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八十二

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 ガシャリ、ガシャリ。と音を立て、ウォルハイマーさんが歩みを進める。それに気付いた人達は、彼にその行く手を譲る。必然的に人の列が割れていった。

「ローザ=フリュエールさん。で間違いないかな?」
「え? ええ、そうですけど……?」

 突然現れた衛兵に、彼女は面食らった顔をしていた。

「私は都市防衛隊千人隊長のフレッド=アクラブ=ウォルハイマー。今現在、貴女には殺人の嫌疑が掛けられている。我々と同行して貰おうか」

 その言葉を聞いた者達がザワリ。と騒めき、彼女に視線を注ぐ。

「えっ?! こ、この私がそんな事をする筈が無いですよっ! 完全に人違いですっ!」

 掛けられた嫌疑を晴らすかの様に、ローザは殊更ことさら大きな声で否定する。しらじらしい……

「ひっ!」

 衛兵さんの陰から顔を出して睨み付ける私に気付き、小さく悲鳴をあげて大きく目を開けるローザ。私がカウンターに近付くにつれてその目が少しづつ大きくなり、側に着く頃には飛び出すんじゃないかと思える程になっていた。

「な……んで……?」
「お久し振りですねっ、ローザ先輩っ」

 私は明るく笑顔で挨拶をする。こうする事で次の一手の落差をより強める為だ。

「そ、そんな筈は……」
「私、先輩がした事を許す気はありませんので……大人しく裁きを受けろ」

 笑顔からギュッと顔を締め、精一杯に睨み付ける。ローザは一歩二歩と後退り、ペタン。と床に座り込んだ。

「ば……バケモノ……」

 私を見る目が恐怖で満ちる。殺した筈の人物がこうして目の前に現れ、恫喝するのだから無理も無い。

「彼女を拘束し、連行せよ」
『ハッ!』

 ガチャリ、ガチャリ。と尻餅をついたままのローザを取り囲んだ衛兵さん達は、それぞれ彼女の腕を取って引き起こす。と、それまで大人しかったローザが抵抗を試みる。

「ちっ、違う。私じゃ無いっ! アイツよ。あの女が私を陥れたのよっ! 私は無罪だわっ!」
「喚くな! 話は詰所で聞く。分かっていると思うが、虚言はお前の罪を重くするぞ」
「クッ…………」

 ウォルハイマーさんの一喝で、ガクリ。と力無く項垂れるローザ。本来なら膝から崩れ落ちる所だけど、両腕を衛兵さんに掴まれている為にそれは無く、そのまま引き摺られる様に連行されて行った。

「彼女……どうなりますか……?」
「ん? ああ、取り調べの後、裁きを受ける事になる。貴女の証言通りに人を殺めたとすれば、重罪は免れまい。何か心配事でも……?」
「ええ、彼女があらぬ事を並べて釈放されるのでは。と……」
「そこは心配しなくて良い。取り調べの際には虚言に反応する魔導具マジックアイテムを使うのでな」
「そう……ですか……」

 終わった。そう思うと強張っていた全身の力が抜けていった――
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