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第一章 出逢い
第35話 問い
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紅葉と二人で、部屋を出た。廊下を進みながら、紅葉の部屋へと向かっていく。
どうにもこの人には、人をからかう一面があるらしい。廊下を歩きながら、ユウは顔を真っ赤にして俯く金森を思い出していた。
そして足元からチャッチャッと聞こえる小さな足音。どうやらイヌさんも、一緒についてきたようだ。足元に視線を向ければピッタリとユウに寄り添って歩く小さな背中が、なんとも可愛らしいではないか。イヌさんは食事をしている時も、ユウの足元から離れずに、ずっとくっいていたのだ。
やっぱり懐かれると可愛いもので、思わず微笑みが浮かんでしまう。
「君も一緒に行くの?」
ユウが尋ねると、その小さな家人は尻尾をふってそれに応えてくれた。
紅葉がそんな二人の様子を微笑まし気に見つめる中、ユウは廊下を出て左へ真っ直ぐ進んだ先にある一番奥の部屋へと案内された。
「どうぞ入って、ここが私の部屋なの」
その部屋と隣の部屋の入口だけは襖ではなく、木製の扉だった。どうやら彼女の自室は洋室の様だ。
そして中に入ると案の定、褐色のフローリングの部屋が姿をみせる。ベッドや机、その他の家具や照明までもアンティークを感じる品物で揃えられている落ち着いた雰囲気の部屋だった。まるで歴史のあるホテルの一室だ。
ただし普通の洋室と違う点が一つだけある。それは入口から見て真正面、つまり部屋の一番奥はガラス戸になっていて、外の縁側へと続いているのだ。
ユウの目に、外の景色が飛び込んでくる。そしてその景色を観たユウは、一瞬で心を鷲掴みにされてしまう。
まるで・・一枚の絵画の様な世界。
そこには、美しい日本庭園が広がっていたのだ。
「ふふっ気に入った?父の趣味なの。居間からも観えるのだけれど、さっきは障子を閉めていたから観えなかったものね」
ガラス戸まで進み、思わず溜息が漏れた。目の前の美しい世界には自然石で囲まれた池があり、松やモミジなどの庭木が多過ぎずバランスよく植えられている。今はヤマボウシや紫陽花が見頃を迎えていた。
「・・・綺麗、です」
「ふふっ、ありがとう。父も喜ぶわ」
暫く見とれてから、ユウは横に並んで一緒に庭園を眺めている紅葉に向き直った。
「あ、すみません。つい見とれてしまって。話って何ですか?」
するとその人は、庭園を見つめたまま話し始めた。
「・・如月君は、人は亡くなった後、どうなると思う?」
「え?亡くなった後ですか?」
唐突なその問に、思わず聞き返してしまう。
「ええ・・ 死後の世界について、貴方の考えを聞かせて欲しいの」
ストレートな言い方に質問を変えて、彼女に同じことを聞かれた。だが、正直返事に窮する。
「・・・・分かりません。世界中の誰もが知りたくて、誰もが答えられない質問だと思いますけど・・?」
困った顔で答えると、その人は鳶色の瞳をユウに向けてきた。
「貴方は正直なのね。その通りだわ」
「ただ・・」
「ただ?」
「人に限らず生物には魂があって、肉体が死んでしまった後も、ずっと続いてくれれば良いと思います」
「仏教で言うところの輪廻転生の様な事かしら?・・どうして貴方はそう思うの?」
「はい。何度も生まれ変わって、魂を成長させていく。その方が夢があるし、それに・・それに死んだら何もかも終わりって、本当に救いが無いですよね?
生まれてすぐに亡くなってしまう命や、病気や不慮の事故なんかで、本人の努力とか関係なく、若くして命を亡くしてしまう事だって沢山ある。
・・本人や身近な人の無念を思えば、そうであってほしいと俺は思います」
ユウが、その答えの分からない質問に対する自分の気持ちを伝えると・・
少し考える様に目蓋を閉じていた彼女は、・・そうね。本当に如月君の言う通りね、と言った。
どうにもこの人には、人をからかう一面があるらしい。廊下を歩きながら、ユウは顔を真っ赤にして俯く金森を思い出していた。
そして足元からチャッチャッと聞こえる小さな足音。どうやらイヌさんも、一緒についてきたようだ。足元に視線を向ければピッタリとユウに寄り添って歩く小さな背中が、なんとも可愛らしいではないか。イヌさんは食事をしている時も、ユウの足元から離れずに、ずっとくっいていたのだ。
やっぱり懐かれると可愛いもので、思わず微笑みが浮かんでしまう。
「君も一緒に行くの?」
ユウが尋ねると、その小さな家人は尻尾をふってそれに応えてくれた。
紅葉がそんな二人の様子を微笑まし気に見つめる中、ユウは廊下を出て左へ真っ直ぐ進んだ先にある一番奥の部屋へと案内された。
「どうぞ入って、ここが私の部屋なの」
その部屋と隣の部屋の入口だけは襖ではなく、木製の扉だった。どうやら彼女の自室は洋室の様だ。
そして中に入ると案の定、褐色のフローリングの部屋が姿をみせる。ベッドや机、その他の家具や照明までもアンティークを感じる品物で揃えられている落ち着いた雰囲気の部屋だった。まるで歴史のあるホテルの一室だ。
ただし普通の洋室と違う点が一つだけある。それは入口から見て真正面、つまり部屋の一番奥はガラス戸になっていて、外の縁側へと続いているのだ。
ユウの目に、外の景色が飛び込んでくる。そしてその景色を観たユウは、一瞬で心を鷲掴みにされてしまう。
まるで・・一枚の絵画の様な世界。
そこには、美しい日本庭園が広がっていたのだ。
「ふふっ気に入った?父の趣味なの。居間からも観えるのだけれど、さっきは障子を閉めていたから観えなかったものね」
ガラス戸まで進み、思わず溜息が漏れた。目の前の美しい世界には自然石で囲まれた池があり、松やモミジなどの庭木が多過ぎずバランスよく植えられている。今はヤマボウシや紫陽花が見頃を迎えていた。
「・・・綺麗、です」
「ふふっ、ありがとう。父も喜ぶわ」
暫く見とれてから、ユウは横に並んで一緒に庭園を眺めている紅葉に向き直った。
「あ、すみません。つい見とれてしまって。話って何ですか?」
するとその人は、庭園を見つめたまま話し始めた。
「・・如月君は、人は亡くなった後、どうなると思う?」
「え?亡くなった後ですか?」
唐突なその問に、思わず聞き返してしまう。
「ええ・・ 死後の世界について、貴方の考えを聞かせて欲しいの」
ストレートな言い方に質問を変えて、彼女に同じことを聞かれた。だが、正直返事に窮する。
「・・・・分かりません。世界中の誰もが知りたくて、誰もが答えられない質問だと思いますけど・・?」
困った顔で答えると、その人は鳶色の瞳をユウに向けてきた。
「貴方は正直なのね。その通りだわ」
「ただ・・」
「ただ?」
「人に限らず生物には魂があって、肉体が死んでしまった後も、ずっと続いてくれれば良いと思います」
「仏教で言うところの輪廻転生の様な事かしら?・・どうして貴方はそう思うの?」
「はい。何度も生まれ変わって、魂を成長させていく。その方が夢があるし、それに・・それに死んだら何もかも終わりって、本当に救いが無いですよね?
生まれてすぐに亡くなってしまう命や、病気や不慮の事故なんかで、本人の努力とか関係なく、若くして命を亡くしてしまう事だって沢山ある。
・・本人や身近な人の無念を思えば、そうであってほしいと俺は思います」
ユウが、その答えの分からない質問に対する自分の気持ちを伝えると・・
少し考える様に目蓋を閉じていた彼女は、・・そうね。本当に如月君の言う通りね、と言った。
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