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三話 この腐れ餓鬼が!

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狭いお堂の中、隙間に身を預けるように倒れた女は、気がつけば足を投げ出して寝ています。

夢の中では戦で亡くなった両親が、あさげの準備をし始めています。

とんとんとん

心地よい包丁の音が耳には気持ち良く、昔はそれがとても幸せな事だったと思い始めた女は、それが夢であることに気がつき慌てて飛び起きました。

「はっ!寝過ごしてしまいました!巴様!ただ今本日のあさげを用意いたしますゆえ、今しばらくおま…………????? おやっ?」

あれからどれくらい経ったのかわかりませんが、戸の隙間から差し込む日差しに気づき、ばっと素早く飛び起きた女は、寝ぼけてた頭でいつもの様にあさげの支度をしようとし手を止めました。

逃亡生活の間においても、手持ちの数少ない米や麦や雑穀を混ぜたかゆを作り、周りにふるまっていただけに、朝早くから起き準備をするのがたえの役割でもありましたが、今は一人。

これから再度追っ手を追い払うために、最後のご奉公をしなければ!と思ったたえは、とりあえず身の回りの物をかき集めお堂の扉を開けました。

そんな女の目に映ったのは、頭上に高く上った光。

そうです、今は昼間。

連日の疲れからすっかり寝過ごしてしまったのです。

「わた、わたくしは・・・なんと馬鹿な事をしてしまったのでしょうか!!!これでは死ぬに死ねません!一刻も早く追っ手を追わねば!!!!」

顔面蒼白になりながら、慌ててお堂に戻った女は、お堂にあった品物を見渡し、役に立つものを持っていこうとしました。

身に着けている大よろい、太刀、弓、矢が数本入ったえびら、そして兜は背に背負っている。

食料は先日別れた馬に括り付けていたため持っていませんでしたが、竹で編まれている行李(こうり)が目に入った女は、そこら辺にあるものをかき集め、大きな布にくるむと、それらを背負って勢い良く戸を開けました。

そして勢いよく飛び出すと、迷いもなく右に向かって駆け出しました。木曽義仲一行を追うべく進み、右手にお堂が見えたのを覚えていたからです。

昨日感じていた体のだるさや重さなどは一切感じず、むしろ風を纏っているかのように身体が軽いことにも気がつかず、必死に走り出す女は自分の変化に全く気がついていません。

ひたすら先へ先へと気があせる中、女は穏やかな緑の森林を駆け抜けていきます。

しかし、しばらく道なりに真っ直ぐ駆けていた中で違和感を感じ、ふと足を止め考え込みました。

「おかしいです。馬や人の足跡がありません。昨日足止めした場所から一本道でしたのに、追っ手がここを通らない訳がありません。義仲様達の通った跡すらないとは、これいかに?」

ただ、考え周りを見ても何もかも手がかりをみつけられなかった女でしたが、戻るより先に進んだほうが、行く先々の村で何か聞けるのではないか?と思い治しまた先を急ぎます。

ですが、進んで行くにつれさらにおかしな事に気がつきました。

何やら匂いが違うのです。

幼少期から今まで、同い年くらいの男達と一緒に野を駆け巡り、山の香りを体で感じていた女は、今まで嗅いだことのない山の香りに戸惑いを隠せません。

「いったい、ここはどこなのでしょう?」

ただ、おかしいと思う気持ちは強くなるものの、手がかりは何もなく、どうしようもなく立ち止まって思案に暮れていると

やめて!

来ないで!

と言うような若い女性の声が聞こえてきた気がしました。

それを聞いた女は、もはや悩んでいる暇はない!と再度駆けだします。

戦で荒れた後に現れた野党であろうか?
少女の悲痛な声と同時に、何やら野太い声が聞こえて来た気がして、女は更に足を早めます。

声は獣道から少し外れたほうから聞こえてくるよう。先ほどよりもはっきりと、悲痛な声が聞こえて来ました。

やめて!
  ばしん!

ぎゃぎゃっ
ぎゃぎゃっ
ぎゃぎゃっ

こないで!
  どんっ!

ぎゃぎゃっ
ぎゃぎゃっ
ぎゃぎゃっ

助けを呼ぶ声
聞きなれない笑い声のような音
それらの間に、何やら聴きなれないお経に近い音が聞こえた女は、その先に尼がいると確信し、その場に飛び出しました。

そんな女の目に飛び込んできたのは

大勢の緑色の小男に囲まれた少女

その状況に激怒した女は、思わず大声で怒鳴りました!

「この腐れ餓鬼が!!!!!!!!!!!尼様に何をしておるか!!!!!!!!!!!!」

と。
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