上 下
27 / 45
本編

LEVEL24 / 合宿計画(後編)

しおりを挟む
 「でも、そんなお金ないだろ? 」
 「いや、旅館とかそういうのじゃないよ」
 「じゃあ、何? 」
 「とりあえずOKしてくれそうな奴の家」
 「オイオイ、何だよそれ」
 「俺も一応、親に頼んでみるからさ」

 なるほど、それなら大してお金はかからない。しかし、それにしても「宿題合宿」なんて前代未聞だ。

 1人や2人ならば許可してくれる親もいるだろう。が、それが5人あるいは10人くらいとなるとどうだろうか? 

 現にほとんどの生徒が宿題を終えていない状況だ。もしクラス全体を巻き込むことになれば、一人の家に20人以上が押し掛ける事になってしまうのではないか……


 「なんか、無理っぽくね? 」
 「大丈夫だよ、そんなに人来ないって」
 「何でそう言えるんだよ」
 「だって、みんな部活いそがしいじゃん」

 勇斗は、と思った。

 確かに、部活で忙しい連中は泊まり込みで宿題など出来ないだろう。なぜなら翌日、練習がある。

 あるいは現在、合宿で家を空けている奴もいるかもしれない。そうなると、この企画に参加出来る奴はどうだろう……勇斗が考えたところ、おそらく5人もいればいいという感じだ。


 「まあ、俺達も含めてせいぜい3~4人だろうな」

 稔も勇斗と同意見どういけんだ。そして更に、

 「4人くらいが終われば、全員終わるんじゃねーの? 」

 つまり稔に言わせれば、宿題を終わらせた「メンバー」が、それぞれ別の友達に教えれば解決する、という算段さんだんだ。


 「なるほど」
 「だろう? 」
 「お前、そういうとこ「だけ」は頭いいよな」
 「だけ、は余計だろ! 」

 なるほど。確かに、今の勇斗なればゲーム感想文の書き方をクラス全員に教える……それだけじゃない、学年全体で「国語の授業」だって出来そうな感じだ。

 しかし、夏休みも残り10日を切った。そんな状態で今から全員と連絡をとり、そして個別に対応するなんてまず不可能だ。


 そういえばテレビのニュースでやっていたな。何だっけ? グラスに注がれたお酒が上から流れて行く……そうそう「トリクルダウン」だったっけ? 

 それならば自分一人だけで何もかもやる必要はない。稔の提案は、一見冗談のようにも感じられるが、よくよく考えてみれば非常に効率のいい方法といえるだろう。


 「それじゃさ、俺が連絡してみるから」
 「ああ、頼むよ」
 「明日、もう一度連絡するわ」
 「OK、じゃあお願い」

 そう確認すると、稔は電話を切った。


 稔は部活をやっていない。いわゆる「帰宅部」だ。しかし、こういったコミュニケーション力とか、あるいは情報じょうほう収集しゅうしゅう能力のうりょくは何かな、運動部のマネージャーとかに向いてんじゃないかと思う。

 ドラクエだと何だろうな? 仲間をまとめ上げるってことは……


 (あいつ、実は勇者に向いてんじゃねーの? )

 ふと勇斗は思った。もしこの合宿が成功したとして、ゲーム感想文に合宿の計画から実行を書くとする。

 そして、「自分が仲間を集めた方法」という経験をもとに感想文を書けばよいのではないだろうか? 


 (ま、合宿というのが実現すればの話だけどな……)

 やはり宿題合宿、なんて前代未聞ぜんだいみもんなのだ。それに、いくら子供の友達だからって、そう簡単にめてくれる家なんてあるわけがない。


 現に自分の家の場合、親は絶対に断るだろう。その理由はもちろん「正しい勉強のやり方じゃない」からだ。

 おそらくは、やれ学校の先生の引率いんそつがなければダメだとか、あるいはゲームを持ち込んだらダメだとか、まるで修学旅行か何かのようなルールを押し付けてくるに違いない。


 ▽

 時刻は525を回っている。

 「そうだ、塾に電話してみるか! 」

 もしかしたら、最大で5人くらいが集まる。ドラクエでいえば「パーティーの人数」くらいにはなっている。

 仮に合宿……そうでなくても稔と、そして他の友達と一緒になる時間があるとすれば、おそらく自分では考えない発想で文章が書けるのではないか。

 だとすれば、事前に確認しておいて損はなさそうな気がする。


 勇斗はスマホを取り出し、学進ゼミへ電話をする。

 「お電話ありがとうございます。学進ゼミナール虎ノ口校でございます」

 電話の声は若い女性。おそらく千賀美智子せんがみちこだろう。

 「あの、龍崎です」
 「ああ、龍崎君。こんばんわ」
 「こんばんわ。杉田先生いらっしゃいますか? 」
 「ごめんね。杉田先生、今授業中だけど」
 「何時に終わります? 」
 「ちょっと待ってね」

 千賀がスケジュールを確認するため、電話を保留状態にする。そして1分くらい経過しただろうか。


 「もしもし、龍崎君」
 「はい」
 「6時頃かな、こちらから折り返し電話するけど」
 「よろしくお願いします」
 「杉田先生に伝えておくこととかある? 」
 「そうですね……宿題の質問とかで」
 「了解」

 
 ▽

 電話を切ってから40分くらい経った。

 「ブーブーブー」

 マナーモードに設定していた勇斗のスマホが鳴る。電話の主は学進ゼミだが、おそらく杉田だろう。


 「もしもし」
 「龍崎? 今、大丈夫? 」
 「大丈夫です」
 
 案の定、杉田だ。

 「宿題で質問があるって聞いたけど」
 「実は、友達と会うんですよ」
 「なるほど、で? 」
 「たぶん、3人~5人くらいなんです」
 「そうか」
 「これって、ドラクエのパーティーくらいの人数ですよね? 」
 「なるほど、つまり自分と友達の立場を比較したいってことか? 」
 「そうです」

 もし、自分が勇者だったら? あるいは友達の誰かを勇者にするとしたら……そんな話を友達同士でやれば、大いに盛り上がるのではないか? 


 「一つだけアドバイスがあるな」
 「何ですか? 」
 「君が仲間外れになること」
 「何ですか? それ」
 「もし5人だったらな」
 「どういうことですか? 」
 「ドラクエって、3~4人編成だろ? 」
 「そうですけど? 」
 「5人だと、誰かが余るわけだ」
 「確かにそうですね」
 「で、そこで「抜ける」役、やってみろよ」

 なるほど、これは勇斗も想像していたし、感想文にも少しだがれた内容だ。

 例えば自分が勇者になるとした場合、自分一人で感想文を書く場合は「ほぼ無条件に」勇者となる。


 だが、大勢で「各自かくじの役割を与える」となった場合、どうだろうか? 必然的に「ポジション争い」が発生する。

 希望の役を与えられなかった人間には不満が残るだろうし、何よりパーティーから「」にされた友達とはギクシャクしてしまうかもしれない。

 だとすれば、


 「最初に僕が抜ければいいんですよね? 」
 「そう、が最初に言い出さないとな」

 もし仮に何人かが集まったとして、例えば勉強が出来る。あるいはスポーツの出来る奴が「パーティー」でも発言力を持つだろう。

 そうなると、その中で「下位」あるいは「役立たず」にされてしまった奴は可哀想だ。


 しかし、最初から自分が「嫌な立場の役」を引き受けると宣言すれば……

 おそらく、既に感想文を書き終えた自分は間違いなく「最も重要なメンバー」となる。しかし、そこで調子に乗ったらダメと言う事なのだろう。


 「お前、今度はもしかしたらかもな」
 「王様? 僕が、ですか? 」
 「そう、魔王を倒すメンバーを決める役」
 「なるほど」

 いわば「司会進行役」みたいな感じだろうか。

 確かに。魔王を倒すのに必要なのは、何もプレイヤーが操作するキャラクターだけとは限らない。

 例えば、些細ささいな情報提供者に過ぎない村人むらびとや、伝説の武器のを教える町の長老みたいな人も、もしかしたら「自分の適性に合った存在」かもしれない。


 「ちょっと聞いていいですか? 」
 「ああ、いいよ」
 「村人の立場でドラクエを論ずる、ってアリですか? 」
 「もちろん。ソレ、面白そうじゃん」

 なるほど、ならばもっと極端な事例。例えば魔物モンスター魔王ラスボスといった立場で論じてもおそらくOKだろう。


 それって、もしかして……

 「魔王の適性がある奴っていますかね? 」
 「もちろん、いるとも」

 例えば5人の内、自分が魔王の立場になるとする。そして残りの4人がパーティーを組む……そんな「ロールプレイ」も可能なのではないか? 

 「分かりました、ありがとうございます」
 「これでいいか? 」
 「大丈夫です」
 「それじゃ、次な」

 次の予定を確認し、杉田は電話を切った。


 (自分がもし魔王ならば、どうやって勇者を倒すだろうか? )

 面白そうだ。そして「友達の」勇者と意見を交わしてみる。


 「もし合宿になれば、この話題で盛り上がりそうだな」
 
 まだ決まってわけでもない「合宿」。しかし勇斗は不安よりもむしろ「これは成功するだろう」という大きな期待感を感じつつあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

ひきこもりニートの俺がVTuberアイドルになった話

ハリネズミの肉球
ライト文芸
俺、淡路アンが国立競技場でライブ出演!! たった3年でメジャーデビューしたアイドル達の結成、成長、デビュー、国立競技場までの道のりを描いたストーリー。 アイドル達はちょっとわけあり? あつまるメンバーにも秘密が! 今までにみたことがないアイドルストーリーがここに開幕。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?

きんちゃん
青春
レビュー。ネット小説におけるそれは単なる応援コメントや作品紹介ではない。 優秀なレビュワーは時に作者の創作活動の道標となるのだ。 数々のレビューを送ることでここアルファポリスにてカリスマレビュワーとして名を知られた文野良明。時に厳しく、時に的確なレビューとコメントを送ることで数々のネット小説家に影響を与えてきた。アドバイスを受けた作家の中には書籍化までこぎつけた者もいるほどだ。 だがそんな彼も密かに好意を寄せていた大学の同級生、草田可南子にだけは正直なレビューを送ることが出来なかった。 可南子の親友である赤城瞳、そして良明の過去を知る米倉真智の登場によって、良明のカリスマレビュワーとして築いてきた地位とプライドはガタガタになる!? これを読んでいるあなたが送る応援コメント・レビューなどは、書き手にとって想像以上に大きなものなのかもしれません。

処理中です...