上 下
16 / 23

十六話 おかみさんと腕試し

しおりを挟む
男の声に全く気が付かないまま、一汗書いて気持ちよくなったたえは宿に戻ってきました。

ニワトリのシルエットの前に「朝鳴く鳥亭」と書かれた、二階建ての建物に入る前に、脇にある水場に行き、手ぬぐいに水を浸して体を拭いていると、後ろからおはようと気持ちよい声が聞こえてきました。

「たえさんだっけ?ずいぶんとまぁ早い時間に起きるもんだねぇ、昨日はよく寝れたかい?」
「はい、ふかふかの寝具に包まれとても気持ちよかったです。朝の散歩もとても楽しくちょっと体も動かせたので、まるで夢の中にいるようでございます」

事情のわからないおかみさんは、大げさな表現をする子だと思いながらも、楽しそうに話をするたえの事を好ましく思いながら、洗濯物の山を片付けようと水場に行こうとしたところ、うしろから同じように洗濯物をもってついてくるたえを見て驚きます。

「あんたはお客様なんだからいいんだよ」
「いえ・・・実は、いつもこの時間には起きて仕事をしていましたので、どうも落ち着きません・・・良かったらお手伝いなどさせて頂けないでしょうか?」

それなりに長い間宿でのサービスを提供しているものの、今までそんな事を言ってくれた宿泊客など見たことがなかったおかみさん。内心とても嬉しく思いましたが、たえが胸に下げた冒険者カードを見て、冒険者なんだから無償で働く事はやめたほうが良いといい一人で洗濯物をはじめました。

しばらくどうしようか?と考えていたたえでしたが、どうにも気持ちが落ち着かないので、それでは私にここの常識を教えて下さいませんか?と言いながら、おかみさんが手洗いしている洗濯物の山に手を出し手もみしはじめましたので、世話ばなしで良かったら・・・と、洗濯をしながら話し始めました。

この朝鳴く鳥亭は比較的宿泊代が安い事もあり、低ランクの冒険者が多く住んでいるため、簡単な事しかわからないよと言いながらも、手を休めることなく話をするおかみさん。

冒険者にはランクがあり、一番低いFからはじまり実績によりE・D・C・B・A・S・SSという風に上がっていくという事。ギルドにある依頼書の内容をこなすことにより実績を得たり、人々に貢献した事が評価されることによりランクがあがるという事。

たえが持っているFというランクはお手伝い程度のクエストしか出来ない仕様になっているが、実績を積みランクが上がると責任もあがるが、より難度が高く高利益なクエストにも挑戦することが出来るので、冒険者である以上高いランクを目指すんだよーとお節介なおばちゃん風に言っていく。

洗濯石鹸の爽やかな臭いを気持ちよく思いながらも、何も知らなかったたえは、うんうん頷きながら続きを聞きます。

そういえば、朝にお手伝いした荷物運びも仕事になったのだろうか?なんておかみさんに話したところ、ばかだねぇと言いながら笑います。荷物運びを頼んだ方もさぞ驚いたことだろうね。なんて話をし、もし来たら話を聞いとくよと言ってくれたおかみさんに感謝するたえでした。

そんな雑談程度の話をしながら洗濯物を干し終わったたえを見て、何かを思ったのか?おかみさんはたえに向かって木刀を投げてきました。

「ちょっと付き合ってよ」
「へっ?は、はい」

そんな会話があるかないかのうちに、おかみさんの木刀は吸い込まれるようにたえに向かって突かれました。

その突きを手に持つ木刀でいなし、半身で避けるたえにおかみさんはにやりと笑いながら体を前に入れていき、体当たりを試みます。

ですが逆に前に突っ込まれたかと思うと、半身でかわされ、急に足を引っかけられたおかみさんは転びそうになるのをなんとか耐えましたが、気がつけば首もとに木刀を当てられ「これでよろしいですか?」と困った顔の少女に言われたのでした。

「試して悪かったね!アンタ合格だよ!」

そう笑顔で言ったおかみさんに戸惑いながらも、たえは申し訳ないと言いながらおかみさんの足を気にしてます。

木刀を持って動くおかみさんの足さばきに若干違和感を感じていたたえは、その足を狙って足をかけたからなのですが、おかみさんは弱点を狙うのは戦闘では当たり前だよ!と笑いながらたえの肩を叩きます。

そして、つけていた前掛けのポケットから、手のひらに収まるくらいのにわとりの形のバッチを渡すと「おめでとう!」と拍手をしました。

何がなんだかわからない顔をしたたえに、いつの間にか模擬戦を見ていた複数の冒険者もすげぇな!と拍手をし、ますます訳のわからないたえにたいし、起きたばかりと思われるガクが「おっ!スポンサーバッチゲットか!久しぶりに見たな!」と笑っています。

ますます訳のわからないたえに、実力や人柄を認めた冒険者のみに渡している朝鳴く鳥亭限定のスポンサーバッチをたえに渡した事、たえに対して宿泊代割引のサービスを行う事を告げ鼻歌混じりに仕事に戻って行きました。

「あのおかみさんな、元の騎士団長。腕もたつし、魔法もそこそこ使えたらしいんだけど、足に大怪我をして引退したんだってよ。たまにあーやってキニナル冒険者にちょっかい出すんだけどよ、最近骨のある奴がいないからつまらないって言ってたから、今日は本当に楽しかったんじゃねーの?」

そんな事を言うガクの言葉に、改めて体さばきや剣の腕に納得しつつも、何かもらった事よりも洗濯しながら話した時間が楽しかったから、また手伝おうと思ったたえでございました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...