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第二章 絆
第40話 依頼
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三人で部室に入った後、ユウはスクールバックから昨日帰り際に渡されたノート型のPCを取り出した。さっそく電源を入れ、PCを立ち上げる。
「あの… 先生。ちょっといいですか?」
「何かしら?」
ユウはお茶の用意をしている紅葉に声を掛けた。昨日からずっと気になっていることを聞いてみることにしたのだ。
「俺のメールアドレスなんですが、どうしてあんなアドレスなんです?」
ああ、と言いながら紅葉が食器を乗せたティートレーを持って、ユウの側までやって来た。彼女は優しげな笑顔を浮かべてはいたが、それが彼女の心の中をそのまま表しているわけじゃないことをユウは分かっている。
「貴方にピッタリなアドレスでしょう?気に入らなかったかしら?」
「はい。正直に言いますけど、気に入らないです」
昨日、家に帰ってPCを立ち上げた時にメールアドレスを確認した。アドレスには紅葉のアドレスと青葉のアドレスが登録されていたのだが、自分のアドレスを確認した時は驚いてしまった。
”kosinuke-otoko~@~.jp"
「腰抜けって、ストレート過ぎませんか?」
「そうかしら?私の素直な感想を、アドレスにしたつもりなのだけれど?」
全く悪びれる様子もなく、紅葉が笑顔でそう答える。彼女は昨日のことを、まだ根に持っているようだ。どうしたらこの人の機嫌は直るのだろうか?そのことに思案していたユウは、チラリとその人の妹である青葉の顔を盗み見た。
…おい先輩。明らかに今、視線を逸らしただろう?
私は関わり合いになりたくないっていう意思表示なの?そういうことなの?
「だから昨日から何度も言っているように、先生に魅力が無いとか、俺が腰抜けとか、そういう話じゃなくってですね!」
青葉に少しでも助けてほしいと思った自分を反省しながら、ユウは自らの力で紅葉の説得を試みることにした。しかしその時、扉をノックする音がする。
「はい、どうぞ」
そして紅葉はユウの話など、まるで聞いていないかの様に入室を許可したのだ。
「…………」
完全に話の腰を折られてしまったユウは、黙るしかなかった。彼女のこの様子だと、メールアドレスの件は諦めるしかなさそうだ。
「し、失礼します」
直ぐに返事があり、ガチャリと扉が開いた。そして恐る恐るという様子で顔を出したのは、驚いたことにクラスメイトの水崎翔子だった。
「……如月君?何で此処にいるの?」
ユウの顔を見て、明らかに水崎は動揺している。
「それに…」
次に水崎はチラリと青葉を見た。しかし水崎の視線に青葉は目も合わそうともしない。
「二人共、オカルト研究部の部員なの。それにここで話したり聞いたりしたことは、絶対に外に漏れることは無いから、安心していいわよ水崎さん」
そんな様子を見ていた紅葉が声を掛けたが、まだ水崎は不安を隠せていない。見かねたユウは、「俺たち席を外した方が、良さそうかな?水崎」と、声をかけたのだが…
「それは駄目よ、如月君」と、紅葉に窘められてしまう。
「水崎さん、この二人を信用出来ないなら依頼は受けれないわ。…御免なさいね」
そして紅葉はキッパリと、水崎にそう言い切ったのだ。
「だ、大丈夫!三人にちゃんと話します!ちょっと、びっくりしただけなんです!」
その言葉に、水崎は慌てたようだ。まさか相談する前に追い返されるなんて思ってもいなかったんだろう。しかし水崎の今の態度も無理もない話だった。相談事に来たら予想もしていなかったクラスメイトと、学校一の有名人が同席していたのだ。彼女が驚いても仕方ないことだろう。
「あの、でも!この話は絶対に他の人に話さないで下さいね」
そう念を押してから、水崎はチラリとユウを見てきた。どうやら彼女にとって、今から話す依頼内容は、よほど周囲には知られたくない内容のようだ。
「ええ、約束するわ水崎さん。絶対に守秘義務は守るから安心してね。二人共、ここからの話は極秘事項よ。絶対に口外しない様に!」
「はい!」
少し強めの口調で紅葉が言うと、声を揃えて返事をするユウと青葉。多少パフォーマンス要素はあったが、不安がっている相手に効果はあるだろう。それで水崎も少し安心したのか、やっと話を始めた。
「…先週の日曜日の話なんですけど、私は二年B組の火東華衣ちゃんの家に遊びに行ったんです。華衣ちゃんとは中学の時から友達で、家も近いからしょっちゅう遊びに行くんですけど」
「まあ、仲がいいのね。二人はどこの中学校出身なの?」
「はい。東中学です」
火東華衣?正直、ユウの記憶にない名前だった。まぁクラスも違うし、当然と言えば当然だが。
「華衣ちゃんの部屋で一緒に遊んでいる時に、その…こっくりさんを、やってみようって話になったんです」
こっくりさんか… ユウはもちろんその遊びを知ってはいたが、久しく聞かない言葉だった。
「その時部屋にいたのは私と華衣ちゃん以外に二人いて、中学の時からの友達四人でこっくりさんをやったんですけど、その後にちょっと不思議な事が起こって… それで私達、不安になっているんです」
そこで水崎は、いったん言葉を切った。そして恐る恐るという感じで、その言葉を口にする。
「その… 呪われているんじゃないかって」
そこまで話した水崎翔子は、不安そうにユウの顔をチラリと見た。
「あの… 先生。ちょっといいですか?」
「何かしら?」
ユウはお茶の用意をしている紅葉に声を掛けた。昨日からずっと気になっていることを聞いてみることにしたのだ。
「俺のメールアドレスなんですが、どうしてあんなアドレスなんです?」
ああ、と言いながら紅葉が食器を乗せたティートレーを持って、ユウの側までやって来た。彼女は優しげな笑顔を浮かべてはいたが、それが彼女の心の中をそのまま表しているわけじゃないことをユウは分かっている。
「貴方にピッタリなアドレスでしょう?気に入らなかったかしら?」
「はい。正直に言いますけど、気に入らないです」
昨日、家に帰ってPCを立ち上げた時にメールアドレスを確認した。アドレスには紅葉のアドレスと青葉のアドレスが登録されていたのだが、自分のアドレスを確認した時は驚いてしまった。
”kosinuke-otoko~@~.jp"
「腰抜けって、ストレート過ぎませんか?」
「そうかしら?私の素直な感想を、アドレスにしたつもりなのだけれど?」
全く悪びれる様子もなく、紅葉が笑顔でそう答える。彼女は昨日のことを、まだ根に持っているようだ。どうしたらこの人の機嫌は直るのだろうか?そのことに思案していたユウは、チラリとその人の妹である青葉の顔を盗み見た。
…おい先輩。明らかに今、視線を逸らしただろう?
私は関わり合いになりたくないっていう意思表示なの?そういうことなの?
「だから昨日から何度も言っているように、先生に魅力が無いとか、俺が腰抜けとか、そういう話じゃなくってですね!」
青葉に少しでも助けてほしいと思った自分を反省しながら、ユウは自らの力で紅葉の説得を試みることにした。しかしその時、扉をノックする音がする。
「はい、どうぞ」
そして紅葉はユウの話など、まるで聞いていないかの様に入室を許可したのだ。
「…………」
完全に話の腰を折られてしまったユウは、黙るしかなかった。彼女のこの様子だと、メールアドレスの件は諦めるしかなさそうだ。
「し、失礼します」
直ぐに返事があり、ガチャリと扉が開いた。そして恐る恐るという様子で顔を出したのは、驚いたことにクラスメイトの水崎翔子だった。
「……如月君?何で此処にいるの?」
ユウの顔を見て、明らかに水崎は動揺している。
「それに…」
次に水崎はチラリと青葉を見た。しかし水崎の視線に青葉は目も合わそうともしない。
「二人共、オカルト研究部の部員なの。それにここで話したり聞いたりしたことは、絶対に外に漏れることは無いから、安心していいわよ水崎さん」
そんな様子を見ていた紅葉が声を掛けたが、まだ水崎は不安を隠せていない。見かねたユウは、「俺たち席を外した方が、良さそうかな?水崎」と、声をかけたのだが…
「それは駄目よ、如月君」と、紅葉に窘められてしまう。
「水崎さん、この二人を信用出来ないなら依頼は受けれないわ。…御免なさいね」
そして紅葉はキッパリと、水崎にそう言い切ったのだ。
「だ、大丈夫!三人にちゃんと話します!ちょっと、びっくりしただけなんです!」
その言葉に、水崎は慌てたようだ。まさか相談する前に追い返されるなんて思ってもいなかったんだろう。しかし水崎の今の態度も無理もない話だった。相談事に来たら予想もしていなかったクラスメイトと、学校一の有名人が同席していたのだ。彼女が驚いても仕方ないことだろう。
「あの、でも!この話は絶対に他の人に話さないで下さいね」
そう念を押してから、水崎はチラリとユウを見てきた。どうやら彼女にとって、今から話す依頼内容は、よほど周囲には知られたくない内容のようだ。
「ええ、約束するわ水崎さん。絶対に守秘義務は守るから安心してね。二人共、ここからの話は極秘事項よ。絶対に口外しない様に!」
「はい!」
少し強めの口調で紅葉が言うと、声を揃えて返事をするユウと青葉。多少パフォーマンス要素はあったが、不安がっている相手に効果はあるだろう。それで水崎も少し安心したのか、やっと話を始めた。
「…先週の日曜日の話なんですけど、私は二年B組の火東華衣ちゃんの家に遊びに行ったんです。華衣ちゃんとは中学の時から友達で、家も近いからしょっちゅう遊びに行くんですけど」
「まあ、仲がいいのね。二人はどこの中学校出身なの?」
「はい。東中学です」
火東華衣?正直、ユウの記憶にない名前だった。まぁクラスも違うし、当然と言えば当然だが。
「華衣ちゃんの部屋で一緒に遊んでいる時に、その…こっくりさんを、やってみようって話になったんです」
こっくりさんか… ユウはもちろんその遊びを知ってはいたが、久しく聞かない言葉だった。
「その時部屋にいたのは私と華衣ちゃん以外に二人いて、中学の時からの友達四人でこっくりさんをやったんですけど、その後にちょっと不思議な事が起こって… それで私達、不安になっているんです」
そこで水崎は、いったん言葉を切った。そして恐る恐るという感じで、その言葉を口にする。
「その… 呪われているんじゃないかって」
そこまで話した水崎翔子は、不安そうにユウの顔をチラリと見た。
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