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フィギュアの女の子 その1

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結局家に帰ったのは、22時過ぎ。

駐車場に車を止め、気持ち静かに鍵を開けながら、ふと、こう言う時上下に気を使わない一軒家を購入して本当に良かったなぁと思う小心者な俺。

家にいる小学生の息子はすでに夢の中なんで、小声でただいまの声をかけると、

「お帰り」
と小さく声が帰ってくる。

こんなに遅くなっても、なんだかんだ自分の事を待っていてくれるカミサンに感謝しつつ、差し入れと言ってミルクティーを差し出すと嬉しそうに温かい容器を頬に当ててるよ。

そんな様子を見て、ちょっと笑ってしまったら、

「私、そ、そんなに安くないんだからね」

なんて頬を軽く膨らませ、怒ったふりをするカミサンを見て、思わずにやにやしてしまう俺。

付き合ってから今まで20年以上。

いろいろあったけど、なんだかんだ俺の事を一番わかってくれて、ずっと一緒にいてくれるカミサンに感謝しながら、用意してくれていたご飯を少しだけ頂く。

今日は、おにぎり食べてるから、おかずとお味噌汁だけ少しだけ。

最近、野菜が多めの料理を用意してくれてる事が多いんだけど、自分の健康の事を考えてくれているのかな?本当に感謝感謝だよ!

台所で遅い夕飯の準備をしてくれているカミサンの顔を見ながら、もう少しいろいろしっかりやって家族を守りたいなぁ~とぼんりやり思っていると、玄関に置いた荷物を持ってカミサンが不思議そうな顔をしているのよ。

「えっと玄関にこれ置いてあったんだけど、珍しいねこんなの買うって」

フィギュアの箱を不思議そうに見ながら机に並べるカミサンの言葉に、そうだよねぇ自分もそう思うよ なんて素直に思う。

息子が小さい頃は、息子の笑顔が見たくておもちゃを買ってたんだけど、自分のためにおもちゃは買ったことがない。

ましてや、美少女系のフィギュアなんて眼中になかった俺が、そんな美少女フィギュアを買うって事を不思議に思うのは当たり前だよな。

まぁ隠すこともないから、珍しいコンビニに入って、たまたま目に入ったくじを引いたら出てきたんだよ、なんて、お店であった事を話したら『メイド服の店員さん』に食いつくカミサン。

あ、そー言えば、一度メイド喫茶行ってみたいって言ってたもんね。ごめんよ。偶然だったけど先にそれ系のもの経験してね。ま、まぁ今度、行ってみようよ!と言うと、ぷぅと頬を膨らませるカミサン。

そんな様子を見ながら、ご馳走様と手を合わせ食器を片付ける。

こりゃ早々に機会を作らないといけないよなぁと思いながら、改めて、机に並べられたフィギュアを見てみる。

3等ひとつと、5等がふたつ。
透明で四角いプラスチックのパッケージに入っている3つのフィギュアを見ながら、なんでこれを手に取ったんだろう?と首をかしげながらまずは少女のフィギュアを手に取る。

頭と胴体が同じくらいの大きさになっている、二頭身の女の子が、心なしか痛そうな表情を浮かべ箱に入ってる。実は目が『><』ってなってたのが気になってたんだよね。

箱の上には『イデア』と書いてあるから、きっとこの子の名前かな?

髪の毛は白髪、いや、設定的には銀髪なのかな?猫耳っぽいのが頭から生えているような感じ、お尻からこれまた白髪?銀髪の狐っぽい尻尾が生えているよ。

二頭身だからわかりにくいけど、衣装は作務衣のような上着にホットパンツかな?それらは薄汚れた感じの茶色。

もう少し可愛い衣装だったらよかったのになぁと思い、パッケージの裏を見ていると、この子の設定が書いてあったよ。意外と凝ってるなぁ。

設定には
・剣と魔法が入り乱れた中世ヨーロッパのような異世界に生まれ、とある人間の貴族に奴隷として使われていた亜人の少女。
・何も力がないと思いながら奴隷として命令をこなしていた15歳の誕生日、突然腕に激痛が走り紋章が浮かぶも、それが何かわからないまま日々を過ごしていた。
・成長して美しくなったイデアだが、そんな彼女に興味を示した主人に襲われかけた時、恐怖から魔法が発動し今に至る。彼女の明日はどうなるのか?

・・・って書いてあるよ。
こういうフィギュアって、そんな暗い設定とか書かないよね。勝手なイメージだけどさ。

さらっと書いてあるけど、たぶんずっと奴隷として使われていたから綺麗な衣装じゃなかったって事だろうし、フィギュア良く見たらなんかところどころに切り傷みたいなのもあるよ。どんな層狙ったんだよこれ!

ま、まぁ、そんな事言ってもしゃーないから、せめて自分の手元にあるうちは、綺麗な洋服着せて、可愛いキャラクターとしていてもらいたいな~と思い、今度は5等の景品に手を伸ばす。

えっと、「魔法のかばん」と「旅人のマント」か。

設定見てたら絶対に可愛らしい洋服にしたのにな。我ながらチョイスの悪さに愕然としてしまったけど、仕方がない。

「魔法のかばん」は水色と白の二色の少し大き目な方掛けかばん。

設定を見ていると、自分の魔法力の大きさ次第でいろいろなものを収納できるかばん、最低でも一部屋くらいのスペースがあり、手で持てるものなら収納可能。取り出す時は出すものを頭に思い浮かべれば品物が目の前に出現するって書いてあるよ。

こんなんあったら便利でいいよなぁ~。
ま、現実世界で魔法も何もあったもんじゃないけど、某青色になっちゃった猫型ロボットのお腹のポケット見たいで夢があっていいよね。

「旅人のマント」は鮮やかな水色が目を惹いたから手にしたんだけど、何か効果があるものではなく、一般的な装備らしい。くじ引きとしてはハズレだろうけど、ま、いっか。

そんな事をぶつぶつ言ってると、そんな俺を不思議そうに見ながらカミサンも目の前に座ったので、フィギュアに書かれていた設定について話をすると、

「あまり気持ちの良いものじゃないね」と一言。

設定を見たあとだからかもしれないけど、何となくこのフィギュアを汚い格好のままにしておきたくなくて、5等のマントとかばんを開封したあと、3等のフィギュアを開封しようとしたらさ、

バチン!

と大きい音がして、辺りが真っ暗になったんよ。

カミサンも料理を終え、キッチンの電気は消えてる。息子も夢の中だからブレーカー上がる事ないのになぁ?

築十うん年で早くもボロが出たか?全く困ったもんだよ!って思いながら、電気系統の様子を見に行こうとしたらさ、なんか声が聞こえた気がしたんよ。

「ん?なんかいった?」
「えっ?なんも言ってないよ?それより早くどうにかしてよ!」

真っ暗な中、メガネっ子のカミサンにはきついものがあるのか?いつもよりキツイ口調で言われた事にちょっとショックを受けながら、椅子から立とうとした時、それは起こったんだ。


開封されたフィギュアの周辺から、

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

と低い音と振動が、そして強烈な光が出てきたんよ!


なになになに?って夫婦そろって慌ててると、気のせいかと思った声がはっきり聞こえてきたんだ。



『彼女の物語はある日を境に動きを止めた』

『しかし、今、封印は解かれ、時は動き出した』

『『『獣人イデアに幸おおからん事を!!!!』』』



最後の台詞が、複数人による絶叫に聞こえたかと思ったら、多くの光がフィギュアに集まってきて、気がついたらいたんだよ!それが!!


あんだって?じゃないよ!


猫耳ふさふさ尻尾の女の子が、生身の状態で机に転がってきたんよ!!!!

なにこれっ!

なんかのドッキリ????

ワケわからんよ本当に!!!
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