上 下
9 / 45
本編

LEVEL6 / 禁じ手

しおりを挟む
 「コピペサイト」

 そこには読書感想文の「模範解答」がアップされており、それをコピペすればいいというものだ。それも一つや二つではない。

 加えて作品数も多岐たきに渡る。多くの学校で課題図書として指定されているであろう走れメロスや風の又三郎はもちろん、羅生門らしょうもん高瀬舟たかせぶね。あるいは作品ではなく芥川龍之介あくたがわりゅうのすけや宮沢賢治といった、作者名で検索することが可能なサイトも多く存在している。


 「森鴎外もりおうがい コピペ」
 「読書感想文 コピペ」
 「夏休み 課題 コピペ」

 このようなキーワードを使って検索すれば、そのサイトを発見するのは実に簡単な作業だった。


 むろん、それは学校の教師もよく理解しており、とりわけコピペサイトには並々ならぬ警戒を示している。

 「インターネット上にある、コピペサイトの利用は一切禁止です」

 去年の夏休み前、読書感想文の課題を告げられた際に敢えて「厳命」する程だった。

 にもかかわらず、それを無視してコピペサイトを使い、感想文を提出したと思われる生徒は当然だが再提出を求められた。勇斗同様、あらすじを適当に書いただけという連中と全く同じ扱いだ。


 中でも「文学少女」として知られる月城陽菜つきしろはるながその中の一人であったため、これはクラス中の話題となった。

 いや、実際に本人は否定している。しかしコピペにはチェックツールというものがあって、それを使って照合すれば不正行為は一発でバレるらしい。その結果、玉野曰く「コピペ率が87%に達していたためクロ」と判断したそうだ。

 もちろん本人は納得してなかったらしく、実際に母親が直接抗議に来たらしい。そのやり取りを立ち聞きしていた女友達によれば、彼女の母親曰く「本の内容をきちんと理解していれば、その感想文の内容は概ね似たり寄ったりの内容になり、それをコピペと一方的に決めつけるのは不当である」という事らしい。


 ちなみに、その母親は出版社に勤務しているらしく、文章に関してはかなりうるさい人物であるという事だ。そういう人が言うのであれば、確かに説得力がある。

 だが、玉野はそんな人に対しても「ひょっとして、あなたが娘さんの代わりに書いたんですか? 」と、まるで小馬鹿にするような態度であったらしい。


 「なるほど、あの玉野の事だ。自分に逆らう人間に対しては一方的に、そして頭ごなしに否定してかかったのだろう……」
 
 結局、月城はコピペツールに引っ掛からないようチェックし、無事1回の再提出で済んだ。だが本人の友達から聞いた話によれば、彼女は自分の存在をまるで否定されたかのような結果に加え、母親をあたかも「モンスターペアレンツ」のように扱った玉野に対し、相当な不信感をもっているらしい。


 「これがコピペサイトか……」

 勇斗はネットを検索し、最初に目についたコピペサイトをクリックした。そのサイトの管理人は元新聞記者で、予備校講師を経験した後、今はフリーライターをしているらしい。


 「なるほど、確かに」

 勇斗には感想文の書き方は分からない。しかし、おそらくその読書感想文の内容は完璧だ。特別、国語の成績がよいわけでもない。まして作文など全く何を書いてよいのか分からない。しかし、そんな彼が見ても、そのサイトにアップされている「文章の専門家」とやらが書いた読書感想文は、やはり一部のすきもない完璧な感想文に見えた。


 「やっぱり、これしかないんだろうか? いや、待てよ。これはおそらく、教師も見ているはず……」

 去年、コピペ率が87%に達した月城は「クロ」と断定された。当然だがこれを超えた場合は同じ評価をされるだろう。

 では、一体何%ならばよいのだろうか 86%ならば「シロ」となるだろうか いや、それは到底考えにくい。かといって全くオリジナルの「0%」というのは不可能らしい。


 「作品名や登場人物の「固有名詞」。あるいは「です」「ます」といった定型表現も重複していればカウントされてしまうため、100%オリジナルの文章は絶対に不可能です」

 そのコピペサイトの解説文によると、完全にオリジナルな文章は不可能らしい。そして、


 「コピペチェックツールを使用した場合、コピペ率が概ね50%~60%程度であれば、基本的にはオリジナリティの高い感想文だといえるでしょう」

 このようにも書いてある。


 「一度コピペして、そこから自分の言葉をいくつか入れればよいのだろうか? 」

 そのような方法がないわけでもない。しかし、それは結局時間がかかってしまうのではないか 

 それに今回の課題は読書感想文ではなく、ゲーム感想文だ。そもそもコピペ可能な「原文」自体が未だに見つかっていない。


 やはり当初、考えていた。そして稔も同じように考えていたのだが、

 「これって玉野の罠だったんじゃないだろうか……」

 結局、オリジナルの感想文を書かざるを得ない。ゲーム感想文、というと一見、子供に遊びを容認させているように見える。しかし実際のところは、

 「コピペされるよりマシ」

 そのような「消去法で選んだ」課題だったのではないだろうか? 


 「でも、このままじゃ絶対終わらない……」

 有効な手立てが思いつかないまま、夏休みの時間だけが刻々と過ぎて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

きょう、ママンのパパが死んだ

あおみなみ
青春
「もしかすると、きのうかもしれないが」 両親共働きをいいことに、人のいい父方の祖父母に適当なことを言って丸め込み、 ついつい学校をサボってしまう中学生の「私」。 そんなある日、母の実家からある知らせが…。 某年11月25日に思い付きで書いた、11月25日にまつわる小説です。 普段は短編集の一部ですが、11月25日(26日)午前零時まで限定で単独アップしました。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...