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第二章 絆
第48話 ワンピースの彼女
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それから暫く経って……
駅のベンチに腰を下ろしながら、ユウは電車の到着を待っていた。同じベンチには席を一つ空け、青葉も座っている。時刻表通りなら、あと5分程でユウ達が乗車する予定の電車は到着する筈だ。
「何すか、先輩? さっきからっ!」
ずっと無視を決め込んでいたのだが、ついに我慢出来なくなったユウは口を開く。
「俺に何か言いたいことでも、あるんすか!?」
先程から青葉が、自分の顔をチラチラと覗き込んできているのをユウは知っていた。相変わらず無表情で何を考えているのか分からなかったが、何度も何度も彼女の視線を感じている。
さっき泣いたことなら、恰好悪いのは自覚している。笑いたきゃ笑えよ。と、思いつつユウは青葉を睨みつけた。
「さっき泣いてたのが、そんなに可笑しいんすか!?」
すると彼女は「……ごめんなさい」と、言ったのだ。
「……なんで、謝まってくるんです?」
泣いていたことを馬鹿にしてくるとばかり思っていたユウは、正直いうと彼女のその言葉には、拍子抜けしてしまった。
「私… 何か嫌がること、してしまったんですよね?だから、ごめんなさい……」
「いや、別に嫌がることなんてしていませんよ」
「……さっき、泣いていました。私、人の気持ちとかよく分からないから、きっと気が付かない内にあなたの嫌がることをしてしまったんですよね?」
そして視線を線路に向けたまま、彼女は言う。
まさか、気にしてんのか?
俺を傷つけたんじゃないかって?
……嘘、だろ?この人が?
青葉の今の台詞は少なからず、またユウを動揺させる。この人に限って、他人の心配とかありえないと思っていたからだ。
「い、いや。そうじゃないです。そうじゃないんですよ、先輩。 ……俺は、嬉しかったんですよ」
「……嬉しい、ですか?何で幽霊を視て、嬉しくなるんですか?それに何で嬉しくて泣いたんですか?男の人は、嬉しいと泣くんですか?」
すると今度は矢継ぎ早に彼女から質問が飛んで来て、ユウは驚いてしまった。この人でも、こんなに喋ることがあるんだなと思ったからだ。
「いや先輩、男も女も関係なく泣きますよ。先輩だって、嬉しくて泣いたことくらいあるでしょ?」
そして相変わらず表情は乏しかったが、話しながら自分を見つめている彼女の瞳の中に感情の揺らぎを感じてユウは少し安心していた。分かり難いだけで、ちゃんと喜怒哀楽ってモノがあるんだな、この人にも。と、少し失礼な感想を抱く。
「……無いです。私、泣いたこと無いです」
だって今の彼女の瞳には、悲しそうな表情がちゃんと浮かんでいるから。
「嬉しくても悲しくても…… 泣いたりはしないです」
「泣いたことが無くったって、別にいいんじゃないですか?だって先輩には、いつもあんな素敵な世界が視えているんでしょ?」
「……素敵?霊たちがですか?」
おっと、今度は驚きの表情が浮かんだ。
「ええ、さっき視えた霊たちは皆、幸せそうでしたよ。だから俺、つい嬉しくって泣いたんです」
「そう、……ですか?幸せってよく分からないけど、あなたが言うならそうなのかもしれないですね」
「はあ?先輩だって、先生や金森と一緒にいる時は幸せそうですけど?」
「……幸せ? 私がですか?」
そして少し考えてから彼女はもう一度、そうなのかもしれないと言った。
そんな彼女の様子を見て、ユウは軽く溜息をついた。
まったくこの人は、話す程よく分からなくなる人だなと思った。この世の理すら全て理解している様に見えていたのに、自分自身のことすら全く理解していないではないか。
……本当に、不思議な人だ。
でも、そこがこの人の魅力なのかもしれない。
その時、遠くで汽笛の音がした。視線を向けると、電車がこちらに向かってきている。どうやら二人が乗る電車が、もう直にこの駅に到着するようだ。
ユウはベンチから立ち上がり、線路へと歩き出した。青葉も遅れてそれに続く。二人並んで黄色い線の内側で到着を待っていると、雨風を巻き上げながら電車がホームへと滑り込んできた。そして扉が開くと、多くの乗客がホームへと降り立つ。
ユウはそれを傍らに避けながら、何気なく降車する人々の向こう側に目を向けた。すると同じく待っているのか、降りていく人々の向こう側に白地に赤い花柄模様が描かれたワンピースを着た女性が一人立っていた。
目と目が、合った。ユウ達と同じか、少し年上の綺麗な女性だ。
……あれ? ホームにあんな人いたっけ?
降車する人並みが途切れ、電車に乗らなくちゃと考えながらもユウはその女性から目が離せないでいた。女性の腹の辺りで、何かが動いているのだ。
何だ?ユウはゆっくりと視線を下に移していった。
……血だ。
赤い花柄が広がっていく様に、白いワンピースが血で赤く染まっていく。少しずつ少しずつそれは大きくなって、今では下半身全体が真っ赤に染まってしまっている。
ゆっくりと女性が近づいて来た。
彼女は何故か笑顔のまま、口からは真っ赤な血が流れ落ちる。
動けない。体が動かない。
駅のベンチに腰を下ろしながら、ユウは電車の到着を待っていた。同じベンチには席を一つ空け、青葉も座っている。時刻表通りなら、あと5分程でユウ達が乗車する予定の電車は到着する筈だ。
「何すか、先輩? さっきからっ!」
ずっと無視を決め込んでいたのだが、ついに我慢出来なくなったユウは口を開く。
「俺に何か言いたいことでも、あるんすか!?」
先程から青葉が、自分の顔をチラチラと覗き込んできているのをユウは知っていた。相変わらず無表情で何を考えているのか分からなかったが、何度も何度も彼女の視線を感じている。
さっき泣いたことなら、恰好悪いのは自覚している。笑いたきゃ笑えよ。と、思いつつユウは青葉を睨みつけた。
「さっき泣いてたのが、そんなに可笑しいんすか!?」
すると彼女は「……ごめんなさい」と、言ったのだ。
「……なんで、謝まってくるんです?」
泣いていたことを馬鹿にしてくるとばかり思っていたユウは、正直いうと彼女のその言葉には、拍子抜けしてしまった。
「私… 何か嫌がること、してしまったんですよね?だから、ごめんなさい……」
「いや、別に嫌がることなんてしていませんよ」
「……さっき、泣いていました。私、人の気持ちとかよく分からないから、きっと気が付かない内にあなたの嫌がることをしてしまったんですよね?」
そして視線を線路に向けたまま、彼女は言う。
まさか、気にしてんのか?
俺を傷つけたんじゃないかって?
……嘘、だろ?この人が?
青葉の今の台詞は少なからず、またユウを動揺させる。この人に限って、他人の心配とかありえないと思っていたからだ。
「い、いや。そうじゃないです。そうじゃないんですよ、先輩。 ……俺は、嬉しかったんですよ」
「……嬉しい、ですか?何で幽霊を視て、嬉しくなるんですか?それに何で嬉しくて泣いたんですか?男の人は、嬉しいと泣くんですか?」
すると今度は矢継ぎ早に彼女から質問が飛んで来て、ユウは驚いてしまった。この人でも、こんなに喋ることがあるんだなと思ったからだ。
「いや先輩、男も女も関係なく泣きますよ。先輩だって、嬉しくて泣いたことくらいあるでしょ?」
そして相変わらず表情は乏しかったが、話しながら自分を見つめている彼女の瞳の中に感情の揺らぎを感じてユウは少し安心していた。分かり難いだけで、ちゃんと喜怒哀楽ってモノがあるんだな、この人にも。と、少し失礼な感想を抱く。
「……無いです。私、泣いたこと無いです」
だって今の彼女の瞳には、悲しそうな表情がちゃんと浮かんでいるから。
「嬉しくても悲しくても…… 泣いたりはしないです」
「泣いたことが無くったって、別にいいんじゃないですか?だって先輩には、いつもあんな素敵な世界が視えているんでしょ?」
「……素敵?霊たちがですか?」
おっと、今度は驚きの表情が浮かんだ。
「ええ、さっき視えた霊たちは皆、幸せそうでしたよ。だから俺、つい嬉しくって泣いたんです」
「そう、……ですか?幸せってよく分からないけど、あなたが言うならそうなのかもしれないですね」
「はあ?先輩だって、先生や金森と一緒にいる時は幸せそうですけど?」
「……幸せ? 私がですか?」
そして少し考えてから彼女はもう一度、そうなのかもしれないと言った。
そんな彼女の様子を見て、ユウは軽く溜息をついた。
まったくこの人は、話す程よく分からなくなる人だなと思った。この世の理すら全て理解している様に見えていたのに、自分自身のことすら全く理解していないではないか。
……本当に、不思議な人だ。
でも、そこがこの人の魅力なのかもしれない。
その時、遠くで汽笛の音がした。視線を向けると、電車がこちらに向かってきている。どうやら二人が乗る電車が、もう直にこの駅に到着するようだ。
ユウはベンチから立ち上がり、線路へと歩き出した。青葉も遅れてそれに続く。二人並んで黄色い線の内側で到着を待っていると、雨風を巻き上げながら電車がホームへと滑り込んできた。そして扉が開くと、多くの乗客がホームへと降り立つ。
ユウはそれを傍らに避けながら、何気なく降車する人々の向こう側に目を向けた。すると同じく待っているのか、降りていく人々の向こう側に白地に赤い花柄模様が描かれたワンピースを着た女性が一人立っていた。
目と目が、合った。ユウ達と同じか、少し年上の綺麗な女性だ。
……あれ? ホームにあんな人いたっけ?
降車する人並みが途切れ、電車に乗らなくちゃと考えながらもユウはその女性から目が離せないでいた。女性の腹の辺りで、何かが動いているのだ。
何だ?ユウはゆっくりと視線を下に移していった。
……血だ。
赤い花柄が広がっていく様に、白いワンピースが血で赤く染まっていく。少しずつ少しずつそれは大きくなって、今では下半身全体が真っ赤に染まってしまっている。
ゆっくりと女性が近づいて来た。
彼女は何故か笑顔のまま、口からは真っ赤な血が流れ落ちる。
動けない。体が動かない。
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