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本編
LEVEL23 / 合宿計画(前編)
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「終わった! 」
午後12時50分。勇斗は感想文を書き終えると、帰る支度をし、そしてその足でスタッフルームに向かった。
その直後に杉田が昼ご飯を食べ終わったのか、スタッフルームに戻ってきた。
「終わったのか? 」
「終わりました」
「どれ、見せてみ? 」
「これです」
勇斗は書き終わった原稿を杉田に渡す。すると彼は1枚目を見るなり、
「よし、80点」
「あとは見なくていいんですか? 」
「見なくても分かるよ。よくやった」
「あ、ありがとうございます! 」
そして杉田は2枚目の原稿を読み始めようとすると、
「これ、コピーしていいかな? 」
「大丈夫ですけど」
勇斗がそう言うと、杉田はコピー機のある場所にいき、コピーを取り始める。
コピーを終えた彼は、勇斗に対して言った。
「じゃあ、これ返すから」
「ありがとうございます」
杉田から原稿を受け取り、カバンに入れようとすると、彼は再び勇斗に尋ねる。
「ところで、玉野先生だっけ? 」
「玉野が何か? 」
「その人、ゲーム好き? それとも嫌い」
「何バカな事言ってるんですか! 」
玉野というのは、とにかくゲームというものを目の敵にする。そして生徒から没収したゲーム機を、本人が卒業するまで返さない。そんな彼を「魔王」あるいは「泥棒」という生徒だっている。
「本当にバカか? 」
「バカですよ。いくら何でも」
「意外にゲーム好きなんじゃないの? 」
「有り得ないですね」
「そうか、ならいいんだけどな」
何を訳のわからない事を言っているのだ。冗談でもさすがに常識と非常識というものがある。
アイツの立場がドラクエのゲームのシナリオにおける「王様」というのはいいとして……それが本人のゲーム好きと関係あるとでもいうのだろうか?
「大体、何でそんな発想が浮かぶんですか! 」
「そうだなぁ、何ていうか「勘」かな? 」
「いい加減なこと言わないでくださいよ」
「そうだな、いい加減だよな」
杉田は自分から言い出した話を自ら放り投げるかの如く、その場を収拾させようとした。
「それで、宿題の事だけど」
「宿題、ですか? 」
勇斗はすっかり忘れていた。別に、今の話で激高したからとか、そういう問題ではない。
単に忘れていた。そういえば、自分は宿題を出されていたな。
「何でしたっけ? 」
「勇者以外の立場で考えて来い」
「分かりました」
ようやく平静を取り戻すと、勇斗はカバンの中をチェックし、先程入れた原稿の存在を確かめる。
「じゃあ、失礼します」
「おう、じゃあ次な」
▽
帰り際、勇斗は独り考えていた。
ドラクエにおける「主人公の代名詞」ともいえるのが「勇者」という存在だ。攻撃も、魔法も「2番手」である。よくいえば「何でもできる」であり、悪く言えば「中途半端」だ。
そんな自分を勇者に例えた場合、自分がその地位にいる理由は「他のメンバーの能力を活かす」というのが勇斗の考えだった。
(では、勇者以外だと自分は一体、何になるのだろう? )
考えられるのは、例えば自分が魔法使いだとして、自分よりも攻撃力の高いキャラをパーティーに加えようとする。
そして、そのキャラを探すのが最初の旅の目的……大体、こんな感じだろうか。
「そうか、なるほど」
今までドラクエにおける自分のポジンションンは、「ほぼ無条件に」勇者だと思っていた。なぜなら、ゲームにおける主人公が他ならぬ自分自身であるから。
しかし、その条件を完全にひっくり返した場合、どうなるだろうか?
「自分では意識していなかった、自分の適性を考えろ」
いわゆる「自己分析」というやつである。今回の課題はそういうものなのだろう、と思った。
「では、自分にはどんな特性があるのだろうか? 」
▽
家に帰り、遅めの昼食をとる。
そして二階の自分の部屋に戻ると、感想文を書き終えた疲れがどっと出たのか、そのままベッドに倒れて「寝落ち」してしまった。
「ヤベ、寝ちまった」
気付けば夕方の5時である。遠くから聞こえる学校のチャイム音が、まるで目覚まし時計か何かのように勇斗の頭に鳴り響く。
「ブーブーブー」
そのチャイム音に続くかのように、マナーモードに設定した彼のスマホに着信音が鳴る。電話の主は稔である。
「もしもし、龍崎か? 」
「ああ」
「ゲーム感想文、どう? 」
「どうって? 」
「いや、言ったじゃん」
自分は既に感想文を書き終えている。そして杉田からも「合格点」ともいえる80点の評価をもらっている。
「やっぱ書けねえの? 」
「書けないんだよ……」
俺、何すっ呆けてんだろ、思いつつ、勇斗とは一つの判断に迫られていた。
ここで稔には現状を正直に明かすべきなのか? それとも今の段階では、まだ言わない方がよいのだろうか?
「俺、塾に通ってんだけどさ」
「いや、それは聞いたって」
「それでさ」
「それで? 」
彼の判断は「真実を明かす」であった。
「いや、終わったんだよ。一応」
「オイ、マジかよ! 」
「いや、マジだって」
電話の向こうの稔は、どうやら信じられないという様子である。教えてほしい、というよりもとにかく「信じられない」が先のようだ。
「それ、マジでやばいよ! 」
ここで言う「ヤバイ」というのは、悪いという意味ではない。むしろ逆である。
「スゲー! 信じらんない」
そんな感情が入った表現だろうか。
「で、何書いたんだよ? 」
まるで自分を救世主か何かとでも思っているのだろうか? それとも「さっさと答え、教えろ」ということなのだろうか?
「別に、そんなに難しい事じゃないけど」
「勿体ぶってないで、早く言えよ」
勇斗は自分が塾で習った事。即ち連想ゲームの話をした。
単にゲームの内容を説明するのではなく、自分の身近な出来事と比較する。そして最後に、「ドラクエから学んだことは何か? 」という話で締め括る。例えばチームワーク、といった感じで。
「何となく、分かった気もするけど……」
言われてみれば、言葉のやり取りだけで全てを説明するのは難しいのかもしれない。
「それで龍崎、相談なんだけどさ」
「相談? 」
「一度会わねえ? 」
「別に、いいけど」
「それとさ、他の奴はどうする? 」
「みんなで宿題をやろうって事? 」
「そういうこと」
なるほど、稔の事だ。おそらくクラスの他の連中に対してもこまめに確認をしているのだろう。
(つまり、誰も終わっていないということか)
少なくとも稔が確認した友達は全員、だ。
「でも、全員だと時間かかるんじゃねーの? 」
「それでさ龍崎、合宿やらねえ? 」
「合宿? 」
「そう、合宿」
部活の合宿みたいなものだろうか? 宿題のために集まった連中が、どっかの旅館か何かを借りようってことだろうか?
午後12時50分。勇斗は感想文を書き終えると、帰る支度をし、そしてその足でスタッフルームに向かった。
その直後に杉田が昼ご飯を食べ終わったのか、スタッフルームに戻ってきた。
「終わったのか? 」
「終わりました」
「どれ、見せてみ? 」
「これです」
勇斗は書き終わった原稿を杉田に渡す。すると彼は1枚目を見るなり、
「よし、80点」
「あとは見なくていいんですか? 」
「見なくても分かるよ。よくやった」
「あ、ありがとうございます! 」
そして杉田は2枚目の原稿を読み始めようとすると、
「これ、コピーしていいかな? 」
「大丈夫ですけど」
勇斗がそう言うと、杉田はコピー機のある場所にいき、コピーを取り始める。
コピーを終えた彼は、勇斗に対して言った。
「じゃあ、これ返すから」
「ありがとうございます」
杉田から原稿を受け取り、カバンに入れようとすると、彼は再び勇斗に尋ねる。
「ところで、玉野先生だっけ? 」
「玉野が何か? 」
「その人、ゲーム好き? それとも嫌い」
「何バカな事言ってるんですか! 」
玉野というのは、とにかくゲームというものを目の敵にする。そして生徒から没収したゲーム機を、本人が卒業するまで返さない。そんな彼を「魔王」あるいは「泥棒」という生徒だっている。
「本当にバカか? 」
「バカですよ。いくら何でも」
「意外にゲーム好きなんじゃないの? 」
「有り得ないですね」
「そうか、ならいいんだけどな」
何を訳のわからない事を言っているのだ。冗談でもさすがに常識と非常識というものがある。
アイツの立場がドラクエのゲームのシナリオにおける「王様」というのはいいとして……それが本人のゲーム好きと関係あるとでもいうのだろうか?
「大体、何でそんな発想が浮かぶんですか! 」
「そうだなぁ、何ていうか「勘」かな? 」
「いい加減なこと言わないでくださいよ」
「そうだな、いい加減だよな」
杉田は自分から言い出した話を自ら放り投げるかの如く、その場を収拾させようとした。
「それで、宿題の事だけど」
「宿題、ですか? 」
勇斗はすっかり忘れていた。別に、今の話で激高したからとか、そういう問題ではない。
単に忘れていた。そういえば、自分は宿題を出されていたな。
「何でしたっけ? 」
「勇者以外の立場で考えて来い」
「分かりました」
ようやく平静を取り戻すと、勇斗はカバンの中をチェックし、先程入れた原稿の存在を確かめる。
「じゃあ、失礼します」
「おう、じゃあ次な」
▽
帰り際、勇斗は独り考えていた。
ドラクエにおける「主人公の代名詞」ともいえるのが「勇者」という存在だ。攻撃も、魔法も「2番手」である。よくいえば「何でもできる」であり、悪く言えば「中途半端」だ。
そんな自分を勇者に例えた場合、自分がその地位にいる理由は「他のメンバーの能力を活かす」というのが勇斗の考えだった。
(では、勇者以外だと自分は一体、何になるのだろう? )
考えられるのは、例えば自分が魔法使いだとして、自分よりも攻撃力の高いキャラをパーティーに加えようとする。
そして、そのキャラを探すのが最初の旅の目的……大体、こんな感じだろうか。
「そうか、なるほど」
今までドラクエにおける自分のポジンションンは、「ほぼ無条件に」勇者だと思っていた。なぜなら、ゲームにおける主人公が他ならぬ自分自身であるから。
しかし、その条件を完全にひっくり返した場合、どうなるだろうか?
「自分では意識していなかった、自分の適性を考えろ」
いわゆる「自己分析」というやつである。今回の課題はそういうものなのだろう、と思った。
「では、自分にはどんな特性があるのだろうか? 」
▽
家に帰り、遅めの昼食をとる。
そして二階の自分の部屋に戻ると、感想文を書き終えた疲れがどっと出たのか、そのままベッドに倒れて「寝落ち」してしまった。
「ヤベ、寝ちまった」
気付けば夕方の5時である。遠くから聞こえる学校のチャイム音が、まるで目覚まし時計か何かのように勇斗の頭に鳴り響く。
「ブーブーブー」
そのチャイム音に続くかのように、マナーモードに設定した彼のスマホに着信音が鳴る。電話の主は稔である。
「もしもし、龍崎か? 」
「ああ」
「ゲーム感想文、どう? 」
「どうって? 」
「いや、言ったじゃん」
自分は既に感想文を書き終えている。そして杉田からも「合格点」ともいえる80点の評価をもらっている。
「やっぱ書けねえの? 」
「書けないんだよ……」
俺、何すっ呆けてんだろ、思いつつ、勇斗とは一つの判断に迫られていた。
ここで稔には現状を正直に明かすべきなのか? それとも今の段階では、まだ言わない方がよいのだろうか?
「俺、塾に通ってんだけどさ」
「いや、それは聞いたって」
「それでさ」
「それで? 」
彼の判断は「真実を明かす」であった。
「いや、終わったんだよ。一応」
「オイ、マジかよ! 」
「いや、マジだって」
電話の向こうの稔は、どうやら信じられないという様子である。教えてほしい、というよりもとにかく「信じられない」が先のようだ。
「それ、マジでやばいよ! 」
ここで言う「ヤバイ」というのは、悪いという意味ではない。むしろ逆である。
「スゲー! 信じらんない」
そんな感情が入った表現だろうか。
「で、何書いたんだよ? 」
まるで自分を救世主か何かとでも思っているのだろうか? それとも「さっさと答え、教えろ」ということなのだろうか?
「別に、そんなに難しい事じゃないけど」
「勿体ぶってないで、早く言えよ」
勇斗は自分が塾で習った事。即ち連想ゲームの話をした。
単にゲームの内容を説明するのではなく、自分の身近な出来事と比較する。そして最後に、「ドラクエから学んだことは何か? 」という話で締め括る。例えばチームワーク、といった感じで。
「何となく、分かった気もするけど……」
言われてみれば、言葉のやり取りだけで全てを説明するのは難しいのかもしれない。
「それで龍崎、相談なんだけどさ」
「相談? 」
「一度会わねえ? 」
「別に、いいけど」
「それとさ、他の奴はどうする? 」
「みんなで宿題をやろうって事? 」
「そういうこと」
なるほど、稔の事だ。おそらくクラスの他の連中に対してもこまめに確認をしているのだろう。
(つまり、誰も終わっていないということか)
少なくとも稔が確認した友達は全員、だ。
「でも、全員だと時間かかるんじゃねーの? 」
「それでさ龍崎、合宿やらねえ? 」
「合宿? 」
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