2 / 23
二話 いとをかし光景
しおりを挟む
暗闇の中、すっかり気が抜け ぼおっとしている女が一人。
どこから鳴く鳥の音にも右から左へ流れ、びゅーびゅーと吹く風が頬を叩きつけても、女の時は止まったまま、
ようやく正気を取り戻した時にはすっかり夜もふけていました。
月明かりが照らす木々をぼぉっと見ているうちに、意識が戻り、女はやっと自分がいる場所が山奥だという事に気がつきました。
「今頃は極楽浄土に旅立っているはずだったのですが、何事も思うようにいかないものですね… あれほど南無阿弥陀仏を唱えていましたのに…」
一人でも道連れにし、今頃は野に伏していたはずなのにと女はつぶやきます。
末法の世、阿弥陀如来様におすがりすべく南無阿弥陀仏を唱える人が多いと聞きましたが、心から信じてなければそんなものかと思いながら、とりあえず付近の草を束にして縛っていきます。
周りがすっかり暗闇に覆われているので、出来る事と言えば子供だましの罠作り。
夜目がきくたえでさえも、徐々に周りが見えなくなっていく中、地べたに這いつくばりながら無心に草を束ねていきます。
「南無阿弥陀仏を唱えている人は多いのに、なぜ頻繁に飢饉がおこり、飢えて死んでしまう人が多いのか?…来世で幸せになる前に、米の飯を腹いっぱい食べたいもののですね」
京の地でおこぼれに預かり頂いた山盛りの白米を想像し、思わず袖で口をぬぐうあたり、まだまだ自身に欲というものがあるのかと呆れてしまいながら作業を続けます。
こんな事を口に出したら、周りから罰当たりと袋叩きに会う事は間違いないが、今は一人。
つぶやくくらいなら良いですよねと独り言を言いながら作業をすること数時間。
気がつけば微妙な間隔を置いた草結びがあたり一面にできていました。
そんな女にも疲れが襲ってきたのでしょう。
草を結ぶ手はすっかり止まり、力尽き這いつくばってしまったその場で寝てしまいそうになりましたが、せっかく作った罠を自ら無駄にするのも勿体ないと、なんとか重い体を引きずりその場から離れます。
離れたものの行く宛はない。
その場から隠れ、再び足止めをする場を探したいと思うも、辺りは暗くて全く見えない。
仕方なく女は足下の獣道を月明かりを頼りに歩くことにしました。
逃亡途中の見知らぬ地でありますので、わかるのは山の中でもはっきりわかる獣道。
人や獣が生きるために通った跡ですので、少なくとも何かにつながっているのだろうと楽観的に思いながら歩きます。
しばらく歩いていると、そんな思いが通じたのか右手に小さなお堂のようなものが見えてきました。
ひとひとりが入れるかどうかの小さなお堂に月ひかりが照らされ、その周りだけがキラキラ光る幻想的なものに見え、女はその光景に思わず見とれてしまいました。
「このような山奥にこのようなお堂が…なんといとをかし光景でしょう…」
しばらくその光景に見とれていた女でしたが、目もうつろになり気のせいではない体の重さから、とうとう疲れが限界に達してしまったようです。もはや遠慮する余裕がないのか?まるで自分の家であるかのようにずかずかと中に入り、どかっと座ったかと思うと、鎧姿のままうずくまりってしましました。
源頼朝の軍勢に敗れ、そこからずっとの逃亡生活。
仕える巴御前のため、周りの世話をしながら戦う日々を送る毎日。
名もない豪族の娘として手習い程度に触っていた武具を用いて、まさか自分にこのような状況に身を置くなど思ってもみなかっただけに、いままでの疲れが限界に達していたのでしょう。うずくまった瞬間女の意識はあっという間に遠くに行ってしまいました。
しばらくすると、女が寝静まるのを待っていたかのように彼女の体を月明かりのような優しい光が包み込んでいきました。その光は女を包み込むように染み込むように降り注いでいきます。
その光に包まれた彼女の体は光輝いていきます。
着ている鎧や衣類も徐々に綺麗になっていき、体についていた傷や癒されていく中、彼女の表情もいままでの苦痛から解き放たれたように穏やかになっていきます。
現代日本においても、その様な力を見ることはありませんので、まさにこの力は『奇跡』と言うものなのでしょう。
疲労と緊張で強ばっていた女の寝顔はすっかり穏やかになり、寝息もすぅすぅと可愛らしいものになっていきます。
ただ、その時、誰も気がつかなかったのです。
そのお堂が、その場からすぅーっと消えてしまった事に…
どこから鳴く鳥の音にも右から左へ流れ、びゅーびゅーと吹く風が頬を叩きつけても、女の時は止まったまま、
ようやく正気を取り戻した時にはすっかり夜もふけていました。
月明かりが照らす木々をぼぉっと見ているうちに、意識が戻り、女はやっと自分がいる場所が山奥だという事に気がつきました。
「今頃は極楽浄土に旅立っているはずだったのですが、何事も思うようにいかないものですね… あれほど南無阿弥陀仏を唱えていましたのに…」
一人でも道連れにし、今頃は野に伏していたはずなのにと女はつぶやきます。
末法の世、阿弥陀如来様におすがりすべく南無阿弥陀仏を唱える人が多いと聞きましたが、心から信じてなければそんなものかと思いながら、とりあえず付近の草を束にして縛っていきます。
周りがすっかり暗闇に覆われているので、出来る事と言えば子供だましの罠作り。
夜目がきくたえでさえも、徐々に周りが見えなくなっていく中、地べたに這いつくばりながら無心に草を束ねていきます。
「南無阿弥陀仏を唱えている人は多いのに、なぜ頻繁に飢饉がおこり、飢えて死んでしまう人が多いのか?…来世で幸せになる前に、米の飯を腹いっぱい食べたいもののですね」
京の地でおこぼれに預かり頂いた山盛りの白米を想像し、思わず袖で口をぬぐうあたり、まだまだ自身に欲というものがあるのかと呆れてしまいながら作業を続けます。
こんな事を口に出したら、周りから罰当たりと袋叩きに会う事は間違いないが、今は一人。
つぶやくくらいなら良いですよねと独り言を言いながら作業をすること数時間。
気がつけば微妙な間隔を置いた草結びがあたり一面にできていました。
そんな女にも疲れが襲ってきたのでしょう。
草を結ぶ手はすっかり止まり、力尽き這いつくばってしまったその場で寝てしまいそうになりましたが、せっかく作った罠を自ら無駄にするのも勿体ないと、なんとか重い体を引きずりその場から離れます。
離れたものの行く宛はない。
その場から隠れ、再び足止めをする場を探したいと思うも、辺りは暗くて全く見えない。
仕方なく女は足下の獣道を月明かりを頼りに歩くことにしました。
逃亡途中の見知らぬ地でありますので、わかるのは山の中でもはっきりわかる獣道。
人や獣が生きるために通った跡ですので、少なくとも何かにつながっているのだろうと楽観的に思いながら歩きます。
しばらく歩いていると、そんな思いが通じたのか右手に小さなお堂のようなものが見えてきました。
ひとひとりが入れるかどうかの小さなお堂に月ひかりが照らされ、その周りだけがキラキラ光る幻想的なものに見え、女はその光景に思わず見とれてしまいました。
「このような山奥にこのようなお堂が…なんといとをかし光景でしょう…」
しばらくその光景に見とれていた女でしたが、目もうつろになり気のせいではない体の重さから、とうとう疲れが限界に達してしまったようです。もはや遠慮する余裕がないのか?まるで自分の家であるかのようにずかずかと中に入り、どかっと座ったかと思うと、鎧姿のままうずくまりってしましました。
源頼朝の軍勢に敗れ、そこからずっとの逃亡生活。
仕える巴御前のため、周りの世話をしながら戦う日々を送る毎日。
名もない豪族の娘として手習い程度に触っていた武具を用いて、まさか自分にこのような状況に身を置くなど思ってもみなかっただけに、いままでの疲れが限界に達していたのでしょう。うずくまった瞬間女の意識はあっという間に遠くに行ってしまいました。
しばらくすると、女が寝静まるのを待っていたかのように彼女の体を月明かりのような優しい光が包み込んでいきました。その光は女を包み込むように染み込むように降り注いでいきます。
その光に包まれた彼女の体は光輝いていきます。
着ている鎧や衣類も徐々に綺麗になっていき、体についていた傷や癒されていく中、彼女の表情もいままでの苦痛から解き放たれたように穏やかになっていきます。
現代日本においても、その様な力を見ることはありませんので、まさにこの力は『奇跡』と言うものなのでしょう。
疲労と緊張で強ばっていた女の寝顔はすっかり穏やかになり、寝息もすぅすぅと可愛らしいものになっていきます。
ただ、その時、誰も気がつかなかったのです。
そのお堂が、その場からすぅーっと消えてしまった事に…
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる