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第一章 出逢い
第27話 老人と柳の木
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今日も、気持ちのいい晴天だった。
河川敷にある緑地帯を歩きながら、如月ユウは大きく伸びをする。
ゆっくりと周囲を見渡すと、緑を湛えた山々が360度周囲を覆う。緑はまだ深緑というよりも若葉色をしていて、今の季節しか見られない彩りでユウの心をワクワクと浮きたたせてくれた。
そして西の空の遥か遠くには、その山々を囲う様にまだ真っ白な姿のまま神秘的な雰囲気を漂わせた山脈が連なっている。・・アルプス山脈。
青い空にその姿は一層映え、美しさを際立たせていた。見ているだけで神聖な気持ちになってしまう。
ユウはその姿を眺めながら、一昨日出逢った姉妹のことを思い浮かべていた。
・・本当に、不思議な姉妹だよな。
自分が先生と呼ぶことになった姉の黒木紅葉は、落ち着いた優しい雰囲気の女性だ。彼女は他の生徒から、魔女と呼ばれているらしい。
彼女は確かに色々なことに精通しているし、図り難い不思議さを持っていた。それにかなりの変わり者の様だ。だがユウには思慮深く、とても聡明な女性に感じられた。
何より人に対する優しさを、持っている人だと思う。
一方、妹の青葉は何を考えているのか、さっぱり分からない。何せ彼女は、表情をほとんど変えることをしないからだ。
ユウが唯一分かるのは、彼女が何故か自分のことを敵視していることだけだった。そして腹が立つことに、そんな彼女はまるで妖精か女神みたいな美し過ぎる見た目をしているのだ。それにユウとの距離を一瞬で縮めたり、何の抵抗もなく腕を締め上げたりと、人間離れした能力を持っている。
あの容姿といい、あの能力といい、あの女は本当に人間なのか?と思ってしまう。
何故か遠くに連なるアルプス山脈の神聖な姿と黒木青葉の姿が重なり合って、ユウは思わず身震いした。
ただ金森いずみに対してそうだった様に、気を許した相手を大切に思う人間味を彼女が持ち合わせていたのが、唯一の救いだろう。
・・まあ、色々考えても仕方ないよな。やるだけやってみるさ。
そんな風に一度は不安に呑まれかけたユウの心を救ってくれたのは、どこからか聞こえてくるヒバリの鳴き声だった。可愛らしいその泣き声が、ユウの心をまた落ち着かせたのだ。・・まあ成るようにしかならないのだから、くよくよ考えていたって仕方がないんだ。
だって今、ユウが向かっているのは他でもない。思い浮かべていた当人達に会いに、二人が住む彼女達の自宅に向かっているのだから。
肩から下げたリュックには、今朝、妹のユメと二人で並んで買ったチーズケーキがホールのまま入っていた。妹に歓迎会の手土産を相談したところ、最近近所に出来たチーズケーキ屋のケーキが絶対おすすめとの事だった。その店のチーズケーキは朝から並ばないと買えないほど人気らしく、折角の日曜日の朝なのに6時30分にはユメに叩き起こされたのだ。
その時にはもうユメはすっかり着飾っていて、お前これから彼氏とデートにでも行くのかよ?と思うぐらいの高いテンションだった。そして楽しそうに自分の手を引いてケーキ屋まで連れて来ると、待っている間もずっとそれをキープし続けた。
・・きっとこのチーズケーキが、よっぽど美味しいんだろうな。
ユメはしっかり自宅用のケーキも買い込んでいたから、きっと今頃は母と二人でティータイムをご満悦中だろう。
・・だけどユメが一緒に行ってくれて、ホント助かったよ。
正直、スイーツなどに疎いユウは、この手の情報に詳しい妹がそうやって手助けしてくれたことが、本当にありがたかった。ユメには、感謝感謝だ。
先程、母と一緒に玄関先まで見送りに来てくれた妹の笑顔を思い浮かべながらふと前を見ると、大きな柳の木の下にあるベンチに見知った姿を見かける。
いつもリハビリを兼ねた散歩の時に出会う、おじいさんだ。冬から変わらず、茶色のジャンパーを羽織り、杖を突きながらベンチに座っている。
「こんにちは」
ユウは笑顔で挨拶をした
向こうもユウに気付き、笑顔を返してくれた。このおじいさんは、いつも無言ではあったが、優し気な笑顔を返してくれるのだ。
冬の間、辛いリハビリに勤しむユウには、この笑顔がちょっとした励みになっていた。変わらぬ老人の笑顔に心が癒される。
よっぽど、この場所がお気に入りなのだろう。老人はいつも、このベンチに座っていた。そして大きな柳の木も、木製のベンチも、彼のことをとても愛しているようにユウは感じるのだった。
それから暫く歩いて広い緑地を抜けると、大きな橋が架かっている。そこで土手の上へと登り、川沿いの道を歩いていく。そこは大きな河川に支流が流れ込んでいる場所で、ユウは支流の方へと足を向けた。支流とはいっても十分に大きな河川である。
支流へ入って直にコンクリートで出来たつり橋が見えてきた。あの橋を過ぎれば、金森と待ち合わせている小学校が見えてくる筈だ。
ユウはスマホでチラリと時間を確認する。
時刻は午前11時15分。
このペースなら待ち合わせた時間より、大分早く着きそうだ。散歩がてら、のんびり歩いて行こうと思っていたが、流石に早く家を出発しすぎたかもしれなかった。
河川敷にある緑地帯を歩きながら、如月ユウは大きく伸びをする。
ゆっくりと周囲を見渡すと、緑を湛えた山々が360度周囲を覆う。緑はまだ深緑というよりも若葉色をしていて、今の季節しか見られない彩りでユウの心をワクワクと浮きたたせてくれた。
そして西の空の遥か遠くには、その山々を囲う様にまだ真っ白な姿のまま神秘的な雰囲気を漂わせた山脈が連なっている。・・アルプス山脈。
青い空にその姿は一層映え、美しさを際立たせていた。見ているだけで神聖な気持ちになってしまう。
ユウはその姿を眺めながら、一昨日出逢った姉妹のことを思い浮かべていた。
・・本当に、不思議な姉妹だよな。
自分が先生と呼ぶことになった姉の黒木紅葉は、落ち着いた優しい雰囲気の女性だ。彼女は他の生徒から、魔女と呼ばれているらしい。
彼女は確かに色々なことに精通しているし、図り難い不思議さを持っていた。それにかなりの変わり者の様だ。だがユウには思慮深く、とても聡明な女性に感じられた。
何より人に対する優しさを、持っている人だと思う。
一方、妹の青葉は何を考えているのか、さっぱり分からない。何せ彼女は、表情をほとんど変えることをしないからだ。
ユウが唯一分かるのは、彼女が何故か自分のことを敵視していることだけだった。そして腹が立つことに、そんな彼女はまるで妖精か女神みたいな美し過ぎる見た目をしているのだ。それにユウとの距離を一瞬で縮めたり、何の抵抗もなく腕を締め上げたりと、人間離れした能力を持っている。
あの容姿といい、あの能力といい、あの女は本当に人間なのか?と思ってしまう。
何故か遠くに連なるアルプス山脈の神聖な姿と黒木青葉の姿が重なり合って、ユウは思わず身震いした。
ただ金森いずみに対してそうだった様に、気を許した相手を大切に思う人間味を彼女が持ち合わせていたのが、唯一の救いだろう。
・・まあ、色々考えても仕方ないよな。やるだけやってみるさ。
そんな風に一度は不安に呑まれかけたユウの心を救ってくれたのは、どこからか聞こえてくるヒバリの鳴き声だった。可愛らしいその泣き声が、ユウの心をまた落ち着かせたのだ。・・まあ成るようにしかならないのだから、くよくよ考えていたって仕方がないんだ。
だって今、ユウが向かっているのは他でもない。思い浮かべていた当人達に会いに、二人が住む彼女達の自宅に向かっているのだから。
肩から下げたリュックには、今朝、妹のユメと二人で並んで買ったチーズケーキがホールのまま入っていた。妹に歓迎会の手土産を相談したところ、最近近所に出来たチーズケーキ屋のケーキが絶対おすすめとの事だった。その店のチーズケーキは朝から並ばないと買えないほど人気らしく、折角の日曜日の朝なのに6時30分にはユメに叩き起こされたのだ。
その時にはもうユメはすっかり着飾っていて、お前これから彼氏とデートにでも行くのかよ?と思うぐらいの高いテンションだった。そして楽しそうに自分の手を引いてケーキ屋まで連れて来ると、待っている間もずっとそれをキープし続けた。
・・きっとこのチーズケーキが、よっぽど美味しいんだろうな。
ユメはしっかり自宅用のケーキも買い込んでいたから、きっと今頃は母と二人でティータイムをご満悦中だろう。
・・だけどユメが一緒に行ってくれて、ホント助かったよ。
正直、スイーツなどに疎いユウは、この手の情報に詳しい妹がそうやって手助けしてくれたことが、本当にありがたかった。ユメには、感謝感謝だ。
先程、母と一緒に玄関先まで見送りに来てくれた妹の笑顔を思い浮かべながらふと前を見ると、大きな柳の木の下にあるベンチに見知った姿を見かける。
いつもリハビリを兼ねた散歩の時に出会う、おじいさんだ。冬から変わらず、茶色のジャンパーを羽織り、杖を突きながらベンチに座っている。
「こんにちは」
ユウは笑顔で挨拶をした
向こうもユウに気付き、笑顔を返してくれた。このおじいさんは、いつも無言ではあったが、優し気な笑顔を返してくれるのだ。
冬の間、辛いリハビリに勤しむユウには、この笑顔がちょっとした励みになっていた。変わらぬ老人の笑顔に心が癒される。
よっぽど、この場所がお気に入りなのだろう。老人はいつも、このベンチに座っていた。そして大きな柳の木も、木製のベンチも、彼のことをとても愛しているようにユウは感じるのだった。
それから暫く歩いて広い緑地を抜けると、大きな橋が架かっている。そこで土手の上へと登り、川沿いの道を歩いていく。そこは大きな河川に支流が流れ込んでいる場所で、ユウは支流の方へと足を向けた。支流とはいっても十分に大きな河川である。
支流へ入って直にコンクリートで出来たつり橋が見えてきた。あの橋を過ぎれば、金森と待ち合わせている小学校が見えてくる筈だ。
ユウはスマホでチラリと時間を確認する。
時刻は午前11時15分。
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