上 下
21 / 100
第一章 出逢い

第21話 希望の光

しおりを挟む
「そう、貴方自身で自分に催眠を行うの。そうすれば、全ての問題は解決するわ。

第一に信頼関係の問題だけど、自分自身だもの、そもそも問題ではなくなる。
第二に覚悟の問題だけど、リスクを顧みず自分自身に催眠を行こなった時点でクリアしたと言える。
第三の時間の問題については、長い時間が掛かるのは変わらないけれど自分のペースで進めることが出来るのが、大きな利点ね」

「ちょ、ちょっと待って下さい!確かに問題は解決しますけど、自分自身に催眠を掛けることなんて出来るんですか?そもそも俺は、催眠なんて出来ないですよ!」

予想外の方向に話が進んでいって、少し語尾が荒くなってしまう。しかしユウのそんな様子に少しも慌てる事もなく、黒木先輩の説明は続いた。

「自分自身に催眠を掛けることなら出来るわ。二人は自己暗示って言葉を聞いたことは、ないかしら?」

「・・はい、あります。確か自分自身に強い想いや願いを何度も繰り返し擦り込んで、暗示を掛けて実力以上の力を発揮させたりするスポーツ選手とかが、よく使っているヤツですよね?」

「そうね。大まかにはそんな意味で使われることが多い言葉だけれど、自己暗示も自己催眠の一つなのよ」

・・確かにそうかもしれない。自己暗示は自分自身に催眠を掛けている様に感じる。

「何となくイメージは出来るかしら?まあ難しい話はともかく、私は自己催眠の方法を知っている。そして貴方が望むなら、その方法を貴方に教えてあげる。
もちろん自己催眠だけでなく、催眠について私が知っている全てを貴方に教えるつもり。幸い私がこの高校を卒業するまでには、まだ時間があるわ。その間に貴方が自分に催眠を行えるように、みっちり教えてあげるから安心して」

・・確かに自分自身に催眠療法を行えるようになれば、誰に迷惑を掛ける事もなく記憶を取り戻していけるかもしれない。ユウはそう思った。

ただ、ユウには分からない事が一つあった。

「・・なるほど確かに先輩の言う通り、その方法が一番いい気がしますね」

ただ・・、とユウは続けた。

「何で俺に、そこまでしてくれるんですか?催眠を教えるって言っても、それだって簡単なことじゃないですよね?」

すると黒木先輩は、ふふふっと笑って・・

「もちろん無料で教えるとは言ってないわ。だから貴方には、この部に入って私を手伝って欲しいの。正直、二人だけの部員じゃ手が回らなくて困ってるのよ。・・どうかしら?」

「・・俺みたいにオカルトの事なんて何も知らない素人が入部しても、逆に足手まといになるだけじゃないですか?」

「そんなことはないわ。私を含めて部員は女性ばかりだから、男手は大助かりよ」

「・・先輩、本当のこと言って下さい。何で今日初めて会った俺に、そこまで肩入れしてくれるんですか?」

ユウは俯きながら先輩に尋ねた。なぜか黒木先輩の顔をまともに見れなかったからだ。すると先輩は、またふふっと優しく微笑んでからこう言った。

「男手が必要なのは本当。ただ私が貴方に協力する事に、どうしても理由を付けろって言うのなら・・ 貴方が、私を信頼してくれたから」

その言葉に思わず顔を上げたユウの瞳に飛び込んできたのは・・

夕焼けの光を浴びて紅葉色に輝いた、少しウェーブのかかった美しい髪と瞳。

そして・・

それ以上に眩しい、黒木紅葉の優しい笑顔だ。


「・・黒木先輩。俺・・お世話になります。よろしくお願いします」

「決まりね。入部を歓迎するわ、如月君」

そして黒木先輩は笑顔のまま、机ごしに右手を差し出した。それにユウも握手で応える。初めて握る黒木先輩の手は、ユウの心を落ち着かせる温かい手だ。


「・・・ところで、何で金森は泣いてるんだ?」

と、そこでユウは隣に座っている金森に視線を向ける。そこには大粒の涙を零しながら嬉しそうに笑っている金森いずみの姿があった。

「・・だってだって。紅葉ちゃん、ありがとう。ほんとによかったね、如月くん」

「まだ、気が早いだろ。今、始まったばかりなんだからさ。でも・・でも本当だな。
みんな金森のお陰だよ。俺、頑張ってみるからさ、迷惑掛けるかもしれないけど、これからも宜しく頼むな金森」

「うん!こちらこそ、よろしくね如月くん!」

精一杯の笑顔で金森いずみに感謝の気持ちを伝えたユウと、太陽みたいな笑顔でそれに応えた金森いずみ。そしてそれを眩しそうに見つめる黒木紅葉。三人が三人共、これから始まる新しい生活に希望の光を見出していた。


ガチャリ・・

その時、背後で扉の開く音がした。人の足音など全く気が付かなかったので少し驚き、ユウが扉の方を振り向くと・・

そこには、一人の少女が立っていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~

ちひろ
青春
 おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東な体験をする話

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女子高生は小悪魔だ~教師のボクはこんな毎日送ってます

藤 ゆう
青春
ボクはある私立女子高の体育教師。大学をでて、初めての赴任だった。 「男子がいないからなぁ、ブリっ子もしないし、かなり地がでるぞ…おまえ食われるなよ(笑)」 先輩に聞いていたから少しは身構えていたけれど… 色んな(笑)事件がまきおこる。 どこもこんなものなのか? 新米のボクにはわからないけれど、ついにスタートした可愛い小悪魔たちとの毎日。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

学校一のモテ男がドS美少女に包囲されているらしい

無地
青春
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。あらゆるモテ要素を凝縮した男、朝日空(あさひそら)。彼が道を歩けば、女子は黄色い声援を浴びせ、下駄箱にはいつも大量のラブレター。放課後は彼に告白する女子の行列が出来る……そんな最強モテライフを送っていた空はある日、孤高の美少女、心和瑞月(こよりみづき)に屋上へ呼び出される。いつも通り適当に振ろうと屋上へ向かう空だったが……?!

【声劇台本】青春ロンダリング

喜多朱里
青春
【あらすじ】 部活や委員会、教室で駄弁る生徒、意中の相手を呼び出しての告白――夕日に彩られた学校で繰り広げられる青春の数々。 佐山涼と東條彩音の二人は放課後を迎えると、それらの光景に背を向けて学校を後にする。 ある日、いつもどおりの帰路で、いつも同じ姿があることに気付いた二人はお互いの存在に興味を抱く。 やがて興味は奇妙な仲間意識へと変わり、二人は一緒に帰るようになった。 「家族に必要とされることが苦なんて思ってねぇよ。勝手に俺を不幸にしてんじゃねぇ」 「好きでゲームしてるんだぞ。それのどこが『灰色の青春』なのさ」 学校から最寄り駅までの十分間――強がりな二人のひねくれた青春が幕を開ける。 【基本情報】 ・演者:2人(男1、女1) ・時間:約30分 ・アドリブ、性別変更、改変などはご自由にどうぞです。特に使用制限もございません。

処理中です...