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本編
LEVEL37 / こんなはずじゃなかった
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龍造寺隆は学年の男子としては成績優秀で知られている。おそらく読書感想文も問題なく書いてくるような生徒だろう。そんな彼が合宿に参加したいというのは意外だった。
それだけではない。クラスに「龍」という名が付く名字は自分の龍崎。そして彼の龍造寺ということもあって、成績優秀な彼は「いい方の龍」。そしてもう一方、即ち自分は「悪い方の龍」と密かにあだ名されている。
そんな経緯もあり、勇斗は龍造寺に対してあまりいい印象を持っていなかった。出席番号の都合上、頻繁に顔を合わせる事も多いものの、何となく敬遠している生徒であることは間違いない。
「アイツさ、ドラクエをまだクリアしてないんだって」
なるほど、と勇斗は思った。
成績優秀な彼のことだ。きっと例年の、「文学作品の」読書感想文であれば問題なく終わっていただろう。
だが、ゲーム感想文となると話は別だ。
きっとゲームより勉強を優先するであろう彼のことだ。逆に「課題ゲーム」が進まず、感想文を書けない状態であることは容易に想像がつく。
もっとも自分が杉田から教わった感想文の書き方であれば、そもそもゲーム自体をやる必要がないのだが……
「で、大橋は?」
「あいつの家、実はゲームないんだって」
大橋透……何となく目立たない奴だというイメージだ。むろん、勇斗も決してクラス内で目立つ存在ではないのだが。
いじめに遭っている、という噂も聞く。しかし自分は被害者はもちろん、加害者としても関わりたくないため、彼もまた「敬遠している生徒の一人」である。
「じゃあ何で手を挙げたんだよ?」
今回、ゲーム感想文を書かされてるのは「賛成」に挙手した生徒のみだ。一見すると「女子は課題を免除」のように思われているが、それはゲーム感想文に挙手しなかったのが、たまたま女子全員だったというだけのことである。
「別に男子であっても、挙手しなければゲーム感想文の課題をしなくてもよかったはず……」
勇斗は自分が特別、国語力があるとは思っていない。しかしその時の玉野の提示した条件だけはしっかりと覚えていた。
「だってさ、手を挙げないと仲間外れにされそうじゃん?」
確かに、と勇斗は思った。あれはゲーム感想文を課題としてやるかどうかというよりも「男子対女子の対決」といった様相を呈していた。
したがって男子に「俺はやらない」という選択肢は存在しない状況だ。仮にそんなことを主張して仲間外れにされるくらいなら、男子というグループの一員に入っていた方が安全だと判断したのだろう。
「なるほど。で、村中は?」
「夜の学校の校内を撮影したいって」
村中誠人はクラスでも有名なゲームオタクだ。本人自身は「将来の夢はYoutuber」と語っており、実際に彼が投稿した動画をネット上で視聴することが出来る。
なるほど、夜の校舎を撮影すれば再生数を多く稼げる可能性は高い。しかし実際にそれが出来る機会なんて、実際にはほとんど存在しない。
仮にやるとすれば多くは「不法侵入」となるだろう。当然だがそれは「炎上」の可能性がある。
再生数を稼ぎたいため、いわゆる「立ち入り禁止区域」に無断で入る。そして大炎上した挙句、視聴者がYouTubeに通報したために動画が削除されたケースは存在する。
そんな状況の中、夜中の学校に「合法的に侵入できる」となれば、確かにオイシイ話と言えるのかもしれない。少なくとも彼にとってはそうだ。
「あいつ、課題は終わったのか?」
「いや、多分終わってないだろ」
彼は以前、試験期間中も「動画の編集作業が大変で」とぼやいており、YouTubeにどっぷり浸かっている生活スタイルは勇斗にとって少々……いや、かなり違和感を覚えたことがある。
(大丈夫なんだろうか?いや、待てよ……)
例えば夜の校舎を「探検」する。これはドラクエにおける「ダンジョン」そのものではないか?だとすれば、彼の目的は今回のゲーム感想文合宿という趣旨に大きく貢献してくれるものなのかもしれない。
「まあいいや。で、その7人で報告しとくけど?」
「了解。頼むよ」
▽
稔との通話が終了すると、勇斗は先程の玉野からの電話で着信記録に残っていた番号、即ち虎ノ口中学校に電話をした。
「はい、虎ノ口中学校でございます」
「あの、2年A組の龍崎勇斗といいます。玉野先生いらっしゃいますか?」
「玉野先生、ちょっと待ってね」
しばらくすると、玉野が電話に出る。
「もしもし、玉野だが」
「玉野先生、合宿の人数ですが」
「合宿か。で、何人だ?」
「7人です。自分と羽賀、佐田、当間、龍造寺、大橋、村中です」
「合宿の日程は?」
「23日から。2泊3日でお願いします」
「そうか、わかった」
とりあえず、合宿のメンバーと日程は整った。あとは自分が学進ゼミナールで教わった内容を参加者達に教えられればよいのだが……
それだけではない。クラスに「龍」という名が付く名字は自分の龍崎。そして彼の龍造寺ということもあって、成績優秀な彼は「いい方の龍」。そしてもう一方、即ち自分は「悪い方の龍」と密かにあだ名されている。
そんな経緯もあり、勇斗は龍造寺に対してあまりいい印象を持っていなかった。出席番号の都合上、頻繁に顔を合わせる事も多いものの、何となく敬遠している生徒であることは間違いない。
「アイツさ、ドラクエをまだクリアしてないんだって」
なるほど、と勇斗は思った。
成績優秀な彼のことだ。きっと例年の、「文学作品の」読書感想文であれば問題なく終わっていただろう。
だが、ゲーム感想文となると話は別だ。
きっとゲームより勉強を優先するであろう彼のことだ。逆に「課題ゲーム」が進まず、感想文を書けない状態であることは容易に想像がつく。
もっとも自分が杉田から教わった感想文の書き方であれば、そもそもゲーム自体をやる必要がないのだが……
「で、大橋は?」
「あいつの家、実はゲームないんだって」
大橋透……何となく目立たない奴だというイメージだ。むろん、勇斗も決してクラス内で目立つ存在ではないのだが。
いじめに遭っている、という噂も聞く。しかし自分は被害者はもちろん、加害者としても関わりたくないため、彼もまた「敬遠している生徒の一人」である。
「じゃあ何で手を挙げたんだよ?」
今回、ゲーム感想文を書かされてるのは「賛成」に挙手した生徒のみだ。一見すると「女子は課題を免除」のように思われているが、それはゲーム感想文に挙手しなかったのが、たまたま女子全員だったというだけのことである。
「別に男子であっても、挙手しなければゲーム感想文の課題をしなくてもよかったはず……」
勇斗は自分が特別、国語力があるとは思っていない。しかしその時の玉野の提示した条件だけはしっかりと覚えていた。
「だってさ、手を挙げないと仲間外れにされそうじゃん?」
確かに、と勇斗は思った。あれはゲーム感想文を課題としてやるかどうかというよりも「男子対女子の対決」といった様相を呈していた。
したがって男子に「俺はやらない」という選択肢は存在しない状況だ。仮にそんなことを主張して仲間外れにされるくらいなら、男子というグループの一員に入っていた方が安全だと判断したのだろう。
「なるほど。で、村中は?」
「夜の学校の校内を撮影したいって」
村中誠人はクラスでも有名なゲームオタクだ。本人自身は「将来の夢はYoutuber」と語っており、実際に彼が投稿した動画をネット上で視聴することが出来る。
なるほど、夜の校舎を撮影すれば再生数を多く稼げる可能性は高い。しかし実際にそれが出来る機会なんて、実際にはほとんど存在しない。
仮にやるとすれば多くは「不法侵入」となるだろう。当然だがそれは「炎上」の可能性がある。
再生数を稼ぎたいため、いわゆる「立ち入り禁止区域」に無断で入る。そして大炎上した挙句、視聴者がYouTubeに通報したために動画が削除されたケースは存在する。
そんな状況の中、夜中の学校に「合法的に侵入できる」となれば、確かにオイシイ話と言えるのかもしれない。少なくとも彼にとってはそうだ。
「あいつ、課題は終わったのか?」
「いや、多分終わってないだろ」
彼は以前、試験期間中も「動画の編集作業が大変で」とぼやいており、YouTubeにどっぷり浸かっている生活スタイルは勇斗にとって少々……いや、かなり違和感を覚えたことがある。
(大丈夫なんだろうか?いや、待てよ……)
例えば夜の校舎を「探検」する。これはドラクエにおける「ダンジョン」そのものではないか?だとすれば、彼の目的は今回のゲーム感想文合宿という趣旨に大きく貢献してくれるものなのかもしれない。
「まあいいや。で、その7人で報告しとくけど?」
「了解。頼むよ」
▽
稔との通話が終了すると、勇斗は先程の玉野からの電話で着信記録に残っていた番号、即ち虎ノ口中学校に電話をした。
「はい、虎ノ口中学校でございます」
「あの、2年A組の龍崎勇斗といいます。玉野先生いらっしゃいますか?」
「玉野先生、ちょっと待ってね」
しばらくすると、玉野が電話に出る。
「もしもし、玉野だが」
「玉野先生、合宿の人数ですが」
「合宿か。で、何人だ?」
「7人です。自分と羽賀、佐田、当間、龍造寺、大橋、村中です」
「合宿の日程は?」
「23日から。2泊3日でお願いします」
「そうか、わかった」
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