りだった。俺が逆の立場でも同じことを言ったと思う。こっちこそゴメン」
いずみは黙ったまま、首を横に振った。
「……昔から二人はね、本当に危ない事ばかりするの。人を助けてばっかり。
特に紅葉ちゃんは困っている人を見ると自分から首を突っ込んでいって、自分が危険な目に遭っても人を助けようとするの。
私ね、いつか二人が居なくなっちゃうんじゃないかって、いつも不安だった」
唇をキュっと噛みしめながら、いずみは話は続いた。
「でも、ね。それが紅葉ちゃんなんだよね。私の大好きな紅葉ちゃん。だから、止められないの本当は分かってるの。
でも私ね、きっと止め続ける。嫌われてもいいから止め続ける。それが私の出来る精一杯の事だから。 ……ねえ、ユウくん。私、間違ってるかな?」
その問いに、ユウは首を横に振った。
「先生にも青葉にも、いずみの気持ち、ちゃんと伝わってると思う。だから嫌ったりする訳ないだろ。勿論、間違ってなんかいないさ」
「……うん。ありがとう、ユウくん」
話しながらユウは、先程の紅葉の言葉を思い出していた。彼女は、いずみが居なかったら私達姉妹は此処でこうしていられなかったと言った。きっと彼女たちは、何度も金森いずみという存在に救われてきたんだろう。
「それにね。それに…… 私、知ってるんだ。青葉ちゃんを、何かとても怖いモノが狙っているんでしょう?二人は絶対に何も話してくれないし、私には何も視る事は出来ないけど、その怖いモノとずっと二人が闘っているの私、知っているの。
紅葉ちゃんは小さい頃から、ずっとソイツから命懸けで青葉ちゃんを守っているんだってこと、私は知ってた。……だって小さい頃から、ずっと二人と一緒にいたんだもん。話してくれなくても分かるよ」
そう言って、いずみは悲しく微笑んだ。
「オカルトのこと研究しているのだって全部、青葉ちゃんを守る為なの。知らない人は紅葉ちゃんを魔女って呼ぶけど、私の目に映ってる紅葉ちゃんは妹のことが大好きな優しいお姉ちゃんだよ。
青葉ちゃんだってそう。人に視えないモノが視えて苦しんでいるのに、その上そんな怖いモノにも付き纏われても挫けないで、ずっと闘ってる。
……ねえ、ユウくん。なんで紅葉ちゃんと青葉ちゃんが、そんなに苦しい思いをしないといけないの?なのにあの二人は困っている人まで助けようとするの。 ……優し過ぎると思わない?」
……そうか、全部知っていたのか。知った上で、さっきの発言だったんだ。
直ぐ隣りで大粒の涙を流し始めた少女の、懐の深さをユウは改めて知った。
「ユウくんは、青葉ちゃんと同じ視える人なんでしょう?」
改まって聞かれるとドキリとする。正直、自分自身でもよく分からないのだ。
「……俺、少しだけ視えるみたいだ。正直、自分でもよく分からない」
流れる涙を隠す様子もなく、いずみがユウをじっと見つめている。
「私ね、ユウくんが羨ましいよ。もし私が視えることが出来たら、もっと二人を助けられるのにってずっと思ってた。でも、でもね。二人と同じ様に、ユウくんには絶対に危ないことしてほしくない。
……だから私、二人にユウくんを逢わせたこと、後悔してるの。
だってユウくん、絶対に危ないことするもん。ユウくんなら、きっと二人の力になれるって、分かるの。でも私、ユウくんが危ないことに巻き込まれるの絶対!絶対!絶対!嫌なの!
私、どうしていいのか分からない。わからないよ……」
大粒の涙を流しながら、いずみは小さな子供みたいに泣いた。ユウには隣で泣き続ける彼女の手に、そっと自分の手の平を重ねることしか出来なかった。
求めるようにいずみの手がユウの手を握ると、ユウもそれに応えた。
そしてお互いに指をからませ合い。いつしか二人は、お互いの手をしっかりと握り合っていた。
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