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九話 生きてるんですね

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握手をし、とりあえずひと仕事を終えたとほっとしているガク。
手に持っているチェックシートなどの検査結果を受付嬢に渡しに行こうとしたところ、たえに呼び止められました。

「さて、一通りの手続きとやらが終わったらしいのですが、これから私は地獄へと行くのでございましょう。覚悟は決まりましたので入り口を教えて頂けないでしょうか?」
「「はいっ?」」

入り口から入り、人々の流れを楽しそうに見ていたたえの様子を見て、チカは自分が神様ではないという事を認識してくれているものと思っていましたし、ガクもチカから話を聞いていたものの、まさか自分たちが神様という設定をしているバカがいる訳ないと鼻から信じていなかったので面食らってしまいました。

「入り口で並んでいた御仁達はきっと善行を行い、これから極楽浄土に旅立つ方々なのでしょう、まちというところの人々は、これから極楽浄土に旅立つ準備をしているのでしょう。買い物をする人々の笑顔がそれを物語っているように思えました。それらに漏れ、こうやって別にいるという事は、きっと私は地獄行き。これまでいくさの中、数々の人々を殺めてまいりましたので、覚悟は決まっています。さぁ、どうぞ煮るなり焼くなりお好きになさってください」

そういうとたえは、椅子から降り、地べたに胡坐をかいて目を閉じます。
まるでいつでもこい!と言わんばかりの態度に、チカとガクはかなり慌ててしまいます。

「どーすんだよこれ・・・」
「だから言ったじゃないですか・・・私が仏様って神様に間違われてて、自分が死んだって勘違いしているって・・・ガクさんどうにかしてくださいよ・・・」

挙動不審な人物を取り押さえたり、モンスターの対処をするのが本来の役割なガクと、ただの冒険者であるチカですから、この展開に戸惑っていたのですが、腕組みを解き再度頭をガシガシかいたあと、仕方がないとばかりにガクがたえの前にどかっと腰を落として話をしはじめました。

「あのさ、これは機密情報だから本当はいっちゃなんねぇんだけどよ、おまえさんが壮大な勘違いをしているみたいだから言うぜ」

「さっきの検査結果から出たんだけどよ、おまえさん、どっか別の世界から飛ばされてきたらしいぜ、検査の中に「神隠しの疑いあり」って出てたからよ、これからどうしようか考えてたところだったんだよ」

「チカから話聞いたけどよ、ここにはヒノモトノクニって場所は無いし、お前さんが探しているキソノヨシナカという有名人の名も聞いたこともない。さっきから見てると、俺らといろいろ習慣も違うらしいから、お前さんは死んじゃいないんだよ。生きてるんだよ!」

そう言うと、ガクは受付嬢に書類を提出し、何やら一言二言言うと自分の装備を脱いで行くぞ!と二人に言ってきました。

「ガクさんどうしたんですか?受付さん結構怒ってたみたいですけど・・・」
「ああ、俺今日有給とったから受付嬢羨ましがってんだよ、あれ、今まで有給なんかなかなかとれなかったからよ、たまにはいいべ!こんな面白いのが目の前にいるんだから、今日はとことん付き合ってやるぜ!」

そう言うと、座ってるたえを立たせて行くぞ!と背中を押していきます。
チカもそんな戸惑っているたえの背中を押しながら、笑顔で背中を押します。

「冒険者ギルドで、冒険者登録して、たえさんが退治したゴブリンの報酬もらいましょうよ!それからは美味しいもの食べましょうよ!白パンに煮込みハンバーグ♪ここに来るまでに言ってた料理食べましょうよ♪」

そう無邪気に話すチカを見て、たえはぼそっと一言言いました。

「なんだかよくわかりませんが、私はまだ生きてるんですね・・・」と。
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