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第二章 絆

第47話 視えなかった世界

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 そして青葉は、三か所を指し示した。

「え!? そこに幽霊がいるんですか!?」

「視えないですか? あなたなら… きっと、こうすれば視えますよ?」

 驚いているユウに傘を置いた青葉が近づいてきて、制服の袖を掴むと、くいっと引き寄せられた。そして腕を引かれて前のめりになったユウの顔に顔を寄せてくる。


 ……え?

 頬に、彼女を感じる。

 今、二人は同じ方向を向きながら、頬と頬をくっつけ合っている。さらりとした肌触りと共に感じる、とても柔らかくて冷たい彼女の肌。
 
 スースーと、彼女の小さな息づかいが聞こえた。

 まるで絹の様に肌触りの良い感触を頬に感じながら、ユウはどうしたらいいのか分からなかった。一度キューっと狭くなって、今度はどうしようもないくらいに暴れ出す心臓。

 よほど仲が良くない限り、思春期真っ盛りの男女二人に普通では起きえないシュチエーション。そしてユウと青葉は知り合ったばかりで、決して仲が良い訳でもない。 動揺しない、訳がない。

 しかし直に、そんな動揺など消えてしまった。

 

 ……いる。

 それは段々と姿をくっきりとさせていき、最後には人間と見分けがつかない程にハッキリと視えた。

 それは農作業をしている老婆であり、アスファルトにチョークで絵を描いている男の子と、その少年を優し気に見つめている中年の男性だった。それぞれがそれぞれの色に、ぼんやりと光っている。


 ――おばあさんと、たぶん親子の幽霊。あなたにも視えていますか?


 直接脳に話しかけられているかと思うほど、近くで彼女の声がした。驚いたが、頬と頬が繋がっているのだ、当然と言えば当然だ。


 ――はい。

 そう応えると、彼女の右手が空いている方の頬にそっと添えられて、ユウの顔をもっと引き寄せた。


 ――それでは、もっと先も視て下さい。あなたには、どんな世界が視えますか?

 彼女に言われるがまま、ユウは視線を遠くへと広げた。


 ああ、 あああ――

 もうそこには、さっきまで視ていた鈍色の世界など在りはしなかった。


 そこに広がるのは……

 彩に溢れた、世界。

 数え切れないくらいに大勢の、色とりどりの人々がいる虹色の世界――



 ……ねえ先輩。 幽霊って、本当にいるんですね?

 頬に彼女の優しい体温を感じながら、ユウは心が震え始めるのを感じた。最初は何故、心が震えるのか分からなかったけれど、頬に自分の涙が流れ落ちてその理由を知る。

 
 ……うれしいんだ。 俺は、うれしい。

 死んでも終わったりなんかしない。だって、そうだろ?その後もこうやって、生前と同じ様にちゃんと存在しているじゃないか。そのことを知れて、俺は無性に嬉しいんだ。

 青葉が頬を離して視えていた世界が消えてしまっても、ユウの溢れ出した涙は止まらなかった。


「……泣いて、いるんですか?」

 涙でぼやける彼女が、声を掛けてきた。だからユウは顔を背けた。だって、泣いている姿なんて見られたくはなかったから。

「……なんで? なんで泣いているの?」

 背後から聞こえた彼女の問いに、素直に答えたい気分でもなかった。

「……うるさいっすよ、先輩。そんなこと分からない」

 だからユウは、彼女に顔を見られない様に傘で隠しながら駅へと歩き出すことにした。……きっと駅へ着く頃には、涙も乾くだろう。


 ユウの少し後ろを、青葉が付いてきている。あーあ恰好わりーな、俺。女の子の前で大泣きして何やってんだ。と、自分に毒づきながら歩く道すがら。

 しかし、ユウの心は嬉しさで満たされている。
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