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本編
LEVEL38 / 出来る人は、出来ない人の気持ちが分からない
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「阪口塾に奪われたシェアをどう奪回するか? 」
勇斗達の合宿計画が決まった頃、学進ゼミナールではスタッフ会議が開かれていた。
「こんな感じなんですよ」
会議に参加していた千賀美智子は、阪口塾に通っている高校1年生の妹の萌衣から借りたテキストを石津に見せた。本来は外部に持ち出し禁止だが、妹にお願いして密かに借りてきたものだ。
そして、その国語のテキストには「読書感想文の手引き」という欄がある。
「指示語と接続語をきちんと理解しよう」
なるほど、確かにそれは読書感想文には重要だ。
「なぜ感動したのか」あるいは「なぜ面白かったのか? 」を説明するには、その根拠が必要だ。小論文でいう「論理展開」である。
「面白いのに理由なんかいらない! 」とでも書ければよいのだが……小説の中の台詞ならばいざ知らず、実際の課題提出においてそれは認められない。
つまるところ、読書感想文が書けない理由は「接続語の使い方」である。それを学校できちんと教えていないのが原因と言っても過言ではない。
(接続語の説明とは、いいところに目を付けたな……)
それが阪口塾のテキストに対する石津の感想だ。問題は、このテキストを見た生徒が、その重要性をどこまで理解できるかだろう。
「でも、これって理解しづらそうっすね」
石津が考えている間に、杉田がテキストの感想を述べる。
「実は……俺もそう思ったよ」
杉田に続く形で、石津は彼に感想に同意した。
「どういうことですか? 」
千賀が、彼等に対して不思議そうに尋ねる。
「接続語、っていう表現だよ」
「そのとおりっすね」
彼女はどうやら、彼等の言っている内容が理解出来ないらしい。そして怪訝そうな顔を浮かべて尋ねた。
「間違ってるんですか? 」
「いや、間違ってないよ」
「じゃあ、何がいけないんですか? 」
一体何が問題なのだろうか? 目の前にあるテキストの内容を理解できるのが実は良い事ではなく、悪い事なのだろうか?
「千賀さん、あなたはテキストの内容を理解できてますよね? 」
「そう、ミッチー頭いいから」
ますます意味がわからない。確かに自分はこのテキストの内容を理解できる。
だが、何故それが「頭のいい人」なのか? しかもそれが良いのではなく、逆に悪いみたいではないか。
「頭いいとダメなんですか? 」
「ダメってわけじゃないですが……」
「いや、ダメだね。これじゃ理解できないよ、多分」
奥歯にものが挟まったような言い方をする石津に対し、杉田の回答はストレートである。
「だから「連想ゲーム」って言ってるじゃん! 」
「そう、杉田先生のおっしゃるとおりです」
例えば「読書感想文はなぜ難しいのか? 」というのを、連想ゲーム形式で考えてみたとする。
読書感想文は難しい
↓(なぜなら)
接続語の使い方をきちんと教わっていない
↓(だから)
面白かった部分の理由が説明できない
↓(ところが)
説明できない理由は「内容を理解してないから」と思っている。
↓(したがって)
内容を理解しようと「暗記もどき」に走る
↓(その結果)
あらすじを詳しく書いた時点で原稿用紙が埋まってしまう
↓(結局)
接続語を知らなくても「書けた気分」になってしまう
簡単な「連想ゲーム」だ。
だが不思議な事に、これを連想ゲームではなく「接続語」と言った途端、多くの生徒は「思考停止に陥ってしまう」のである。
「接続語の使い方を正しく説明しろ、なんてバカなこと言ってる教師がいるんじゃないっすかね~」
杉田の考えは当たらずとも遠からずだった。なぜなら「連想ゲーム」といえば、多くの人間は自由な発想で物事を考えようとする。
例えば「だが」と「しかし」は一緒の意味だし、あるいは接続語の使い方が多少いい加減でも「ゲームなら許される」と思って自由に考えられる。
にもかかわらず「接続語」と、いかにもお勉強じみた言葉に言い換えた途端、多くの人間は「接続語って何だったっけ? 」というように思考回路が切り替わってしまうのである。
「接続語って何と何があったっけ? 」
「間違ってたら怒られるんじゃないか? 」
そういう心理状態なってしまった以上、文章の組み立てを自由に考える「心の余裕」がどっかに吹っ飛んでしまう……
石津はこの感覚を非常に不思議だと考えている。しかし実は「文章が書けない」理由の大半はこの「伝え方が悪い」のが原因であることを、大半の人間が知らないのである。
もっとも大学受験で、いわゆる「難関大学」に合格するためにはこの接続語の話、「常識中の常識」だ。おそらくこのテキストを作った人間は千賀同様、「接続語の使い方」を教科書を見ただけで理解できる人なのではないか……
(自分にはその「常識」がなかったんだよ……)
石津は高校時代、偏差値が40しかなかった。そして国語、とりわけ現代文は苦手な科目であった。
数学や理科は私立文系に絞ることで「切り捨てる」ことが可能だ。しかし国語は文系科目である以上、切り捨てるわけにはいかない……
そんな彼を変えるきっかけとなったのが予備校の「小論文講座」だった。
「文章って連想ゲームみたいなもんなんですよ……」
接続語を接続語と言わず「連想ゲーム」と説明する。そして自由な発想で文章を組み立てている中で、いつの間にか接続語を自由に使いこなせている……
そして「書き手の視点」で文章を考える事で、読み手。即ち「現代文の読み方」を理解した結果、最大の苦手科目は一転、得意科目にすることが出来たのである。
東大生である杉田にとってこれは当然、常識だろう。だが彼は多くの「難関大学の合格者」と異なり、これを理解できない生徒の気持ちをきちんと理解している。
彼が自分の「連想ゲームという、接続語の言い換え表現」をすんなりと受け入れてくれたのも、おそらく「自分と感覚が違う」出来ない生徒の感覚を理解できているからなのだろう。
「これ、ゲーム感想文講座も同じっすかね? 」
「おそらく、そうだろうな」
「だとしたら、こっちにチャンスがあるっすよ」
重苦しい雰囲気が支配していた会議の中、杉田が放った一言に出席者たちの表情が一変した。
勇斗達の合宿計画が決まった頃、学進ゼミナールではスタッフ会議が開かれていた。
「こんな感じなんですよ」
会議に参加していた千賀美智子は、阪口塾に通っている高校1年生の妹の萌衣から借りたテキストを石津に見せた。本来は外部に持ち出し禁止だが、妹にお願いして密かに借りてきたものだ。
そして、その国語のテキストには「読書感想文の手引き」という欄がある。
「指示語と接続語をきちんと理解しよう」
なるほど、確かにそれは読書感想文には重要だ。
「なぜ感動したのか」あるいは「なぜ面白かったのか? 」を説明するには、その根拠が必要だ。小論文でいう「論理展開」である。
「面白いのに理由なんかいらない! 」とでも書ければよいのだが……小説の中の台詞ならばいざ知らず、実際の課題提出においてそれは認められない。
つまるところ、読書感想文が書けない理由は「接続語の使い方」である。それを学校できちんと教えていないのが原因と言っても過言ではない。
(接続語の説明とは、いいところに目を付けたな……)
それが阪口塾のテキストに対する石津の感想だ。問題は、このテキストを見た生徒が、その重要性をどこまで理解できるかだろう。
「でも、これって理解しづらそうっすね」
石津が考えている間に、杉田がテキストの感想を述べる。
「実は……俺もそう思ったよ」
杉田に続く形で、石津は彼に感想に同意した。
「どういうことですか? 」
千賀が、彼等に対して不思議そうに尋ねる。
「接続語、っていう表現だよ」
「そのとおりっすね」
彼女はどうやら、彼等の言っている内容が理解出来ないらしい。そして怪訝そうな顔を浮かべて尋ねた。
「間違ってるんですか? 」
「いや、間違ってないよ」
「じゃあ、何がいけないんですか? 」
一体何が問題なのだろうか? 目の前にあるテキストの内容を理解できるのが実は良い事ではなく、悪い事なのだろうか?
「千賀さん、あなたはテキストの内容を理解できてますよね? 」
「そう、ミッチー頭いいから」
ますます意味がわからない。確かに自分はこのテキストの内容を理解できる。
だが、何故それが「頭のいい人」なのか? しかもそれが良いのではなく、逆に悪いみたいではないか。
「頭いいとダメなんですか? 」
「ダメってわけじゃないですが……」
「いや、ダメだね。これじゃ理解できないよ、多分」
奥歯にものが挟まったような言い方をする石津に対し、杉田の回答はストレートである。
「だから「連想ゲーム」って言ってるじゃん! 」
「そう、杉田先生のおっしゃるとおりです」
例えば「読書感想文はなぜ難しいのか? 」というのを、連想ゲーム形式で考えてみたとする。
読書感想文は難しい
↓(なぜなら)
接続語の使い方をきちんと教わっていない
↓(だから)
面白かった部分の理由が説明できない
↓(ところが)
説明できない理由は「内容を理解してないから」と思っている。
↓(したがって)
内容を理解しようと「暗記もどき」に走る
↓(その結果)
あらすじを詳しく書いた時点で原稿用紙が埋まってしまう
↓(結局)
接続語を知らなくても「書けた気分」になってしまう
簡単な「連想ゲーム」だ。
だが不思議な事に、これを連想ゲームではなく「接続語」と言った途端、多くの生徒は「思考停止に陥ってしまう」のである。
「接続語の使い方を正しく説明しろ、なんてバカなこと言ってる教師がいるんじゃないっすかね~」
杉田の考えは当たらずとも遠からずだった。なぜなら「連想ゲーム」といえば、多くの人間は自由な発想で物事を考えようとする。
例えば「だが」と「しかし」は一緒の意味だし、あるいは接続語の使い方が多少いい加減でも「ゲームなら許される」と思って自由に考えられる。
にもかかわらず「接続語」と、いかにもお勉強じみた言葉に言い換えた途端、多くの人間は「接続語って何だったっけ? 」というように思考回路が切り替わってしまうのである。
「接続語って何と何があったっけ? 」
「間違ってたら怒られるんじゃないか? 」
そういう心理状態なってしまった以上、文章の組み立てを自由に考える「心の余裕」がどっかに吹っ飛んでしまう……
石津はこの感覚を非常に不思議だと考えている。しかし実は「文章が書けない」理由の大半はこの「伝え方が悪い」のが原因であることを、大半の人間が知らないのである。
もっとも大学受験で、いわゆる「難関大学」に合格するためにはこの接続語の話、「常識中の常識」だ。おそらくこのテキストを作った人間は千賀同様、「接続語の使い方」を教科書を見ただけで理解できる人なのではないか……
(自分にはその「常識」がなかったんだよ……)
石津は高校時代、偏差値が40しかなかった。そして国語、とりわけ現代文は苦手な科目であった。
数学や理科は私立文系に絞ることで「切り捨てる」ことが可能だ。しかし国語は文系科目である以上、切り捨てるわけにはいかない……
そんな彼を変えるきっかけとなったのが予備校の「小論文講座」だった。
「文章って連想ゲームみたいなもんなんですよ……」
接続語を接続語と言わず「連想ゲーム」と説明する。そして自由な発想で文章を組み立てている中で、いつの間にか接続語を自由に使いこなせている……
そして「書き手の視点」で文章を考える事で、読み手。即ち「現代文の読み方」を理解した結果、最大の苦手科目は一転、得意科目にすることが出来たのである。
東大生である杉田にとってこれは当然、常識だろう。だが彼は多くの「難関大学の合格者」と異なり、これを理解できない生徒の気持ちをきちんと理解している。
彼が自分の「連想ゲームという、接続語の言い換え表現」をすんなりと受け入れてくれたのも、おそらく「自分と感覚が違う」出来ない生徒の感覚を理解できているからなのだろう。
「これ、ゲーム感想文講座も同じっすかね? 」
「おそらく、そうだろうな」
「だとしたら、こっちにチャンスがあるっすよ」
重苦しい雰囲気が支配していた会議の中、杉田が放った一言に出席者たちの表情が一変した。
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