ちっちゃなメイドが世界を救うハメになりました。

ネコヅキ

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一章 そうだ。龍に会いに行こう。

二 あり得ない寝相。

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 全ての準備を整えた一行は、予定通り身体を休めるべく宿にやって来ました。出発が朝早いので、カリン達が選んだ宿は、街の入り口に近くてそこそこの宿。ランクにして中級の宿になります。

「部屋をお願いするでち。大部屋一つに、シングル一つでち」

 眼鏡をかけた清楚な感じの受付嬢に、カリンはIDを渡します。

「はい。お預かりします。えーっと、カーテローゼ様ですね……」

 受付嬢はカウンターの陰で何かを操作し始めました。

「はい。承りました。それでは係の者がお部屋に案内します。どうぞ」

 カリンはIDを受け取ると、案内係の後ろをついて行きます。お店のマスターはシングル部屋ですので別方向です。

「マスター。明日は六時でちから、遅れないようにお願いするでち」

「ん? ああ、分かったよカリンちゃん」

 お店のマスターは何処か残念そうな声で返事をしました。同じ部屋に泊まれると思うのは大間違いです。


「うわ、広ーい」

 部屋に入るなり、シルビアはその表情がパアッと明るくなり、一目散にベッドに飛び込みます。流石に五人部屋だけあって三人では広く感じます。

「あんまり、はしゃがないで欲しいでち」

 案内係にチップの銀貨十枚(千ドラル)を渡したカリンは、恐らくはこんな宿に泊まるのが初めてであろうシルビアに言いますが、猛る気持ちは抑える事が出来ない様子です。

 シルビアが窓を開けると、夕焼けに染まった草原と、鬱蒼と茂った森が目に入りました。

「あれが、ロクス・フォレスト?」

「そうでちよ」

 シルビアが指差す方向に、カリンは頷きます。ロクス・フォレストは、街から歩いて一時間程の近い場所にあるのです。

 街から近い場所にあって、美味しい山菜が取れるものですから、足を踏み入れる者が後を絶たず、結果魔物エサになるのが殆どです。そこで関所を作り、ギルドの認定がある者にしか入れないようにしたのです。ちなみに、ロクス・フォレストは『銀』以上のIDを持つ者が一人以上居なければ、入れないような仕組みになっています。

「さぁっ! 私のご主人様マイ・マスターっ! 参りましょう!」

 既に素っ裸になって張り切っているミュウの目的は温泉です。案内係にその事を聞いた時からソワソワしていたので、カリンも分かっていました。

「ミュウ。服は着るでちよ」

 流石に素っ裸のまま部屋からお風呂へはあり得ません。そんな事をすれば浴場に着く前に、殿方の欲情がトンでもない事になってしまいます。


 浴場の扉を開けると、湯気が脱衣所まで入り込みます。白い靄に混じって硫黄の香りが鼻を擽り、思わずクシャミが飛び出しました。そして、あまりにも湯気が凄い為、ここからは音声のみでお伝えします。

「はー。極楽、極楽」

「最高でちねぇ」

ご主人様マスター、肌綺麗ですねー」

「そうでちか?」

「そうですよー。あ、弾力ありますねー」

「何シレッと触ってるでちか」

「ミュウさんも、スッゴイ身体してるじゃないですかー」

「ああ、コレはあのエリザとやらの身体をモデリングしただけだぞ」

「それ前にも言ってましたね。モデリングって何です?」

「それはな、対象物の身体測定をして、その対象物とソックリな外見を模倣するのだ」

「へぇぇ、じゃあこれってエリザ王女の外見まんまなんですねぇ……ってゆーか王女様より凄くないですかコレ」

「うむ。少し盛ってある」

「……ちょっと触らせて貰って良いですか?」

「ああ、良いぞ」

「………………柔らかい。凄い凄い! じゃあ、ココは……」

「ちょ、ま、待て。何処を触ってるん……アッハァ。だ、ダメ。そこはそこは弱いンンッ! ンァッ!」

 そんな感じで入浴の時間は過ぎてゆきました。

 まさか脇を触っただけであんな事になるとは思わなかった。後のシルビアはそう語ります。ミュウはエンシェントドラゴンですので、敏感な部分は人とは違うのです。

「おう。カリンちゃん達」

 脱衣所から出てすぐの所にある売店で、お店のマスターとバッタリと出くわしました。そして、ホラよ。と、白い液体が入った容器をカリン達に渡します。

「風呂上がりにはコイツだぜ?」

 お店のマスターはニヤリと口角を吊り上げ、容器の中身を一気に煽ります。勿論、手は腰の定位置です。それを真似てミュウも手を腰の定位置に当て一気に煽ります。

「おお、ミュウさん良い飲みっぷりだな……って、お、おいミュウさん? 大丈夫か?」

 煽った直後、ミュウの様子がおかしくなりました。頬がほんのり桃に染まり、目がトロンとしています。

「シルビア!」

「はっ、はいっ!」

 トロロンとした目で、ミュウはシルビアを見据えました。ミュウはエンシェントドラゴンですので、ヤギのミルクで酔ってしまうのです。

「さっきはよくもやってくれやがりましたね。お返しです!」

「へっ?! アッ! ちょっと、こんな所じゃ……」

 ミュウは服の上からシルビアの身体を弄ります。妖艶な姿と雰囲気をもつミュウと、形の良いおっぱいを鷲掴みにされているシルビアは、周りから熱い視線を集めていました。

 そんな目の前で繰り広げられるリリウムに、呆然としているお店のマスターの手から、容器が離れ床に落ちてゆきます。

「ミュウ!」

 節操の無いミュウに、カリンから叱咤の声が発せられました。ミュウはビクリとしてシルビアへの進撃を止めると、シルビアはその場に力なく崩れ落ちました。

「ミュウお姉ぇ「お座りでち!」

 何やらシルビアが呟きましたが、そんな事は放っておいてカリンはミュウに命令をします。

「はっ、はいっ!」

 ミュウは床に正座をします。小さい子供に妖艶な大人が怒られている姿は、他の宿泊客から奇異な視線を送られ、余計に目立つ結果になっていました。カリンは、もう二度とミュウにヤギのミルクを飲ませまいと思い、お店のマスターの脳内では、完全犯罪のシナリオが描かれていたのでした。

 深夜。

「(なんでちかこれは? 熱くて息苦しいのでち)」

 モゾリと寝返りを打つと、ポニョリとした感触が頬を撫でました。カリンはソレが何なのか目を開けて確かめます。首を持ち上げて見てみれば、アットホームな家族によく見られる川の字になって、三人で一つのベッドに寝ていました。人肌に温まったポニョリは、どうやらミュウの腹の上のポニョリであった様です。

 部屋に戻るなり、別なベッドで倒れ込んで寝ていたミュウまでもがカリンのベッドにいつの間にか潜り込み、右にはミュウ、左にはシルビア。夫々がカリンを抱き合いながら寝ているので、これでは息苦しくない筈がありません。カリンは二人の間から抜け出すと、シルビアが元々寝ていたベッドにその居を移し再び眠りについたのでした。


 翌朝。
 陽の光が差し込み、眩しさのあまりカリンの意識が覚醒しました。カリンはベッドから起き上がると、大きく伸びをします。中々快適な目覚めです。

 ふと、深夜の事を思い出したカリンは、元々の居住区であったベッドを見ると、ミュウとシルビアは仲良く寝ていました。しかしその寝姿は、何処をどうすればそうなるのか? と、不思議に思える格好。互いのパンツに頭を突っ込むなんて普通じゃあり得ない寝相でした。

「あ、マスター。早いでちね」

 カリンが食堂へ行くと、お店のマスターは既に席に着いて食事をしていました。

「ああ、毎日の習慣っていうのかな。店じゃこれくらいには起きて準備してたからな」

 お店のマスターは、人気スイーツ店のマスターです。来てくれるお客さんの為に、毎朝早くから準備をしているのです。カリンも元メイドですので、これくらいには起きていました。他にもう一人元メイドが居るのですが、こちらは起きてくる気配すらありません。

「お店、本当に大丈夫なんでちか? あ、ベーコンエッグとサラダ。付け合わせはパンでお願いするでち」

 お店のマスターは、魔王崇拝の手の者に奪われた宝玉を取り戻す為、カリン達と同行してくれている……と思われます。

「そろそろ弟子達も、一人でやれる様になって貰わんとな、何時迄も弟子のマンマじゃしょうがないだろ」

 いつか自分のお店を持ちたい。持つんだ。そんな思いで彼等もお店のマスターの家の門を叩いたのです。

「さて、腹も膨れたし、準備をするか。そういや、ミュウさんとシルビアちゃんはまだなのかい?」

「ミュウは兎も角、シルビアはホント緊張感がないでちよ。これから行く所を思えば、寝れないとかあるもんでちが……」

「はっはっは。肝が座っていて頼もしいじゃないか」

 爆発エクスプロージョンだけは、勘弁願いたい。と、お店のマスターは思うのでした。



「ひぃぃぃっ!(ぐぅぅぅ)」

 藪から出て来たリスに、シルビアは大層驚いていました。何処が肝が座ってるんだ? と、カリンはお店のマスターに視線を向けますが、お店のマスターの視線はミュウのお尻に向けられていました。

 カリンが食事を終えて部屋に戻ると、二人はまだパンツに頭を突っ込んで寝ていました。ブチリときたカリンは二人を叩き起こし、出発の準備をさせたのです。シルビアは当然朝ごはん抜きです。ミュウはエンシェントドラゴンですので太陽光発電が可能。ですので基本的にご飯は要りません。

 先程から静かな森の中に腹の虫の鳴き声が、カリン達の耳に届いていました。


 深淵の森、ロクス・フォレストの入り口へやって来た一行は、関所の役人にIDを見せて依頼内容を告げました。しかし、カリン達の本当の目的は別にあります。

(ぐぅぅぅ)

 カリン達の目的は、この地に住まう緑龍に会い、魔王の魂が封じ込められている宝玉が、無事かどうか確かめる事です。

(ぐぅぅぅ)

 ミュウが保持していた宝玉は、魔王崇拝の手の者に奪われてしまいましたが、ここが無事なら取り敢えずは魔王の復活を阻止できるのです。

(ぐびぃぃぃ)

「シルビアちゃん。これでも食っときな」

 お店のマスターは背中のリュックからパンを一切れ取り出しました。それを受け取ったシルビアは、ガッツクように胃に収めます。その過程で、ンガッグッグ状態に陥りましたが、お店のマスターから渡された水筒で事なきを得ました。

「ふぅ。有難うございますマスター。おかげで生き返りました」

 にこやかに微笑んで差し戻された水筒を受け取りながら、お店のマスターは不覚にもドキッとしてしまった事を後悔していました。シルビアはまだ十六ですから、手を出したら犯罪者になります。

「ミュウ。場所は分かるでちか?」

「はい、ご主人様マスター。場所は把握しています。(恐らく)」

「恐らくじゃ困るでちよ」

 カリンに聞こえない様に呟いたのでしょうが、バッチリ聞こえていました。


 ガサリ。ガサリ。
 一行は鬱蒼と茂る草をかき分けて進みます。先頭はお店のマスター、次いでミュウとカリン、そしてシルビアです。お店のマスターはトマホークを振るい、なるべく歩きやすい様に草や木の枝を刈り落としながら進みます。時折獣道の様なモノを見かけますが、基本的に道などないので致し方ない所です。

「ひゃぁぁ」

 後方でシルビアが奇妙な声をあげました。見れば、街で買ったお洒落な服は、見て楽しむ如何わしいお店のコスチュームの様になっていて、赤いチェックのミニスカは更に短くなり、そしてシースルーの上着は、中のノースリーブのシャツと共に破けてヘソ出しルックと化していました。

 それもそのはず、木の枝や草は意外に凶器になるのです。道端の草で裾がボロボロになる為、大概の旅人はロングスカートを履きません。そして、それ等から身体を守る為に皮製の上着を着込みブーツを履くのです。魔王崇拝の手の者から逃げた時に、森の中を走って擦り傷だらけでメイド服がボロボロになったのを、シルビアの頭の中からはスッポリと抜け落ちていたのでした。

 ちなみに、ミュウはエンシェントドラゴンですが服は普通な物の為、シルビア同様解れ始めています。

「そんな服着るからでちよ」

「ううう」

 街に戻ったら服を買い直そう。シルビアはそう思うのですが、果たしてそれまで今の服が保つかどうか怪しい所です。

 日がとっぷりと暮れる頃、本日の行軍は終了となり野営の準備に取り掛かります。お店のマスターは、降ろしたリュックの中から、大きなお鍋を取り出して焚き火の上に置きます。当初その焚き火もシルビアが私やるぅ。とか言い出しましたが、結果集めた薪が爆発エクスプロージョンしてしまい、カリンに怒られるというハプニングになりましたので、ミュウの魔法によって再点火されたのでした。


 食事を終え、カリン達はお茶を啜りながらマッタリと過ごしていました。夜の森は陽が落ちた途端ヒンヤリと冷え込み、一寸先は闇。中々不気味な雰囲気を醸し出しています。

 バチリと焚き火が爆ぜ、ガサゴソと崩れてゆきます。その度にビクリと反応をするシルビアが、カリンの腕をガッチリとホールドしていました。ちょっとビビリ過ぎです。

「魔物の巣窟だって聞いてたんだが、なんか拍子抜けだな」

 お店のマスターは、焚き火にカラコロと薪を入れながらそうボヤきます。魔物が出る。と、気を張って移動してきましたが、結局何とも遭遇せずに此処まで来れたのですから、気落ちするのは当然といえます。

 しかしそれは、エンシェントドラゴンであるミュウから、常に放たれている龍気に気圧されて、弱い魔物は寄り付かない仕組みになっていたのです。常人ならば一日で此処に辿り着く事はあり得ない事を、お店のマスターは知りません。

「まあでも、気を付けるに越した事ないでちよ」

 あんまり気を抜いていると、急に強い魔物が現れた時にパニクるのは目に見えていますので、カリンは釘を刺して置きました。ただ、如何に気を張っていてもパニクる人物が、何も無い今もカリンの腕をギュッと抱き締めているので、安心は出来ません。

「そうだな。それじゃ、カリンちゃん達は寝てくれ。俺が見張りをしているからよ」

 お店のマスターはそう言い出しました。

「マスターだけにやらす訳にはいかないでちよ」

 カリンの言葉に、お店のマスターはイヤイヤと首を横に振りました。

「女性に見張りなんかさせられねぇ。遠慮はいらねぇよ」

 漢らしい台詞がお店のマスターの口から出ましたが、お店のマスター以外は全員女ですので、そんな事を言ってしまったら徹夜確定です。そして、完徹三日目には、お店のマスターも寝不足と疲労でぶっ倒れる事となりました。


「……カリンちゃん、すまねぇ」

「良いから寝ておくでちよ」

 カリンが言った途端、マスターから寝息が聞こえてきました。漢らしい事を行なった結果、漢を下げては意味がありません。

「ミュウ。薪を集めて火を起こしておくでち。シルビア。その辺にある白いキノコを採って来るでちよ」

 二人は返事をして、夫々与えられた仕事に取り掛かります。お店のマスターがぶっ倒れた為、行軍を中止して少し早いお昼にします。この辺は、ロクス・フォレストの中域。ロクス・マッシュルームの群生地なので、其処彼処にキノコが生えています。これ一つで銀貨二十枚(二千ドラル)にもなる高級食材です。カリンはそれをトントントーンと刻み、ジャッジュワッと、焼いていきます。

「お待ちでち」

 本当はキノコシチューにでもしたい所なのですが、ミルクを使うとミュウが淫乱になってしまう為に、シンプルな焼きにしました。ロクス・マッシュルームの香草焼きです。

 外はカリッと仕上げ、中はホックホクなキノコに三人は舌鼓を打ちました。勿論、お店のマスターの分もちゃんと残しておきました。


 程なく復活したお店のマスターは、残しておいたキノコをたいらげ、一行は再び歩みを進めます。先頭はミュウ。次いでお店のマスター、カリン、シルビアの順です。

「……カリンちゃん達すまねぇ」

「もう良いでちよ」

 お店のマスターは、未だ引き摺っている様で、しつこいくらいに謝ってきます。それが段々と鼻につき始めた頃、軽快に歩いていたミュウがピタリと止まりました。

「ミュウ。どうちたでちか?」

ご主人様マスター、何かが来ます」

 ミュウは前方にある藪を睨み付けたまま、そう言いました。

「ひぃ、フグッ……」

「シルビアちゃん、静かにするんだ」

 お店のマスターは、悲鳴を上げかけたシルビアの口を掌で塞ぎます。緊張感漂う中、お店のマスターは、シルビアの柔らかい唇を、その掌で堪能していました。

「ミュウ。どうでち? こっちに来まちか?」

 もしも、此方に向かって来る様なら、もっと広い所に場所を移そうとカリンは考えていました。こんな藪に囲まれた狭い場所では、此方も満足に戦う事が出来ません。

 暫くの間沈黙が流れ、そしてカリン達も緊張の汗が顔を伝い滴り落ちます。シルビアに至っては目からも汗が落ちています。

「もう大丈夫です。ルートは外れました」

 ミュウの言葉に、みんなが安堵のため息を吐きました。ミュウの龍気を感じても、臆する事なく向かってくる魔物。相当ヤバイ魔物である様に思えましたが、今回は何とか回避出来た様です。

 しかし、シルビアだけはソレを回避する事が出来なかった様で、緩んだお店のマスターの腕の中から、ズルリと崩れ落ち倒れ伏しました。

「へ? あ……」

 白目をむいて倒れるシルビアを見て、お店のマスターは素っ頓狂な声を出し、直後に自分の掌を見ます。カリンは慌ててシルビアに近付き、倒れた原因を探します。

 何か毒にでも冒されたかもしれない。と、カリンは思っていましたが、身体の何処にも異常は見当たらず、只の失神であると判断しました。そして、シルビアの側に居たお店のマスターを見ます。

「マスター。何かしたんでちか?」

「すまん。オレも緊張でつい手に力が入っちまって……」

 そうです。シルビアはお店のマスターの大きな掌で鼻まで塞がれ、息が出来ずに失神したのでした。後にシルビアは、苦しかったケドなんか気持ち良くなって……と、語りますが、危うく最初で最後になる所でした。



「タップしたのに、タップしたのに……」

 シルビアは寝言でそう繰り返します。あの出来事は少なからず、彼女の心にダメージを与えていたようでした。

ご主人様マスター。明日には着きますので」

 夕食の乗ったお皿をカリンに渡しながら、ミュウは言います。今夜の食事は……いえ、今夜の食事もキノコの香草焼きです。ギルド依頼であるロクス・マッシュルームを大量に手に入れてからは、メニューが変わりません。飽きのこない美味しさなのです。

「そうでちか」

「なあ、ミュウさん。緑龍とは会話……というか念話? は出来ないのかい?」

 ミュウは、ハアッ? と訝しげにお店のマスターを見ました。

「カリンちゃんに使っていたヤツがあるだろ? あれを緑龍にも使えないのかなって思ってな」

「アレは聴心気というモノでな、特定の人にしか届かないのだ。緑龍と話をする為には結局の所、近くまで行かない事にはな」

「そうなのか……」

 もしかしたら、此処からそれを確認できるのでは? と、お店のマスターは思ったのですが、そうは甘くはないようです。

 翌日のお昼を過ぎた頃、ようやく目的地にたどり着きました。ロクス・フォレストの深域、緑龍が住むとされる場所です。

 野球場程の開けた場所に、大きな大きな木が立っています。その根元に入り口らしき扉を見つけた一行でしたが、魔封印で封が施されていました。

「カリンちゃん。開けられるのかい?」

 お店のマスターにカリンは首を横に振って応えます。

「ミュウはどうでち?」

ご主人様マスターご主人様マスターの要望を叶えてあげたい所ではありますが無理です」

 そして、カリン、ミュウ、お店のマスターはシルビアを見ようとしましたが、どうせ無理なので視線はそのまま通り過ぎます。

 魔封印は無属性魔法で封が成されています。これを解くには、同じ無属性魔法である解呪の呪文が必要なのです。しかし、一行の中には無属性魔法を使えるのはミュウだけ。けれども、ミュウはその魔法を知りません。それもその筈、ミュウはエンシェントドラゴンですので、解呪という言葉は脳内辞書に記載されていないのです。

 此処まで来て、一行は呆然と立ち尽くすしかありませんでした。カリン達一行に、どうしようか? 戻る? 的な雰囲気が流れ始めた時に、カリン達がやって来た方向の茂みが、ガサゴソと音を立て揺れ動き始めました。

「ミュウ。何が居るのでちか」

「いえ、特には何も」

「何もって、草が動いているんだが?」

「ひぃぃぃ」

 ガサリッ!

 茂みの中から黒い影が飛び出しました。その姿形に、カリン達は目をまん丸くして驚いていました――
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