20 / 100
第一章 出逢い
第20話 勧誘
しおりを挟む「こんな所に穴がある」
そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。
「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」
僕は不満げに唇を突き出した。
ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。
どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
「寒い…」
指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。
「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」
ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
僕は振り向きラズールに走り寄る。
ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。
「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」
カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。
「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」
僕はラズールの前に出て先に歩く。
しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。
そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。
「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」
僕は不満げに唇を突き出した。
ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。
どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
「寒い…」
指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。
「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」
ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
僕は振り向きラズールに走り寄る。
ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。
「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」
カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。
「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」
僕はラズールの前に出て先に歩く。
しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ
椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。
クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。
桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。
だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。
料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる