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第一章 出逢い
第24話 予感
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オカルト研究部の三人と金森いずみは、帰宅の途にあった。本来なら駅までバスに乗るところだが、金森の提案で徒歩で駅に向かっている。
今、中央通りは黄昏時を向かえていた。街灯の下は明るいが、少し離れると人の表情までは分かり難い時刻だ。少し前を金森と青葉が歩き、少し遅れてユウと紅葉が並んで歩いている。
金森と青葉は何事か二人で話しているようだが、金森の声しかユウの耳に届いてはこなかった。青葉は元々あまり喋らない性格のようで、たぶん一方的に金森が話し掛けているのだろう。だが街灯の下で時折覗かせる青葉の表情には、先程ユウに見せた険のある顔とは違い優しさを伺い知ることが出来る。他者からは非常に分かり難いが、二人はお互いに会話を楽しんでいるのだろう。
「ふふっ二人とも楽しそうね。最近は私も青葉も部活が忙しくって、いずみちゃんと一緒に帰るなんて出来なかったから・・」
そう話す紅葉自身も、十分に楽しそうな笑顔だ。そういえば入部したはいいものの、部の活動については何も知らないままであることに気が付いて、ユウは部長である紅葉に尋ねてみることにした。
「・・オカルト研究部って、どんな活動をしているんですか?」
「そうね。基本的には来た依頼を解決するのが、主な部活内容よ。それと合わせてオカルトに関する情報収集と、その情報を検証してレポートに纏めたりもするわ」
「依頼?誰がどんな内容を依頼してくるんですか?」
「もちろん城西の生徒よ。ただ稀に学校とは関係ない人からの依頼が来ることがあるわ。例えば生徒の関係者とかね。依頼の内容は占いの希望が多いけれど、時々オカルトに関する相談も来たりする」
「オカルトの相談ですか? ・・どんな内容なんですか?」
「具体的に言うと、最近よく不幸な出来事に遭うから何かに取り憑かれていないか視てほしいとか、もっと具体的なモノを視てしまったから祓って欲しいっていう相談が多いわね。占いの方は、好きになった相手と両想いになりたいから恋占いをしてほしいっていう可愛らしい内容が殆どね」
「まるで、神社か寺みたいですね。占い師みたいな要素もあるし・・ 俺はもっと純粋にオカルトや都市伝説みたいなものを、研究している部なのかと思ってました」
「もちろん研究も大切よ。依頼が無い時は色々と研究もしているけれど、困っている人は、やっぱり放っておけないわ。私は日頃の研究の成果を生かして、困っている人に出来るだけ協力してあげたいの。人の役に立ってこその研究だものね」
この人らしい考え方だと思った。基本的にこの人は、お人好しなんだろう。
「・・そうですね。正直、話を聞いても何をどうしたらいいか分からないし、俺が手伝える事があるとは思えないけど、遣り甲斐がありそうなのは分かりました」
「ふふっ頼りにしてるわ。如月君」
「はい!俺、頑張ります。先生!」
ユウが元気な返事を返すと、それを聞いた紅葉の表情が曇る。先生と呼ばれることに、まだ抵抗があるようだ。
「・・ねえ、如月君。本当に、その呼び方でいくの?他にも幾らでも違う呼び方があると思うけれど・・ 例えば部長とか、下の名前の紅葉って呼んでくれてもいいのよ?」
「いえいえダメです!黒木先輩の命令なんで!」
ユウの答えを聞いた紅葉は、小さな溜息をついた。
「・・そう。気が向いたら、いつでも変えて貰っていいんだからね」
そして、また大きな溜息を一つ・・
「ところで如月君。明後日の日曜日は、何か予定はあるの?」
「・・え?別に何も無いですけど?」
「そう、よかった。ねぇ・・もしよかったら、うちに遊びに来ない?」
「えっ!先生の家にですか!? ・・行っても、いいんですか?」
「ええ、貴方の入部のお祝いって訳じゃないけれど、新入部員歓迎会ってことで、私の手料理をご馳走するわ。勿論、いずみちゃんも呼んで四人でどうかしら?」
なんだって? 先生の手料理だって?
・・それは是非、食べてみたい。
しかしそこでユウはあることに気が付く。それは先生の家ということは、あの女の家でもあるということだ。正直言って、せっかくの休日にあの女と顔を合わせたくはない。それは間違いなく、お互いにそうだろう。
「先生、折角お誘い頂いたのに申し訳ないんですが・・先生のご自宅ってことは、黒木先輩の家ってことですよね?先輩は、俺がお邪魔するのは嫌だと思いますよ。それに他のご家族の方にも悪いですし・・」
「ふふっ、うちの家族はそういうの慣れているから大丈夫よ。それにきっと青葉も歓迎すると思う」
・・いや、絶対にそれは無いって。
「如月君はどう思っているか分からないけれど、あの子はあの子なりに如月君のことを気に入ったみたいだから・・」
いやいや、お言葉ですが先生。・・あんた、おかしいよ?
さっきの一触即発の状況を見て、何でそう感じるの?
などと思いを巡らせながら、返す言葉が思いつかないでいるユウが言葉を詰まらせていると、隣を歩く少し変わった感覚の持ち主に笑顔を向けられる。
「・・だって初めて会った人に、あの子があんなに感情を出すことなんてこと、今までなかったの。普通は一言も口をきかないんだから」
ああ、そういうこと・・
先生、それなら俺、理由が何となく分かります。それはよっぽど、先輩が俺のことを嫌いってことなんです。そうツッコミを入れたくはなったが、口にはしなかった。
まあ・・怒こるにしても口をきかないにしても、やっぱりあの女とは気が合いそうにないからだ。
・・やれやれ。
心の中で溜息をつきながら、のんびり過ごすはずだった日曜日の予定が消えたのが分かった。そして如月ユウは、見慣れた街並みを目に写しながら気の休まらない日々の始まりを予感した。
今、中央通りは黄昏時を向かえていた。街灯の下は明るいが、少し離れると人の表情までは分かり難い時刻だ。少し前を金森と青葉が歩き、少し遅れてユウと紅葉が並んで歩いている。
金森と青葉は何事か二人で話しているようだが、金森の声しかユウの耳に届いてはこなかった。青葉は元々あまり喋らない性格のようで、たぶん一方的に金森が話し掛けているのだろう。だが街灯の下で時折覗かせる青葉の表情には、先程ユウに見せた険のある顔とは違い優しさを伺い知ることが出来る。他者からは非常に分かり難いが、二人はお互いに会話を楽しんでいるのだろう。
「ふふっ二人とも楽しそうね。最近は私も青葉も部活が忙しくって、いずみちゃんと一緒に帰るなんて出来なかったから・・」
そう話す紅葉自身も、十分に楽しそうな笑顔だ。そういえば入部したはいいものの、部の活動については何も知らないままであることに気が付いて、ユウは部長である紅葉に尋ねてみることにした。
「・・オカルト研究部って、どんな活動をしているんですか?」
「そうね。基本的には来た依頼を解決するのが、主な部活内容よ。それと合わせてオカルトに関する情報収集と、その情報を検証してレポートに纏めたりもするわ」
「依頼?誰がどんな内容を依頼してくるんですか?」
「もちろん城西の生徒よ。ただ稀に学校とは関係ない人からの依頼が来ることがあるわ。例えば生徒の関係者とかね。依頼の内容は占いの希望が多いけれど、時々オカルトに関する相談も来たりする」
「オカルトの相談ですか? ・・どんな内容なんですか?」
「具体的に言うと、最近よく不幸な出来事に遭うから何かに取り憑かれていないか視てほしいとか、もっと具体的なモノを視てしまったから祓って欲しいっていう相談が多いわね。占いの方は、好きになった相手と両想いになりたいから恋占いをしてほしいっていう可愛らしい内容が殆どね」
「まるで、神社か寺みたいですね。占い師みたいな要素もあるし・・ 俺はもっと純粋にオカルトや都市伝説みたいなものを、研究している部なのかと思ってました」
「もちろん研究も大切よ。依頼が無い時は色々と研究もしているけれど、困っている人は、やっぱり放っておけないわ。私は日頃の研究の成果を生かして、困っている人に出来るだけ協力してあげたいの。人の役に立ってこその研究だものね」
この人らしい考え方だと思った。基本的にこの人は、お人好しなんだろう。
「・・そうですね。正直、話を聞いても何をどうしたらいいか分からないし、俺が手伝える事があるとは思えないけど、遣り甲斐がありそうなのは分かりました」
「ふふっ頼りにしてるわ。如月君」
「はい!俺、頑張ります。先生!」
ユウが元気な返事を返すと、それを聞いた紅葉の表情が曇る。先生と呼ばれることに、まだ抵抗があるようだ。
「・・ねえ、如月君。本当に、その呼び方でいくの?他にも幾らでも違う呼び方があると思うけれど・・ 例えば部長とか、下の名前の紅葉って呼んでくれてもいいのよ?」
「いえいえダメです!黒木先輩の命令なんで!」
ユウの答えを聞いた紅葉は、小さな溜息をついた。
「・・そう。気が向いたら、いつでも変えて貰っていいんだからね」
そして、また大きな溜息を一つ・・
「ところで如月君。明後日の日曜日は、何か予定はあるの?」
「・・え?別に何も無いですけど?」
「そう、よかった。ねぇ・・もしよかったら、うちに遊びに来ない?」
「えっ!先生の家にですか!? ・・行っても、いいんですか?」
「ええ、貴方の入部のお祝いって訳じゃないけれど、新入部員歓迎会ってことで、私の手料理をご馳走するわ。勿論、いずみちゃんも呼んで四人でどうかしら?」
なんだって? 先生の手料理だって?
・・それは是非、食べてみたい。
しかしそこでユウはあることに気が付く。それは先生の家ということは、あの女の家でもあるということだ。正直言って、せっかくの休日にあの女と顔を合わせたくはない。それは間違いなく、お互いにそうだろう。
「先生、折角お誘い頂いたのに申し訳ないんですが・・先生のご自宅ってことは、黒木先輩の家ってことですよね?先輩は、俺がお邪魔するのは嫌だと思いますよ。それに他のご家族の方にも悪いですし・・」
「ふふっ、うちの家族はそういうの慣れているから大丈夫よ。それにきっと青葉も歓迎すると思う」
・・いや、絶対にそれは無いって。
「如月君はどう思っているか分からないけれど、あの子はあの子なりに如月君のことを気に入ったみたいだから・・」
いやいや、お言葉ですが先生。・・あんた、おかしいよ?
さっきの一触即発の状況を見て、何でそう感じるの?
などと思いを巡らせながら、返す言葉が思いつかないでいるユウが言葉を詰まらせていると、隣を歩く少し変わった感覚の持ち主に笑顔を向けられる。
「・・だって初めて会った人に、あの子があんなに感情を出すことなんてこと、今までなかったの。普通は一言も口をきかないんだから」
ああ、そういうこと・・
先生、それなら俺、理由が何となく分かります。それはよっぽど、先輩が俺のことを嫌いってことなんです。そうツッコミを入れたくはなったが、口にはしなかった。
まあ・・怒こるにしても口をきかないにしても、やっぱりあの女とは気が合いそうにないからだ。
・・やれやれ。
心の中で溜息をつきながら、のんびり過ごすはずだった日曜日の予定が消えたのが分かった。そして如月ユウは、見慣れた街並みを目に写しながら気の休まらない日々の始まりを予感した。
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