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本編
LEVEL42 / 作戦会議(前編)
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10分間の休憩が終わり、教室に再び杉田が戻ってきた。続いて石津が杉田の後から教室に入ってくる。
1人の生徒に2人の講師。しかも両者とも表情は穏やかではない……
「何ですか一体?」
勇斗は大人2人から注がれる重苦しい目線を遮るかのように尋ねた。
「実は、龍崎君に頼みがあるんだ……」
最初に石津が口を開く。そして杉田がそれに頷く。
「もしかして、ゲーム合宿の話ですか?」
「そう」
石津は無表情に頷く。
そして杉田が、いつもなら「さすが、察しが早い! 」と軽い冗談の一つでも飛ばすであろう……が、今は表情一つ変えず、その視線は勇斗ではなく石津に注がれている。
「話は杉田先生から聞いていると思うけど」
「僕の感想文が話題になってるってことですか?」
「そう、それで龍崎君にお願いがあるんだ」
――お願い。この言葉が出てくるのは早くも2回目だ。
「何をお願いするんですか?」
「学生ゼミナールを宣伝して欲しい」
「ちょ、先生。それストレートすぎ! 」
勇斗よりも早く杉田が石津に対し、突っ込みを入れる。むろん、勇斗も同じく突っ込もうとする。が、
「黙っていなさい」
石津の表情は相変わらず深刻だ。いつもならこの辺で「名コンビ」ぶりを発揮するであろう彼等が、今はどうも噛み合っていない。
「龍崎君。君は何故、この学進ゼミナールに入ると決めたんだ?」
「何故って……近いから、ですかね」
「それは君の意見?それとも君の親の意見?」
「どちらかというと……親です」
確かに、学進ゼミナールの入塾を決めたのは勇斗本人ではなく親。それも父親の広王の意見だ。
「親父ですよ! 何でも課題をたくさんやれば成績が伸びるからって」
勇斗の言っていることは間違っていない。さらに、もっといってしまえば父親の「ゲーム嫌い」にある。いや、厳密にいえばゲームが嫌いなのではなく「勉強そっちのけで」ゲームをやる息子が気に食わないのだろう。
「やっぱりそうか……」
「そうですよ! 」
「実はね、それじゃ成績は伸びないんだ。むしろ下がる」
「下がるって……じゃあ何で課題やるんですか! 」
「今からそれを話そうと思う」
学進ゼミナールは課題が多い。それは生徒の学力向上に役立つと思われており、実際にそれが学進ゼミの「謳い文句」である。
そしてその「大量に出される課題」を目当てに自分の子供を入塾させようとする親が「メインターゲット」だ。現に龍崎家でも入塾を決めたのは勇斗本人ではなく、父親である。
「僕達は君よりもむしろ、君のお父さんを狙った」
「それっておかしくないですか?勉強するのは僕ですよ?」
「そう、おかしい。けど、これが塾の現実なんだ」
「塾の現実?何ですか、それ?」
石津によれば、学進ゼミで大量の課題を出すのは「親を安心させるため」なのだという。
自分の子供が延々と机に向かって大量の課題をこなしている姿を見ると「ちゃんと勉強をしている」と考え、心が落ち着くのだという。
「成績が上がんなきゃ意味ないでしょうが! 」
「そう、でも君の親は必ずしもそうじゃない」
「そうじゃない、といいますと? 」
ゲーム感想文が課題として出された時、当然ながら勇斗はゲームをやった。それは読書感想文で課題図書を読むのと同様、「課題ゲーム」をプレイしただけである。
だが、父親はそんな勇斗をしきりに「勉強していない」と怒る。そして「今日は何時間机に向かったか?」と尋ねるのである。
何時間「勉強したか」ではない。何時間「机に向かったか」
である。
「勉強の「型」っていうんですかね?それに異常にこだわるんですよ」
「そう、だから君ではなく、君のお父さんのために課題を出す。これが塾の方針だ」
「どういうことですか、それ?」
つまり塾は課題を大量に出すことで「何時間も机に向かっている子供の姿」を親に見せようとしたというのである。
そこに成績を上げるとか効率よく学習させようという発想はない。単に「親から受講料を巻き上げようとする」のを目的とした内容ということだ。
「そんなの納得できないですよ! 」
「そう、だから君には課題を出さなかった」
本気で成績を上げようとするならば、大量の課題はいらない。
むしろそのような「無駄な課題」をなくすことで、本来やるべきことを最初にやらせる方が重要なのである。
「君は実質3時間の勉強で成果を出したわけだ」
「確かに、言われてみればそうかもしれません」
3時間……そう、今の自分は3時間の授業。厳密に言うと2時間+1時間の授業だ。
机に向かっている時間が2時間、いや1時間だったら父親は何というだろうか?きっと「もっと勉強しろ!」というだろう。
「でもね、実際に君の成績が上がれば文句はないはず」
「確かにそうです。けど、僕はそんなに成績良くないんで……」
むろん、勇斗はそのような「課題漬け」に不満がなかったわけじゃない。というより、大いにあった。しかし実績、即ち「成績アップ」が伴わなければ何の反論も出来ない。
成績が上がらない自分が、親に対して「課題が意味ない」なんて言ったら一体、どうなるだろうか?
「そんなことは結果を出してから言え! 」
間違いなく、そう逆ギレされる。
課題をやらずに結果を出す方法なんて聞こうとしても、成績が上がらない以上、結局頭ごなしに否定されてしまう。だから、その結果とやらを出したいから無駄な課題をやりたくなかったのにもかかわらずで、ある。
逆に、大量の課題を全部こなした状態で結果を出せば、それに味をしめた親父は間違いなく「もっと課題をやれ」「課題をやればやるほど成績が上がる」と調子に乗るだろう。
「今まで、言えなかったことを言ってみたらいいんじゃないか?」
「でも、そんなこと出来ますかね?」
「出来る。言ったじゃないか、君は注目されているって」
――もし、今の自分にそれを言う権利があるのであれば、やはり言いたいと思う。
だが、意外にもそんな勇斗の気持ちに異を唱えたのは杉田であった。
「なあ龍崎、これって要するにどういうことだと思う?」
「どういうことって、何ですか?」
「つまりお前も石津先生も。あと俺も学進ゼミに対して喧嘩を売るってこと」
1人の生徒に2人の講師。しかも両者とも表情は穏やかではない……
「何ですか一体?」
勇斗は大人2人から注がれる重苦しい目線を遮るかのように尋ねた。
「実は、龍崎君に頼みがあるんだ……」
最初に石津が口を開く。そして杉田がそれに頷く。
「もしかして、ゲーム合宿の話ですか?」
「そう」
石津は無表情に頷く。
そして杉田が、いつもなら「さすが、察しが早い! 」と軽い冗談の一つでも飛ばすであろう……が、今は表情一つ変えず、その視線は勇斗ではなく石津に注がれている。
「話は杉田先生から聞いていると思うけど」
「僕の感想文が話題になってるってことですか?」
「そう、それで龍崎君にお願いがあるんだ」
――お願い。この言葉が出てくるのは早くも2回目だ。
「何をお願いするんですか?」
「学生ゼミナールを宣伝して欲しい」
「ちょ、先生。それストレートすぎ! 」
勇斗よりも早く杉田が石津に対し、突っ込みを入れる。むろん、勇斗も同じく突っ込もうとする。が、
「黙っていなさい」
石津の表情は相変わらず深刻だ。いつもならこの辺で「名コンビ」ぶりを発揮するであろう彼等が、今はどうも噛み合っていない。
「龍崎君。君は何故、この学進ゼミナールに入ると決めたんだ?」
「何故って……近いから、ですかね」
「それは君の意見?それとも君の親の意見?」
「どちらかというと……親です」
確かに、学進ゼミナールの入塾を決めたのは勇斗本人ではなく親。それも父親の広王の意見だ。
「親父ですよ! 何でも課題をたくさんやれば成績が伸びるからって」
勇斗の言っていることは間違っていない。さらに、もっといってしまえば父親の「ゲーム嫌い」にある。いや、厳密にいえばゲームが嫌いなのではなく「勉強そっちのけで」ゲームをやる息子が気に食わないのだろう。
「やっぱりそうか……」
「そうですよ! 」
「実はね、それじゃ成績は伸びないんだ。むしろ下がる」
「下がるって……じゃあ何で課題やるんですか! 」
「今からそれを話そうと思う」
学進ゼミナールは課題が多い。それは生徒の学力向上に役立つと思われており、実際にそれが学進ゼミの「謳い文句」である。
そしてその「大量に出される課題」を目当てに自分の子供を入塾させようとする親が「メインターゲット」だ。現に龍崎家でも入塾を決めたのは勇斗本人ではなく、父親である。
「僕達は君よりもむしろ、君のお父さんを狙った」
「それっておかしくないですか?勉強するのは僕ですよ?」
「そう、おかしい。けど、これが塾の現実なんだ」
「塾の現実?何ですか、それ?」
石津によれば、学進ゼミで大量の課題を出すのは「親を安心させるため」なのだという。
自分の子供が延々と机に向かって大量の課題をこなしている姿を見ると「ちゃんと勉強をしている」と考え、心が落ち着くのだという。
「成績が上がんなきゃ意味ないでしょうが! 」
「そう、でも君の親は必ずしもそうじゃない」
「そうじゃない、といいますと? 」
ゲーム感想文が課題として出された時、当然ながら勇斗はゲームをやった。それは読書感想文で課題図書を読むのと同様、「課題ゲーム」をプレイしただけである。
だが、父親はそんな勇斗をしきりに「勉強していない」と怒る。そして「今日は何時間机に向かったか?」と尋ねるのである。
何時間「勉強したか」ではない。何時間「机に向かったか」
である。
「勉強の「型」っていうんですかね?それに異常にこだわるんですよ」
「そう、だから君ではなく、君のお父さんのために課題を出す。これが塾の方針だ」
「どういうことですか、それ?」
つまり塾は課題を大量に出すことで「何時間も机に向かっている子供の姿」を親に見せようとしたというのである。
そこに成績を上げるとか効率よく学習させようという発想はない。単に「親から受講料を巻き上げようとする」のを目的とした内容ということだ。
「そんなの納得できないですよ! 」
「そう、だから君には課題を出さなかった」
本気で成績を上げようとするならば、大量の課題はいらない。
むしろそのような「無駄な課題」をなくすことで、本来やるべきことを最初にやらせる方が重要なのである。
「君は実質3時間の勉強で成果を出したわけだ」
「確かに、言われてみればそうかもしれません」
3時間……そう、今の自分は3時間の授業。厳密に言うと2時間+1時間の授業だ。
机に向かっている時間が2時間、いや1時間だったら父親は何というだろうか?きっと「もっと勉強しろ!」というだろう。
「でもね、実際に君の成績が上がれば文句はないはず」
「確かにそうです。けど、僕はそんなに成績良くないんで……」
むろん、勇斗はそのような「課題漬け」に不満がなかったわけじゃない。というより、大いにあった。しかし実績、即ち「成績アップ」が伴わなければ何の反論も出来ない。
成績が上がらない自分が、親に対して「課題が意味ない」なんて言ったら一体、どうなるだろうか?
「そんなことは結果を出してから言え! 」
間違いなく、そう逆ギレされる。
課題をやらずに結果を出す方法なんて聞こうとしても、成績が上がらない以上、結局頭ごなしに否定されてしまう。だから、その結果とやらを出したいから無駄な課題をやりたくなかったのにもかかわらずで、ある。
逆に、大量の課題を全部こなした状態で結果を出せば、それに味をしめた親父は間違いなく「もっと課題をやれ」「課題をやればやるほど成績が上がる」と調子に乗るだろう。
「今まで、言えなかったことを言ってみたらいいんじゃないか?」
「でも、そんなこと出来ますかね?」
「出来る。言ったじゃないか、君は注目されているって」
――もし、今の自分にそれを言う権利があるのであれば、やはり言いたいと思う。
だが、意外にもそんな勇斗の気持ちに異を唱えたのは杉田であった。
「なあ龍崎、これって要するにどういうことだと思う?」
「どういうことって、何ですか?」
「つまりお前も石津先生も。あと俺も学進ゼミに対して喧嘩を売るってこと」
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