もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…

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本編

LEVEL4 / 蟻地獄

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 勇斗にしてみれば宿題、即ちドラクエのゲーム感想文は7月中に終わる予定だった。

 なぜならゲームそのものはとっくにクリアしていたし、あとはレアなアイテムの入手やレアなイベントを体験するといった、要素に興味が絞られていたからだ。

 では、そういった内容。即ち自分が興味を持った部分を中心に感想文を書けばよいのではないか……そんな期待がもろくも打ち砕かれるのに、あまり時間はかからなかった。


・夏休みはドラクエをプレイした
・王様と会い、魔王を倒すよう命令された
・レベルアップのため、経験値の高いモンスターをたくさん倒した
・レアなアイテムがなかなか手に入らず、苦労した
・多くの仲間と出会い、そして彼等と一緒に旅をした。
・最終ボスを倒すのにはとても苦労した。

 そして、最後に一言。

 「面白かったです」


 ――ダメじゃないか、コレ。全然ダメ。

 あらすじばかり書いて、最後に「面白かったです」の一言で締めくくる。小学校の時から全然変わっていない、典型的な感想文の「ダメな例」だ。

 矛盾するかもしれないが「模範解答」そのものだ。いくら読書感想文の書き方が分からない勇斗だって、これが明らかに間違っているくらいは十分理解できる。


 いや、それでも数行程度の感想文ならば何とか誤魔化《ごまか》せなくもない。問題は課題の量であった。

 「400字詰めの原稿用紙で5枚以上」

 つまり「2000字以上」ということだ。たったこれだけのあらすじを書いただけでは、内容が不自然なのはもちろんのこと、そもそも原稿用紙が全く埋まらない。


 ――きっと指定された最低の枚数では足りないくらい、次から次へと書きたいことが出てくるはず。

 勇斗は、というよりおそらく課題を了承した男子生徒のほぼ全員がそう思っていた。しかし実際はそれどころか、最初の一行目に書く内容すら全く思い浮かばない。


 「いっそ、ゲームの内容を全部書くか?」

 最初にスタートした町。そして王様と会った城から、実際に探検した塔や洞どうくつ。あるいは出会った人々について、事細かく記載する。そうすれば確かに原稿用紙の中に文字埋め込む事は可能だろう。

 「きっと……ダメだろうな」

 結局、一緒だ。具体的な町や洞窟の名前を入れたところで、感想文としては全く成立していない。もちろん、原稿用紙を文字で埋め尽くすこと「だけ」は可能だと思うが。


 ▽

 「やり直し!」

 中学一年生の時だった。宮沢賢治の「注文の多い料理店」が課題図書として指定された時、一体何を書いてよいか分からなかった。だから結局、あらすじを「丸写し」するような感じの内容を書いて提出した。

 むろん勇斗だけではない、クラスの半数位がそうだった。すると玉野はそのような感想文を書いた生徒全員に対して「再提出」を命じた。むろん、勇斗もその中の一人で、その中には稔も含まれていた。

 とはいえ、再提出を命じられたから素晴らしい感想文が書けるかというと、そんなことはない。というより、最初からそんなものが書けるのであればそもそも再提出なんかにならないのだから。

 再提出した感想文も結局、「相変わらず」だった。単に文字が入れ替わっただけであって、「あらすじの丸写し」であるのに変わりはない。

 その後、書いても書いても再提出……そんな「蟻地獄ありじごく」にはまった獲物のような生徒達の課題が最後に終わったのは「再々再提出さいさいさいていしゅつ」。それも最後は提出者全員が賢木智子かたぎともこの提出した感想文を「写経しゃきょう」という課題付きだった。


 「また翔みたいな奴が出ちまうのかよ……」

 名ばかりの将棋部員である勇斗にとって、課題の提出は「何となく面倒臭い」で済まされていた。しかし部活動が忙しい生徒にとって、そんな再提出に次ぐ再提出は文字通り「死活問題」となる。

 その「課題地獄」の最大の犠牲者が、当時バスケ部の1年生エースだった当間翔とうましょうだった。


 ただでさえ、ハードな練習の部活の後に、一体何を書けばいいのか分からない感想文に散々頭を悩ませなければならない。しかも「内容がおかしい」といって何度も再提出をさせられる……

 一年生ながらレギュラー、それもエースとしての地位を任された翔は、良い意味でも悪い意味でも「注目の的」だった。練習で手を抜いたと言われれば、顧問である体育教師の原保はらたもつ罵声ばせいが容赦なく飛び交う。そんな状況で「夏休みの課題が終わらないから」という理由で部活を休むのは不可能に近い。


 とはいえ、提出期限がある以上、無視するわけにもいかない……

 結局、翔は仕方なく無断で部活を休んだ。そして「どうせ再提出させられる」感想文の作成に専念せざるを得なかった。


 「お前、やる気あんのか!」

 無断で部活の練習をサボった翔に対し、原は事あるごとに部員達の前で翔を「公開処刑」するようになった。

 その結果、度重なる原のパワハラに耐えかねた翔は結局、バスケ部を辞めた。

 翔の退部問題は当時、学校中で話題になった。結局、問題の原因を作った玉野が原に対して事情を説明したため、彼の「練習に不熱心なバスケ部員」という汚名は返上されたものの、今でも彼はバスケ部に戻っていない。そして彼の前でバスケの話をするのはタブーとなっている。


 「アイツ等、何であやまらねえんだよ!」

 部外者であった勇斗であっても、この一件は許しがたいものだった。翔はなまものなんかじゃない。むしろレギュラーを獲得して以降はバスケ部の誰よりも一生懸命練習していたと評判だった。


 「大の大人が二人がかりで子供を潰しにかかるなんて……」

 結局、玉野が説明をした後も「無断で練習を休んだのが悪い」という原の態度が変わることはなかった。まるで「(部活を休んで)課題をやりたい」といえば、喜んで許してやったと言わんばかりの態度で。


 「絶対許せねー」

 勇斗は去年の出来事を思い出す度に腹が立った。しかし今の彼が今年、その現状を変える方法を思いついたかというと、実際はそうではない。

 それどころか去年と全く同じてつを踏まんとしている状態であった。
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