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百九十二

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 ドンドンドン。ドアが慌ただしく叩かれる。ハイハイ。と応えて扉を開けると、ライオンのたてがみを持ったカバが立っていた。……あ、おばさまか。

「ああ、良かった。カナちゃんもリリーもここに居たのね」
「おばさま、どうかしたんですか?」

 息が荒い所を見ると、余程慌てて探していたのだろう。秋も進んだこの時期だが、衣服だけは真夏並みに汗の跡があった。

「…………アラ? 何だったかしら」

 おばさま、ボケ始まってない?

「あ、そうそう。『にぃちゃん』が居なくなっちゃったのよ」
「え!? 朝は確かにお姉様の部屋に居りましたわよ」

 一体何処から入り込んだのか、いつの間にか私のお腹の上で、尻を向けて寝ていた『にぃちゃん』。お陰で寝起きにガッツリとソコに刻まれた文様を見てしまい、若干目覚めが悪かった。

「その後、お姉様とわたくしの着替えをジッと見つめていましたが……」
「部屋を出た時一緒だったっけ?」
「……いえ、一緒に出た記憶はありませんわ」

 じゃあ、部屋に居るのかな……?

「それが、部屋にも居なかったのよ」

 おばさまは『にぃちゃん』のご飯がまだだった事を思い出し、家中探し回ったがその何処にも居ないので、それを知らせるべく私達を探していたのだという。

「もし外に出たのだとしたら、少し不味い事になりますわね……」 
「そうね。拾われて鑑定にでも掛けられたら、大騒ぎになりそう……」

 なにせ『にぃちゃん』の鑑定額は、リリーカさんの話ではちょっとした町が買えるくらいの値段。そんな小さな町が、ひょこひょこと街中を歩いているのだから、気付かれたら大騒ぎどころか騒乱となるに違いない。

「探すにしても、何処をどうやって探せば良いものやら……」
「取り敢えず、食べ物を売っている露店に聞いてみましょう」
「え? どうしてそこなのです?」

 ご飯に有り付けなかった空腹の『にぃちゃん』が、良い香りに誘われてソコへ行った可能性は高い。もし食べ物に釣られなくても、通りを歩けば嫌でも目立つ。それを説明すると、リリーカさんはなるほど。と頷いた。

「流石はカナちゃんね。じゃあ、おばさんは通りの南から聞いていくから、カナちゃんとリリーは北からお願いね」

 流石おばさま。私達には遠い所から探せ、と?

「でも、ルリ姉様は如何致します?」
「しょうがないからこのまま寝かせておくわ。書き置きでも残しておけば大丈夫でしょう」
「分かりました。それでは行きましょうお姉様」

 水と二日酔いに効きそうな薬の側に書き置きを残し、『にぃちゃん』を探しに部屋を出た。
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