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第一章 出逢い
第25話 如月ユメの事情
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「・・あれ?お兄ちゃん、まだ帰って来てないのかな?」
辺りはすっかり日も暮れ、時刻は7時30分になろうとしていた。如月ユメが玄関の扉を開けて我が家に入ると、室内は真っ暗だった。カチリと灯りをつけて自室へと向かう。
「・・ふう」
制服から部屋着へと着替えると、ユメはやっと一息つけた気がした。やっぱり我が家は、心が落ち着く。
ユメが所属している吹奏楽部は、厳しい練習を行う事で有名だ。さらに4月から3年生になってパートリーダーを任されてからは、下級生の指導や他の楽器との連携、部長や顧問の先生とのやり取りなど自分の練習以外にやらなくてはいけない事が沢山ある。それにちょっと気を抜くと、パート内の部員同士のいざこざが起こったりしてパートをまとめるのも容易な事ではなかった。
ユメにとってこの2カ月間は、改めて先輩たちの凄さと自分の未熟さを痛感させられた日々だったのだ。
・・でも、泣き言なんて言ってられないよ。
部長には、親友の山崎桜が選ばれた。部長の仕事のプレッシャーに比べたら、パートリーダーくらいで泣き言は言っていられない。
早くパートをまとめ上げて、少しでも桜の手助けが出来るようにならなくっちゃ!と、ユメは心の中で自分を叱咤した。
実は、ユメには1年生の時から心に誓いを立てていることがある。それは今、自分が所属している吹奏楽部で、全日本吹奏楽コンクール中学生の部の全国大会に出場して、優秀な成績を収めること。
それは親友の桜と共通の誓いであり、二人が1年生の頃、当時の吹奏楽部を率いていた三年生の先輩、上地楓との約束でもあるのだ。ユメにとって楓先輩は、担当楽器であるホルンの演奏を徹底的に教えてくれた憧れの先輩だ。
・・楓先輩の演奏、本当に凄かったな。今の私じゃ、まだまだ全然だよ。
楓先輩の学年は小学校の時にマーチングバンドの全国大会で優秀な成績を収めたメンバーが、そのまま吹奏楽部の中心メンバーとなり、演奏はもちろんだが団結力も凄いものがあった。
だが全国大会出場確実と言われていたその先輩達ですら、全国には僅かに手が届かなかった。それだけ全国への道のりは険しいのだ。
その時の大会にユメと桜は1年生の選抜メンバーとして選ばれ、先輩達と一緒に演奏をして悔しい涙を飲んだ。
自分達の実力不足のせいで全国大会に行けなかった先輩達に申し訳ないと、涙が止まらなかった二人に楓先輩は、二人は本当によく頑張ったこと、そして出来るなら自分達が叶わなかった夢を二人に引き継いでほしいと言ってくれた。
だから二人は心からその約束を守りたいと誓い合って、今まで一緒に頑張ってきたのだ。
昨年は残念ながら全国へは届かなかった。だから残ったチャンスはあと一回だけだ。・・今、頑張るしかない。
・・楓先輩、元気にしてるかな?
楓先輩は小柄で可愛らしい人だ。でもいざ演奏となると、どこにそんなパワーがあるの?と、驚くほど力強く、そして見た目通りの繊細な演奏も出来る本当に凄い人だった。
どうやら楓先輩は、高校に進学してからも吹奏楽を続けているらしい。
ユメも進路は楓先輩が通う、星花女学園へ進むと早くから決めている。また先輩と一緒に演奏が出来る日々が来るなんて、想像するだけで今から楽しみでしかたがない。それに星花は兄が通う城西高校のすぐ隣にあり、安心感があった。
全国大会と高校受験。
頑張らなくてはならない事が、ユメには沢山あった。そんな中で兄のユウと過ごす時間が、ユメにとって唯一の息抜き出来る貴重な時間になっている。
事故にあう前からも、兄とは仲の良い兄妹だったと思う。
物心付いた頃から父親はいなかったし、仕事で母も帰りが遅かった。それでも兄妹で力を合わせて、なんとか楽しくやっていた。お互いに兄妹であり、同志の様な存在だった、と思う。
だからこそ兄が事故に遭い、命の危機にあると知った時のユメの衝撃は本当に大きかった。
危機から脱した後に兄が記憶を失っていると知った時も、兄と過ごしてきた一言では言い表せない様な時間が失われてしまうのではないかと、本当に怖かったのだ。
だが記憶を失ったままでも、兄はユメにとって掛け替えのない存在であることに変わりはなかった。
それに怪我が治りつつある最近の兄は、なんだか大人びたと言うか・・ 頼りがいがあった。
以前の兄はユメをからかってくることが多い子供っぽい性格だったが、今は自分の事以外の家事も率先してこなしてくれたり、ユメの話もちゃんと聞いてくれて、必要なら的確なアドバイスもしてくれる。
だから一緒に家事をしたり、テレビの前で兄妹二人の時間を過ごしている時に兄と何気なく交わす会話が、ユメにとって心からホッと出来る一時になっている。
・・お父さんって、あんな感じなのかな?
父のいないユメにとって、最近の兄は理想の父親のような存在だった。
でも、絶対に言えないけど・・
だけど最近のユメには、密かに思い悩んでいることがある。それは兄に対してドキッとしてしまう、自分の気持ちのことだ。
兄のちょっとした仕草や、自分に対する優しさを感じた時など、明らかに兄に対してドキドキしている自分がいるのだ。
・・どうしよう。私、最近おかしいよ。
以前は兄に対して絶対にそんな感情を抱くことなんてなかったのに・・ 最近の私は、どうかしている。
最近詰め込み過ぎだし・・
きっと、疲れているだけだよ。
そう自分に言い聞かせてから、ユメはしっかりしなきゃ!と頬をパンパンと叩いた。何故なら昔から母には、勘の鋭いところがあるからだ。ユメが何か隠し事をしていても、すぐに母には気づかれてしまう。最近、兄と話しをしている時にふと気付くと、母がユメをじっと見ている時がある。
・・母は、ユメの胸の中の小さな変化に気が付いたのかも知れなかった。
そんな漠然とした不安を感じながらトントンと階段を下りて、ユメは一回のリビングへと入って行く。これからユメは、夕飯の支度をするのだ。
辺りはすっかり日も暮れ、時刻は7時30分になろうとしていた。如月ユメが玄関の扉を開けて我が家に入ると、室内は真っ暗だった。カチリと灯りをつけて自室へと向かう。
「・・ふう」
制服から部屋着へと着替えると、ユメはやっと一息つけた気がした。やっぱり我が家は、心が落ち着く。
ユメが所属している吹奏楽部は、厳しい練習を行う事で有名だ。さらに4月から3年生になってパートリーダーを任されてからは、下級生の指導や他の楽器との連携、部長や顧問の先生とのやり取りなど自分の練習以外にやらなくてはいけない事が沢山ある。それにちょっと気を抜くと、パート内の部員同士のいざこざが起こったりしてパートをまとめるのも容易な事ではなかった。
ユメにとってこの2カ月間は、改めて先輩たちの凄さと自分の未熟さを痛感させられた日々だったのだ。
・・でも、泣き言なんて言ってられないよ。
部長には、親友の山崎桜が選ばれた。部長の仕事のプレッシャーに比べたら、パートリーダーくらいで泣き言は言っていられない。
早くパートをまとめ上げて、少しでも桜の手助けが出来るようにならなくっちゃ!と、ユメは心の中で自分を叱咤した。
実は、ユメには1年生の時から心に誓いを立てていることがある。それは今、自分が所属している吹奏楽部で、全日本吹奏楽コンクール中学生の部の全国大会に出場して、優秀な成績を収めること。
それは親友の桜と共通の誓いであり、二人が1年生の頃、当時の吹奏楽部を率いていた三年生の先輩、上地楓との約束でもあるのだ。ユメにとって楓先輩は、担当楽器であるホルンの演奏を徹底的に教えてくれた憧れの先輩だ。
・・楓先輩の演奏、本当に凄かったな。今の私じゃ、まだまだ全然だよ。
楓先輩の学年は小学校の時にマーチングバンドの全国大会で優秀な成績を収めたメンバーが、そのまま吹奏楽部の中心メンバーとなり、演奏はもちろんだが団結力も凄いものがあった。
だが全国大会出場確実と言われていたその先輩達ですら、全国には僅かに手が届かなかった。それだけ全国への道のりは険しいのだ。
その時の大会にユメと桜は1年生の選抜メンバーとして選ばれ、先輩達と一緒に演奏をして悔しい涙を飲んだ。
自分達の実力不足のせいで全国大会に行けなかった先輩達に申し訳ないと、涙が止まらなかった二人に楓先輩は、二人は本当によく頑張ったこと、そして出来るなら自分達が叶わなかった夢を二人に引き継いでほしいと言ってくれた。
だから二人は心からその約束を守りたいと誓い合って、今まで一緒に頑張ってきたのだ。
昨年は残念ながら全国へは届かなかった。だから残ったチャンスはあと一回だけだ。・・今、頑張るしかない。
・・楓先輩、元気にしてるかな?
楓先輩は小柄で可愛らしい人だ。でもいざ演奏となると、どこにそんなパワーがあるの?と、驚くほど力強く、そして見た目通りの繊細な演奏も出来る本当に凄い人だった。
どうやら楓先輩は、高校に進学してからも吹奏楽を続けているらしい。
ユメも進路は楓先輩が通う、星花女学園へ進むと早くから決めている。また先輩と一緒に演奏が出来る日々が来るなんて、想像するだけで今から楽しみでしかたがない。それに星花は兄が通う城西高校のすぐ隣にあり、安心感があった。
全国大会と高校受験。
頑張らなくてはならない事が、ユメには沢山あった。そんな中で兄のユウと過ごす時間が、ユメにとって唯一の息抜き出来る貴重な時間になっている。
事故にあう前からも、兄とは仲の良い兄妹だったと思う。
物心付いた頃から父親はいなかったし、仕事で母も帰りが遅かった。それでも兄妹で力を合わせて、なんとか楽しくやっていた。お互いに兄妹であり、同志の様な存在だった、と思う。
だからこそ兄が事故に遭い、命の危機にあると知った時のユメの衝撃は本当に大きかった。
危機から脱した後に兄が記憶を失っていると知った時も、兄と過ごしてきた一言では言い表せない様な時間が失われてしまうのではないかと、本当に怖かったのだ。
だが記憶を失ったままでも、兄はユメにとって掛け替えのない存在であることに変わりはなかった。
それに怪我が治りつつある最近の兄は、なんだか大人びたと言うか・・ 頼りがいがあった。
以前の兄はユメをからかってくることが多い子供っぽい性格だったが、今は自分の事以外の家事も率先してこなしてくれたり、ユメの話もちゃんと聞いてくれて、必要なら的確なアドバイスもしてくれる。
だから一緒に家事をしたり、テレビの前で兄妹二人の時間を過ごしている時に兄と何気なく交わす会話が、ユメにとって心からホッと出来る一時になっている。
・・お父さんって、あんな感じなのかな?
父のいないユメにとって、最近の兄は理想の父親のような存在だった。
でも、絶対に言えないけど・・
だけど最近のユメには、密かに思い悩んでいることがある。それは兄に対してドキッとしてしまう、自分の気持ちのことだ。
兄のちょっとした仕草や、自分に対する優しさを感じた時など、明らかに兄に対してドキドキしている自分がいるのだ。
・・どうしよう。私、最近おかしいよ。
以前は兄に対して絶対にそんな感情を抱くことなんてなかったのに・・ 最近の私は、どうかしている。
最近詰め込み過ぎだし・・
きっと、疲れているだけだよ。
そう自分に言い聞かせてから、ユメはしっかりしなきゃ!と頬をパンパンと叩いた。何故なら昔から母には、勘の鋭いところがあるからだ。ユメが何か隠し事をしていても、すぐに母には気づかれてしまう。最近、兄と話しをしている時にふと気付くと、母がユメをじっと見ている時がある。
・・母は、ユメの胸の中の小さな変化に気が付いたのかも知れなかった。
そんな漠然とした不安を感じながらトントンと階段を下りて、ユメは一回のリビングへと入って行く。これからユメは、夕飯の支度をするのだ。
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