もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…

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LEVEL18 / で、勇者は結局、誰がやるのよ?

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 ドラクエとチームワーク、ドラクエと部活、ドラクエと将棋……

 学進ゼミで杉田から出された課題をこなすため、勇斗は授業中にとったノートを何度も見返す。そしてその内容を何度もつぶやいていた。


 以前、ネットの記事で「機動戦士ガンダムの産みの親」と知られる富野由悠季とみの よしゆきのインタビューを思い出した。確か、

 「アニメ好きだけで面白いアニメは作れない」
 「SF映画好きは物語を面白く作る方法を知らない」

 そんな感じだっただろうか。


 つまりガンダムという、オリジナリティの高い作品を生み出そうと思った場合、単にロボットアニメを観ているだけではダメ。

 むしろ一見、全く関係ないと思われる分野。例えば数学や物理学、古典といった知識をベースにし、そこからアニメやロボットという発想と結びつけた方が面白い作品が生まれるとか、そういう内容だった。


 「例えば、スポーツの事に詳しい人間がいるとして……」

 例えば野球部。バットではなく剣。それもゲームに登場するような剣を振った場合、どんな感覚なんだろうか。

 いつも振っているバットに比べ、重く感じるだろうか? それとも軽く感じるのだろうか? 

 あるいは音楽に造詣ぞうけいが深いと思われる吹奏楽部。ゲームの音楽を演奏する場合、どのパートを担当する。あるいは演奏えんそうのどういう部分に気を付けなければとか考えているのだろうか……


 そう、ドラクエの感想文を書こうと思った場合、自分はドラクエのゲームだけで完結しようと考えていた。

 如何に、そのゲームをやり込むか。あるいは他のプレイヤーが手に入れられなかったレアアイテムを入手するか……

 ゲームを楽しむ分にはいいとして、それを感想文にしようと思った場合はむしろ「逆方向」に向かっていたのではないだろうか? 


 「ゲームをやってもやっても、一向に感想文が書ける気がしない……」

 しかし、ゲームをやらないことにはシナリオが理解できない。したがって、感想文が書けないのは「ゲームのやりこみが足りないから」と、つい思ってしまう。

 そういえばこの前の授業中、杉田はドラクエの「固有名詞こゆうめいし」を一切、出さなかった。モンスターや城の名前、あるいはイベント。むろん、レアアイテムの名前も一切口にしなかった。

 唯一、それらしき内容といえば「勇者」「魔王」くらいなものだろうか。


 「3日もあれば十分」
 「ゲーム実況を参考にする」

 だとすれば、「ドラクエをやったことがない」にもかかわらず自信満々だった、あの態度にも納得がいく……


 彼は医学部の学生だ。だとしたら、「ダメージを回復する」「死んだ仲間を生き返らせる」といった呪文を、医学的な視点から見ていたりするのだろうか? 

 むろん、死んだ人間が生き返るなんて現実には有り得ない。だが、それを真剣に考えた先に「ノーベル賞の研究」があったりするのではないか。


 勇斗は自分が将棋部に籍を置いていたこともあり、この前の授業では「ドラクエと将棋」というテーマで書いた。

 「ドラクエと〇〇」

 他に何があるだろうか? 

 「ドラクエとグルメ」

 例えばモンスターをどう調理すれば美味しい料理が出来るか。例えば海のモンスターは魚だ。陸上のモンスターよりも美味しいのだろうか? 

 なるほど、そうなると「どのモンスターが一番美味しいと思ったか? 」という感想文が書ける。そして、その理由として、お寿司とか焼肉の話を書けばいいということになる。


 「ドラクエと薬草やくそう

 薬草は、ダメージを回復させるアイテムだ。では、最近風邪を引いた時の薬の話はどうだろうか? 「この薬は風邪というダメージの回復に有効」とか、そんな話が書けるんじゃないだろうか? 


 そういえば装備そうびというのも、ある。

 「ドラクエと装備」

 野球部、あるいは剣道部ならば「剣」の話が書けるだろう。あるいは剣道部の連中は、防具ぼうぐについても書けるのかもしれない。何故なら彼等は普段から防具をつけて練習をしているからだ。

 だとすれば、武道家ぶどうか格闘家かくとうかタイプは空手部といったところか。


 「鉄の爪を装備して正拳突せいけんづきをする」

 モンスター、例えば虎やライオンを倒せるほどの威力があるのだろうか? あるいは仮に倒せるとした場合、どのくらいの訓練をどのくらいする必要があるのだろうか? 

 そんな話も書けるのかもしれない。


 「いや、待てよ……もしかしたら」

 勇斗は今、一人で考えている。例えばもし、大勢の友達が集まって「ドラクエと〇〇」という話をしたら一体、どんな内容になるだろうか? 

 もしかしたら自分には想像もつかないような話が出てくるのかもしれない。あるいは自分の話が「有り得ね~」なんて言われるかもしれない。


 いや、それだけじゃない。

 「俺と〇〇が一緒に魔王を倒すとしたら……」

 例えば自分と稔をパーティーに必ず入れるとして、3人あるいは4人のパーティーを編成する場合、誰と組むべきなんだろうか? 

 まず、俺が勇者だとして……いや、稔も「俺が勇者だろ! 」って文句言って来そうだ。

 それだけじゃない。おそらく、パーティーはみんな「俺が勇者だから! 」で喧嘩になりそうだ。それよりもパーティーに入れなかった奴が「仲間外れかよ! 」ってゴネ始めるかもしれない。


 (これじゃ到底、魔王を倒すどころじゃない……)

 じゃあ、こうしよう。勇者というのは基本的に勇者の血を引いている。だから実力ではなく、勇者にふさわしい家柄で決めたらどうか? 


 と、なると何が基準になるだろうか? 

 例えば戦国武将せんごくぶしょうを祖先に持つ奴……そんな奴、クラスにいたっけ? 

 ちょっと無理だな。じゃあ、お金持ちとかだろうか? いや、親が金持ちで、本人は能力がないというのは、そもそも勇者としてどうなんだろうか……

 じゃあ、やっぱり勉強が一番できる秀才タイプ。いやダメダメ、そういう「ガリ勉」は基本、魔法系だろ。


 「アァ、もうっ……面倒臭めんどくせぇ~~~! ! ! 」

 今、自分が最初からドラクエをプレイするとしたら、主人公の名前は絶対「ああああ」だろうな……

 課題が進まず、苛立ちを隠せない。にもかかわらず勇斗は何故か、ドラクエの事だけは冷静に考えている自分に対し、妙に感心してしまった。


 「大体さぁ~王様が魔王を倒せとか、ややこしいこと言ってるからこうなるんじゃねーかよ! 」

 そうだ、杉田も言っていた。「別に、必ずしも魔王を倒さなくたっていいじゃないか」と。


 「やっぱりそうだよな~」

 今更いまさらになって、彼の真意が分かったような気がする。そもそも魔王を倒さなきゃいけない理由って一体何だ? 

 魔王が世界の平和を乱すからか? それとも王様が「倒せ」っていうから。その命令に適当てきとうに従っているだけじゃないのか? 


 だとすれば、この場合「嫌っすよ、俺、別に魔王なんか倒したくないし~」なんて言ったら世界は一体、どうなるのだろうか? 

 やっぱり魔王に支配されて、人間は不幸になるのかな? 


 (いや、待てよ)

 もし自分が魔王を倒すことを拒否した場合、王様は「勇者の」俺に対して一体、どう反応するだろうか? 「たのみます、お願いします」といって、土下座どげざでもするだろうか? 

 いや、王様がそんなことするわけないな。だって「国で一番えらい」王様だし。

 だとすれば……


 「じゃあいいよ、別の勇者に頼むから」

 これだよ、きっと。運動部の顧問が日頃から言ってる「お前の代わりなんかいくらでもいるんだよ」ってやつだ。


 ――そうだ、これを書こう! と勇斗は思った。

 「勇者は面倒だ」
 「ゲームでは「魔王を倒して」となる」
 「でも、実際はきっと、そうじゃない」
 「魔王を倒せと言われた場合、まず「誰がやるか? 」でめる」
 「倒せっていうから倒してきてやったんだ」
 「そういう勇者って……勇者」

 我ながらふざけた文章だ。しかし、これが杉田の言う「ゲームとしてはダメでも、小論文としては合格」という内容ではないだろうか? 

 もちろん、実際の文章の中で「倒してきてやった」「マジ勇者」といった、いわゆる「話し言葉」は使えないだろう。


 「一応、清書せいしょしてみるか……」

 前回の授業でとったノートを眺めつつ、勇斗は今考え付いた文章の構成を書き始めた。

 ドラクエ
  ↓
 勇者
  ↓
 面倒臭い
  ↓(なぜなら)
 ゲームでは魔王を倒して終了となる
  ↓(しかし)
 実際はきっと、そうじゃない
  ↓(もし)
 魔王を倒せと言われたら? 
  ↓(結局)
 王様が「魔王を倒せ」というから倒した。
  ↓(だから)
 勇者は偉い
  ↓(というより)
 僕には無理

 どうだ! さすがに東大生だって……いや、彼等のような「ガリ勉」だからこそ、逆にこの発想は思い浮かぶまい。


 我ながらいい出来栄えじゃないか、と勇斗は思った。半ばヤケクソになって書いた内容にもかかわらず、完全に「自画自賛じがじさん」である。

 課題が思ったよりも早く終了したというのに加え、次の授業で杉田の驚く顔を想像すると……


 「あれ? コレって塾の宿題じゃん」
 「完璧に仕上がった。実は俺ってスゴくね? 」
 「てゆーか、俺って今、勉強を楽しんだんじゃねーの? 」

 勇斗は今までにない達成感たっせいかんが得られたのを感じた。それは何か一つのゲームを完璧にクリアした時のような感覚に似たものだった。

 いや、もしかしたらそれ以上のものだったのかもしれない。達成感を超えた「超・達成感」ともいうべき感覚を彼は今、確かに味わっていたのである。
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