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二話 いとをかし光景
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暗闇の中、すっかり気が抜け ぼおっとしている女が一人。
どこから鳴く鳥の音にも右から左へ流れ、びゅーびゅーと吹く風が頬を叩きつけても、女の時は止まったまま、
ようやく正気を取り戻した時にはすっかり夜もふけていました。
月明かりが照らす木々をぼぉっと見ているうちに、意識が戻り、女はやっと自分がいる場所が山奥だという事に気がつきました。
「今頃は極楽浄土に旅立っているはずだったのですが、何事も思うようにいかないものですね… あれほど南無阿弥陀仏を唱えていましたのに…」
一人でも道連れにし、今頃は野に伏していたはずなのにと女はつぶやきます。
末法の世、阿弥陀如来様におすがりすべく南無阿弥陀仏を唱える人が多いと聞きましたが、心から信じてなければそんなものかと思いながら、とりあえず付近の草を束にして縛っていきます。
周りがすっかり暗闇に覆われているので、出来る事と言えば子供だましの罠作り。
夜目がきくたえでさえも、徐々に周りが見えなくなっていく中、地べたに這いつくばりながら無心に草を束ねていきます。
「南無阿弥陀仏を唱えている人は多いのに、なぜ頻繁に飢饉がおこり、飢えて死んでしまう人が多いのか?…来世で幸せになる前に、米の飯を腹いっぱい食べたいもののですね」
京の地でおこぼれに預かり頂いた山盛りの白米を想像し、思わず袖で口をぬぐうあたり、まだまだ自身に欲というものがあるのかと呆れてしまいながら作業を続けます。
こんな事を口に出したら、周りから罰当たりと袋叩きに会う事は間違いないが、今は一人。
つぶやくくらいなら良いですよねと独り言を言いながら作業をすること数時間。
気がつけば微妙な間隔を置いた草結びがあたり一面にできていました。
そんな女にも疲れが襲ってきたのでしょう。
草を結ぶ手はすっかり止まり、力尽き這いつくばってしまったその場で寝てしまいそうになりましたが、せっかく作った罠を自ら無駄にするのも勿体ないと、なんとか重い体を引きずりその場から離れます。
離れたものの行く宛はない。
その場から隠れ、再び足止めをする場を探したいと思うも、辺りは暗くて全く見えない。
仕方なく女は足下の獣道を月明かりを頼りに歩くことにしました。
逃亡途中の見知らぬ地でありますので、わかるのは山の中でもはっきりわかる獣道。
人や獣が生きるために通った跡ですので、少なくとも何かにつながっているのだろうと楽観的に思いながら歩きます。
しばらく歩いていると、そんな思いが通じたのか右手に小さなお堂のようなものが見えてきました。
ひとひとりが入れるかどうかの小さなお堂に月ひかりが照らされ、その周りだけがキラキラ光る幻想的なものに見え、女はその光景に思わず見とれてしまいました。
「このような山奥にこのようなお堂が…なんといとをかし光景でしょう…」
しばらくその光景に見とれていた女でしたが、目もうつろになり気のせいではない体の重さから、とうとう疲れが限界に達してしまったようです。もはや遠慮する余裕がないのか?まるで自分の家であるかのようにずかずかと中に入り、どかっと座ったかと思うと、鎧姿のままうずくまりってしましました。
源頼朝の軍勢に敗れ、そこからずっとの逃亡生活。
仕える巴御前のため、周りの世話をしながら戦う日々を送る毎日。
名もない豪族の娘として手習い程度に触っていた武具を用いて、まさか自分にこのような状況に身を置くなど思ってもみなかっただけに、いままでの疲れが限界に達していたのでしょう。うずくまった瞬間女の意識はあっという間に遠くに行ってしまいました。
しばらくすると、女が寝静まるのを待っていたかのように彼女の体を月明かりのような優しい光が包み込んでいきました。その光は女を包み込むように染み込むように降り注いでいきます。
その光に包まれた彼女の体は光輝いていきます。
着ている鎧や衣類も徐々に綺麗になっていき、体についていた傷や癒されていく中、彼女の表情もいままでの苦痛から解き放たれたように穏やかになっていきます。
現代日本においても、その様な力を見ることはありませんので、まさにこの力は『奇跡』と言うものなのでしょう。
疲労と緊張で強ばっていた女の寝顔はすっかり穏やかになり、寝息もすぅすぅと可愛らしいものになっていきます。
ただ、その時、誰も気がつかなかったのです。
そのお堂が、その場からすぅーっと消えてしまった事に…
どこから鳴く鳥の音にも右から左へ流れ、びゅーびゅーと吹く風が頬を叩きつけても、女の時は止まったまま、
ようやく正気を取り戻した時にはすっかり夜もふけていました。
月明かりが照らす木々をぼぉっと見ているうちに、意識が戻り、女はやっと自分がいる場所が山奥だという事に気がつきました。
「今頃は極楽浄土に旅立っているはずだったのですが、何事も思うようにいかないものですね… あれほど南無阿弥陀仏を唱えていましたのに…」
一人でも道連れにし、今頃は野に伏していたはずなのにと女はつぶやきます。
末法の世、阿弥陀如来様におすがりすべく南無阿弥陀仏を唱える人が多いと聞きましたが、心から信じてなければそんなものかと思いながら、とりあえず付近の草を束にして縛っていきます。
周りがすっかり暗闇に覆われているので、出来る事と言えば子供だましの罠作り。
夜目がきくたえでさえも、徐々に周りが見えなくなっていく中、地べたに這いつくばりながら無心に草を束ねていきます。
「南無阿弥陀仏を唱えている人は多いのに、なぜ頻繁に飢饉がおこり、飢えて死んでしまう人が多いのか?…来世で幸せになる前に、米の飯を腹いっぱい食べたいもののですね」
京の地でおこぼれに預かり頂いた山盛りの白米を想像し、思わず袖で口をぬぐうあたり、まだまだ自身に欲というものがあるのかと呆れてしまいながら作業を続けます。
こんな事を口に出したら、周りから罰当たりと袋叩きに会う事は間違いないが、今は一人。
つぶやくくらいなら良いですよねと独り言を言いながら作業をすること数時間。
気がつけば微妙な間隔を置いた草結びがあたり一面にできていました。
そんな女にも疲れが襲ってきたのでしょう。
草を結ぶ手はすっかり止まり、力尽き這いつくばってしまったその場で寝てしまいそうになりましたが、せっかく作った罠を自ら無駄にするのも勿体ないと、なんとか重い体を引きずりその場から離れます。
離れたものの行く宛はない。
その場から隠れ、再び足止めをする場を探したいと思うも、辺りは暗くて全く見えない。
仕方なく女は足下の獣道を月明かりを頼りに歩くことにしました。
逃亡途中の見知らぬ地でありますので、わかるのは山の中でもはっきりわかる獣道。
人や獣が生きるために通った跡ですので、少なくとも何かにつながっているのだろうと楽観的に思いながら歩きます。
しばらく歩いていると、そんな思いが通じたのか右手に小さなお堂のようなものが見えてきました。
ひとひとりが入れるかどうかの小さなお堂に月ひかりが照らされ、その周りだけがキラキラ光る幻想的なものに見え、女はその光景に思わず見とれてしまいました。
「このような山奥にこのようなお堂が…なんといとをかし光景でしょう…」
しばらくその光景に見とれていた女でしたが、目もうつろになり気のせいではない体の重さから、とうとう疲れが限界に達してしまったようです。もはや遠慮する余裕がないのか?まるで自分の家であるかのようにずかずかと中に入り、どかっと座ったかと思うと、鎧姿のままうずくまりってしましました。
源頼朝の軍勢に敗れ、そこからずっとの逃亡生活。
仕える巴御前のため、周りの世話をしながら戦う日々を送る毎日。
名もない豪族の娘として手習い程度に触っていた武具を用いて、まさか自分にこのような状況に身を置くなど思ってもみなかっただけに、いままでの疲れが限界に達していたのでしょう。うずくまった瞬間女の意識はあっという間に遠くに行ってしまいました。
しばらくすると、女が寝静まるのを待っていたかのように彼女の体を月明かりのような優しい光が包み込んでいきました。その光は女を包み込むように染み込むように降り注いでいきます。
その光に包まれた彼女の体は光輝いていきます。
着ている鎧や衣類も徐々に綺麗になっていき、体についていた傷や癒されていく中、彼女の表情もいままでの苦痛から解き放たれたように穏やかになっていきます。
現代日本においても、その様な力を見ることはありませんので、まさにこの力は『奇跡』と言うものなのでしょう。
疲労と緊張で強ばっていた女の寝顔はすっかり穏やかになり、寝息もすぅすぅと可愛らしいものになっていきます。
ただ、その時、誰も気がつかなかったのです。
そのお堂が、その場からすぅーっと消えてしまった事に…
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