上 下
15 / 23

十五話 朝3時の出会い

しおりを挟む
「おはようございます・・・でございますね」

そうぽつりとつぶやきながら隣を見ると、とても楽しそうな顔をしてすやすや寝ている少女がいました。

これが夢であるのなら、覚まして吉仲様を追うべきなのでしょうが、昨日は心の底から楽しいと思えることが多かったため、夢でないことをほっとししまったことに少しだけ罪悪感を感じながら、そっと少女の顔を見るたえ。

昨日はセントウという湯に入り、そのあとずっと部屋の中でお互いの事を話していた事を思い出していました。

お互い自己紹介からはじめ、好きな色や食べ物、今日見た品物で気になったものなど話は尽きず、気が付けば日も暮れ周りが暗くなって行ったので、火を灯す燃料代が勿体ないと早々に布団に入りながらも、たわいもない話を続け、気が付けばお互い寝ていたようです。

ふと、チカの顔を見て、たえは昨日話していたことを思い出しました。

チカの耳が長いのは何故だろう?と思い聞いてみたところ、少し悲しげな声で生い立ちを話してくれたチカ。

チカはエルフという長寿の女性と人間の男の間に生まれたハーフエルフという存在だそうで、この城塞都市に来るまではずっと母親と一緒に森に棲んでいたそうな。

他種族と交わり子をなした母親は、今まで住んでいた森を追われ、住む場所を探す間に父親がモンスターに襲われ亡くなり、母親もチカが幼いころに同じようにモンスターに襲われて亡くなったとの事。

行き場を失いさまよい、気を失ったチカを救ってくれたのが、城塞都市の外回りをしていたガンだったらしい。

その話をした後すぐに寝てしまったチカなので、その後の話は聞けなかったのだが、好いた者同士が交わり結ばれただけの事なのに、何故にそのように悲しいことが起こるのか?どうしてもわからず、心の隅にもやっとした気持ちが残ったたえは、寝ているチカを起こさないように外に出ます。

まだ日が出るか出ないかの薄暗い中、井戸の近くの水場にちょっとした空き地を見つけ、たえはそこで思うように薙刀を振ります。

巴様から頂いた薙刀を持ち、外に出て上から下に、さらに下から上に返し、また振り下ろす。

ぐるんと一周まわしてから遠くに投げ出すように振ったりと、身体を慣らすようにひとつひとつ丁寧に振っていると、時折、ひゅん!という音とぶんっという音の中間である、たえにとって良い音出て思わずにやりとしてしまいました。

これで少しは肩慣らしが出来たのかな?と感じたたえは、気分転換に城塞都市を散歩することにしました。

首にはチカから必ずつけて!としつこいくらい言われていた冒険者カードをさげ、何となく人のいる場所を求めながら、のんびり歩きます。

宿の周りは比較的静かではありましたが、一歩大通りに出ると、まだ日が昇るかどうかの早い時間にも関わらず、いろいろな作物を積んだ荷馬車が目の前を忙しそうに通り過ぎていきました。

そんな荷馬車が、昨日行った露店通りに向かって行くのを見て、あんなに新鮮なものを食べられるのは、普段見られない方々のおかげなのかと、思わずありがたく思い頭を下げるたえの目の前に、荷馬車から大量に野菜が転がり落ちるのが見えたため、衝動的にそれらを拾い集めます。

その様子に気が付いた荷馬車の主が隣にいた者に声をかけ、たえに向かって走ってきました。

「ありがとう!全く気が付かなかったから本当に助かったよ!」
「いえいえ、少し驚きましたが、お役に立てて何よりでございます」

そう言うと、たえは落ちていた野菜を自分の服でぬぐい、駆け寄ってきた男に渡していきます。

服が汚れるからいいよ!という男に、こんなに新鮮でおいしそうな野菜を泥だらけにしておくのは心苦しいので…と言うたえに好感を持った男は、礼がしたいが仕事中なので申し訳ないと何度も頭を下げて馬車に戻りました。

名前と住んでいるところを聞かれたので答えたたえでしたが、こんな活気のある風景が見れ、少しではありましたが、お野菜の良いにおいを感じる事が出来ただけでも良かったと満足。

どうせ目的もない散歩中ですからと、ちょっとした好奇心からか、先ほどの馬車が向かう方向と同じ道へと足を進めてみました。

しばらく歩くと、丁度先ほどの馬車が見え、先ほどの男性たちが荷下ろしをしているのが見えたので近寄って見ると、相手もこちらに気が付き頭を下げてきました。

丁度体を動かしたいと思っていたたえが、何か手伝えることはないか?と言うと、驚いたような顔をした男性。

明らかに他の女性とは違う衣服を着て、何の目的もないまま歩く少女を見て一瞬不審に思った男でしたが、たえが首からぶら下げている冒険者証を見て、何か思うところがあったのか?品物を店舗に置く手伝いを頼みました。

女性だからと軽いものを頼もうと思っていた男性でしたが、その心中を察することなく、どんどん重い荷物を持ち、声を出しながら指示を仰ぐたえを見て、こいつは良い拾い物をしたとばかりにどんどん指示を出していく男性。

時間が経つにつれ、徐々に従業員が増えてきた事から終了の言葉をかけると

「良い汗がかけました、ありがとうございます」
「あっ!ぉぃ!報酬はいらないんかい!・・・って足はええなぁ・・・ぉぃ・・・」

お礼を言って去って行くたえに、冒険者だから仕事が欲しいのだろう?と思っていた男性は面食らってしまいました。

野菜を拾ってくれた礼もしたいし、働いた報酬も払いたい。

何より一緒に仕事していて気持ちよかったから、継続で雇ってもいいかな?とまで思ってしまっている自分を不思議に思いながら、男はとっとと仕事を終わらすために走り出すのでありました。



※平安時代の貴族の朝は早く、だいたい朝の3時頃から起きてたらしいですね。
お経を読んだりして、朝から勉学などに励んでいたらしいのですが、午前中以降は結構だらだらしてたらしいので、そういう働き方もあるんだと妙に思った自分でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ちょっと間違えた異世界移転

春廼舎 明
ファンタジー
なんかいろいろ間違えた気がする異世界移転。 尻餅ついて勢い余って異世界移転物語。 ハラハラドキドキはありません。頭空っぽにして、脱力してサクッと読める短めのお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...