平安少女は異世界の夢を見る

とうちゃんすらいむ

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八話 ようこそ城塞都市へ

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遥か高く長い壁を通り越せば、今度は多くの見慣れない多くの建物と、多くの人が賑わいを見せていました。

少し遠くを見れば、嗅いだことのないこおばしい香りや、何やらものを焼く音、そして見慣れない様々な食べ物らしい品物が並んでいるのが見え、その光景に圧倒されつつも強い興味を持ったたえでしたが、ガンに急かされてしまいます。

「すまねえな、これも仕事だからよ。これが終わったらチカに案内してもらってくれや」

本当に申し訳なく思っているらしくしきりにぼりぼり頭を掻くガンを見て、気にしてないと言いながら、なるべくこの風景を目に焼き付けておこうと、大きなまなこをこれでもかと広げながら歩くたえ。

たえは歩きながら思います。
歩く人々を見ていると、確かにチカが言う通りいろいろな髪の色を持ち、人や人の姿をしている犬や猫のような者もいる事に大きな驚きを感じましたが、その者達が決して凶悪な化け物ではなく、お互いが楽しそうに話をし、同じようなものを食べ、お互いが何やら話して買い物をしている様子を見て、同じ生きている者なのだという事を。

ここが天国なのか地獄なのかわからないけど、出来ることであれば、そんな人達と一緒に笑い合いいろいろな話が出来るといいな、と思いながら、再度、ガクに急かされてしまった為、駆け足で兵士の詰め所とやらに連れていかれてしまいました。

城門の入り口から入って10分ほどの場所にある、クリーム色の壁に覆われた四角い二階建ての建物に、大きな盾を現した旗が二本入り口の左右に立っているのを見ながら中に入る3人を待っていたのは、ぼんやり遠くを見つめるような目をし、大きなあくびをする受付嬢一人だけでありました。

「こらっ!暇だと思ってあくびなんかしやがって!!暇があったら掃除でも書類整理でもなんでもしてろよ!」
「私の仕事は”受付”なんですー!ここで待機してるのも立派な仕事ですよーだ!!」

あっかんべーをしながら答える受付嬢に、ガンは部屋の空き状況を聞いて鍵を受け取ると、ついてきた二人に手招きして入り口から一番近い部屋に入って行きました。中に入ると真ん中に長いテーブルがあり、各面にひとつずつ椅子が置かれています。

ガンはその椅子のひとつに座り、二人に適当に座るように促し近くにあった引き出しやら扉から書類などの準備をしたため、チカはたえに一緒座ろうと促しますが、たえは不思議な顔をして椅子を見ているのです。

それもそのはず、普段は畳にそのまま座る生活を送っているたえですので、正直椅子に座ったことがないのです。
椅子の存在はしっていたものの、椅子は偉いお坊さんが何やら儀式をしている時にしか使わないものと思い込んでいるらしく、果たして自分のような身分の人間が座って良いものか?悩んでしまっています。

「いいから座れってば!」
堪忍袋の緒が切れたガクに、仕方がないとばかりに座るたえでしたが、内心は『おおっ!これが椅子というものの座り心地ですか!まるで高僧の方になったようで気持ちがいいですね』と喜んでいまして、思わず笑顔になってしまい、ガクに悪態をつかれてしまうのでありました。

そんなガクでしたが、兵士としての仕事をするために、テーブルの上に少し大き目な木箱を置きました。
そして、一応説明するぞ!と前置きをし、なにやらいろいろなものを取り出していきます。

「これはな」
「にゅうこくしんさきっと~(入国審査キット)」

「これはな」
「はんざいしゃ はんていすいしょう~(犯罪者判定水晶)」

「これはな」
「みぶんしょう はっこうか~どぉ~ かっこかりぃぃぃ(身分証発行カード(仮))」

そして、お約束になっている一発のゲンコツがチカにふるわれます。
「おまっ!人の仕事の邪魔すんなよ!なんだよ!その間延びした変な声で説明するの!いい加減なぐるからな!」
「だって、勝手に出るんですもん! それにもう殴ってるでしょ!」

そんなやり取りをみて、本当に二人は仲がいいのだなとたえは思いました。
喧嘩するほど仲が良いなんて言いますが、この二人の事を言っているのではないか?と思っていると、ガクが一通りの説明を始めました。

「これはな、身分がはっきりしない奴のために用意された魔法を組み込んで作られた道具だ。ここがいくら高い城壁に守られた都市だからと言っても、犯罪者を入れてしまったら守れるものも守れなくなるからって事で作られたもんらしいぜ!つー訳で端からやってくかー」

という訳で、たえは入国審査キットから順に説明を受けながら対応をしていきます。
入国審査キットは、自身の血を少しだけ魔法がかかったプレートに垂らすことで、その人の身体的能力がわかるものなのですが、判定まで少し時間がかかるという事で先に行い、次に移ります。

犯罪者判定水晶は、今までの行いの中、重罪を犯している者でないか?その可能性を秘めた者でないか?というものを、対象者の魔力などから判定するもので、これは手を置くだけで良いということだったのでおいてみると、何も反応がなかったのでたえが不思議に思っていると、ガクはほっとした様子で手元の紙にチェックをしていきます。

「これよ、もし犯罪者や犯罪者予備軍の奴が触ると、派手な光と警告音がして、滅茶苦茶うるさいらしいから、ならない方がいいんだよ。こんなん作ったのはすげぇって褒めたいけど、そんな音させたら犯罪者逃げるって思わなかったんかな?って思うんだけどどうよ?やっぱり天才となんとかは紙一重なんて言うのは本当なんか?」

そんな事をぶつぶつ言いながら、手元の書類を書き上げたガクは、最後に入国審査キットの結果を見てすこし驚くも、最後にたえは犯罪者ではなく、この都市に入ることには何も問題ない人物であることが証明されたという事を言い、この検査に同意した証拠に名前を書いてくれと言うと、手元にあった動物の羽が付いたペンを渡してきました。

「動物の羽で字が書けるのでございますね」
「でもね、それ、羽はお飾りなの。実際は持つ部分にインクが入っていて、そのまま書けるから大丈夫ですよー」

ここまでの旅でようやくたえの対応に慣れてきたチカは、そういうと、立会人という項目に自分の名前を書いていきます。そして、たえも不思議そうに羽ペンもどきを持ち名前を書き込んだところで、ガクがたえにむけて握手を求めてきました。

「おめでとう。そして、ようこそ城塞都市へ。おれらはお前を歓迎するぜ!」

そう言うガクの手を無意識に握り、たえは不思議と嬉しくなったのでありました。



※平安時代の椅子は中国式の儀礼をおこなうために使われるためにありましたので、床に座る生活が常だった日本の日常ではほとんど使われなかったと作者は認識しています。もしかしたら、お茶目な子らが高僧の方用に用意された椅子に腰かけ怒られるって光景があったかもしれないですね。
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