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二百十一
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ルリさんの目の前に突如として発生した黒い霧は、三メートル程の大きさで霧散する事もなく、まるで煙の様にモクモクと動きながらその場に留まり続けていた。
「おおー」
「本来はもっと広範囲にかけるんだけど、今はこんなもんでしょ」
「ルリさんルリさん。これ入ってみても大丈夫ですか?」
「目が輝いているわね……。大丈夫よ方向感覚が狂う以外に影響は無いから」
人体に害が無いと聞き、試してみたくなるのは、人が持つ好奇心によるものか。モクモクと留まる煙の中にその身を踊らせる。
「おおっ」
天気が良く、陽も降り注いでいるというのに、中はその光を通す事もない漆黒の闇。これは確かに方向感覚が狂うな。足元すら見えないからオジサマの家に向いているのか、大河方向なのかも分からない。
「ぷっは。面白いですねコレ」
「遊びで使うのならね。追走している時にこんなモン使われた時には厄介よ」
風の魔術で吹き飛ばす事も可能だが、発動するまでに相手が隠れてしまったら、見つけ出すのは困難になるそうだ。
「さて、遊びはお終い。今度はカナさんの番よ」
「はいっ!」
「……随分機嫌が良いわね」
「そりゃぁ、やっと使えそうな術を教えて貰えるから、嬉しくって」
攻撃魔法はおばさまに、メッ。と叱られたし、コレなら気にする事もなく使える。
ルリさんが生み出した黒い霧を凝視して脳裏に焼き付け、目を閉じる。えっと、ルリさんがやってみせた煙の様なイメージを……
「漆黒の海……の深淵に棲まいし――」
「……っ! お姉様っ!」
「ちょっ、カナさん!? 何を言っているの?! 止めなさいっ!」
ちょっと五月蝿いから黙ってて。今、イメージを固めている所なんだから……
「んくっ?!」
突如、人肌並みに温かく柔らかい何かが私の口を塞いだ。そして、反射的に固く閉ざした唇を強引に押し開け、生温かいナメクジが私の中を蹂躙する。驚いて目を開けると、眼前にはルリさんの顔があり更に驚く。
「ふわぁっ……。なななな何するんですかっ!?」
ルリさんを強引に押し退ける。押し退けられたルリさんは、『ふふ……やってやったぜ』みたいな顔をしていた。
「女を黙らせるにはこの方法が一番よ」
オマエはイケメンかっ!?
「そんな事よりカナさん」
私の唇をそんな事呼ばわりしないで。
「今、誰に『呼び掛け』を行なったの?」
「え……? 私、『呼び掛け』なんてしてませんよ? 失敗しない様にイメージを固めていただけで――」
「ウソ言わないで、リリーカちゃんも聞いてたわ」
リリーカさんに視線を向けると真剣な表情でコクリ。と頷いた。
「はい。お姉様は私達の知らない存在に呼び掛けておいででしたわ」
「ウソ?! 私そんなの知らないよ!?」
私はただ、目を閉じていただけなのに。どうして分かって貰えないの!?
「おおー」
「本来はもっと広範囲にかけるんだけど、今はこんなもんでしょ」
「ルリさんルリさん。これ入ってみても大丈夫ですか?」
「目が輝いているわね……。大丈夫よ方向感覚が狂う以外に影響は無いから」
人体に害が無いと聞き、試してみたくなるのは、人が持つ好奇心によるものか。モクモクと留まる煙の中にその身を踊らせる。
「おおっ」
天気が良く、陽も降り注いでいるというのに、中はその光を通す事もない漆黒の闇。これは確かに方向感覚が狂うな。足元すら見えないからオジサマの家に向いているのか、大河方向なのかも分からない。
「ぷっは。面白いですねコレ」
「遊びで使うのならね。追走している時にこんなモン使われた時には厄介よ」
風の魔術で吹き飛ばす事も可能だが、発動するまでに相手が隠れてしまったら、見つけ出すのは困難になるそうだ。
「さて、遊びはお終い。今度はカナさんの番よ」
「はいっ!」
「……随分機嫌が良いわね」
「そりゃぁ、やっと使えそうな術を教えて貰えるから、嬉しくって」
攻撃魔法はおばさまに、メッ。と叱られたし、コレなら気にする事もなく使える。
ルリさんが生み出した黒い霧を凝視して脳裏に焼き付け、目を閉じる。えっと、ルリさんがやってみせた煙の様なイメージを……
「漆黒の海……の深淵に棲まいし――」
「……っ! お姉様っ!」
「ちょっ、カナさん!? 何を言っているの?! 止めなさいっ!」
ちょっと五月蝿いから黙ってて。今、イメージを固めている所なんだから……
「んくっ?!」
突如、人肌並みに温かく柔らかい何かが私の口を塞いだ。そして、反射的に固く閉ざした唇を強引に押し開け、生温かいナメクジが私の中を蹂躙する。驚いて目を開けると、眼前にはルリさんの顔があり更に驚く。
「ふわぁっ……。なななな何するんですかっ!?」
ルリさんを強引に押し退ける。押し退けられたルリさんは、『ふふ……やってやったぜ』みたいな顔をしていた。
「女を黙らせるにはこの方法が一番よ」
オマエはイケメンかっ!?
「そんな事よりカナさん」
私の唇をそんな事呼ばわりしないで。
「今、誰に『呼び掛け』を行なったの?」
「え……? 私、『呼び掛け』なんてしてませんよ? 失敗しない様にイメージを固めていただけで――」
「ウソ言わないで、リリーカちゃんも聞いてたわ」
リリーカさんに視線を向けると真剣な表情でコクリ。と頷いた。
「はい。お姉様は私達の知らない存在に呼び掛けておいででしたわ」
「ウソ?! 私そんなの知らないよ!?」
私はただ、目を閉じていただけなのに。どうして分かって貰えないの!?
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