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城からの召喚。
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ショーが終わり、観客達がそれぞれ思い思いに席を立って退場してゆく。その顔は、とても満足そうに見える。かくいう私も、元の世界とはまた違った演目に十二分に楽しめた。それはエリィちゃんも同じの様で、しっかりと握られた手の平から興奮冷めやらぬ。と、いったカンジがひしひしと伝わっていた。
「ユーリウス様っ!」
掛けられた男性の声に視線を向けると、韓流ドラマの様な匠な彫り物が成された鎧を着た人物が、顔だけを露出させた兜を被った人達を伴い駆け寄って来る。と同時に、エリィちゃんが私のお尻の後ろに隠れた。
「ご連絡頂き誠に感謝に耐えません」
「いえ、こちらの方こそショーが終わるまでお任せ頂き、有難う御座いますウォルハイマー卿」
「なんの。リブラ様のお願いとあってはお断りする訳にも参りませんから。さ、それではお屋敷へ戻りましょう。お父上もご心配されておいでです」
「いやっ! エリィもっと遊びたいっ!」
私の尻の後ろに完全に身を隠すエリィちゃん。絶対に帰らないと意思を示すその手は、オジサマから借りているズボンをガッツリと掴んでいた。ちょ、尻肉まで掴まないでっ!
「ダメですよエリィさん。私達と約束したではありませんか」
「うー」
エリィちゃんはほっぺをプクリと膨らませ、尻肉を掴む手の力が増す。いたたたっ。食い込んでる食い込んでるって。
「それじゃあこうしよう。今日はもう日が暮れるし、明日また遊ぼう」
「ほんと?!」
「ああ、次はエリィちゃんのお家で、ね」
「カーン様、それは……」
リリーカさんは眉間にシワを寄せ、困った表情で口ごもる。
「どうせ例の件を熟さなければならないしそれに、お屋敷の敷地内で遊ぶ分には別に問題ないだろう?」
「それはまあ、そうですが……」
「失礼ですが『礼の件』とは?」
何かしらのカンが働いたのか、ウォルハイマーさんが口を挟む。
「ああ、いえ。わ……ボクとリリーカの話でして、他の方には何の害も御座いません」
ニセのフィアンセを演じている事を話す訳にはいかない。慌てて言い繕ったが信じてはくれないだろうな。
「はい。私とカーン様の話ですので問題御座いませんわ」
「リブラ様がそう仰っしゃるのなら問題ないでしょう」
リリーカさんからの援護射撃が地味に有り難いな。
「ねぇ」
「ん?」
「ほんとうにあそんでくれるの?」
「ああ勿論。信じられないかい?」
コクリと頷くエリィちゃん。
「それじゃあ、約束をしよう」
「やくそく?」
「そう」
小指を立てた手を差し出すと、エリィちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「なに?」
「これはね、ボクの国で約束をする時の儀式なんだよ」
幼い頃、誰しもがやった事があるであろう約束の歌。エリィちゃんの小指を絡ませてその歌を紡ぐ。そして、歌い終わると同時に小指同士が離れる。
「これが約束の儀式だよ」
「うんっ」
小指を立てたままで、本日最高の笑顔を見せたエリィちゃん。ウォルハイマーさん御一行に囲まれて家路へと着き、その場に私達が残された。
「宜しいのですか? あの様な約束をしてしまって」
「まあ、問題無いでしょ。ところで、エリィちゃんって何方のご息女なの?」
誰の子供か知らなければ遊びに行きようがない。約束を振っておいて自ら破る訳にもいかないからね。何度か遊んであげれば満足してくれるだろう。
「あのお方の本当の名前は、エリシア=アリエス=ティアリム様。冠一位、つまりは国王陛下の御息女で御座います」
へ? 国王のご息女? って事はつまり……
「お、じょ?」
錆びた人形の様にギギギギと首を向けると、コクリと頷くリリーカさん。露店で買ったオジサマへのお土産がドサリと落ちた。
『あ』。それは五十音の最初の文字であり、現代語の五母音の一つ。そして、今私の頭の中を埋め尽くしている文字である。頭の中に入りきらないモノは、口から漏れ出して周囲を漂っていた。
「リリー。カナちゃんどうかしたの? 今日はちょっと壊れているみたいだけど」
「お姉様はエリシア王女を王族と知らずに接していたのですわ」
「あらあらまあまあ。それは大変ね」
当たり前だけど完全に他人事だなっ!
「ねぇっ、リリーカさんっ! 私、どうなっちゃうのっ!? 市中引き回し?! ハラキリっ?! スシゲイシャッ!?」
リリーカさんの肩を掴みカックンカックンと前後に揺さぶる。
「お、落ち着いて下さいましお姉様っ! 仰っている意味が分かりませんわっ!」
「そんな声が認識出来なかった時の様な事を言わないでっ! リリーカさんは知ってたのに、何で教えてくれなかったのっ?!」
「それはその……」
リリーカさんは私からスッと視線を逸らす。
「あの時、口止めされてしまいましたから」
「あの時……?」
「王女殿下がスイーツを食されていた時ですわ」
美幼女が『私の』スイーツをモリモリと食べていた光景が思い出される。そういえば、あの時からリリーカさんの様子がおかしくなった。
「お姉様に伝えれば確実に態度がお変わりになるでしょう。それでは私が話をしたという事がバレてしまいますので」
確かにそうだ。美幼女が王女と知ったら、私の態度は変わってしまっただろう。
「別に六歳児なら分からなかったんじゃ?」
「いえ、実際には十一歳ですわ。見た目が幼い御方ですから、ウォルハイマー卿も混乱を避ける為にそう仰ったのでしょう」
実年齢十一歳っていくらなんでもサバ読み過ぎ。違和感無かったけど。
「だだだ大丈夫かな……? 王女様を美幼女扱いして街中を連れて歩いて……コレってある意味誘拐になるんじゃ?」
王族を誘拐してタダで済むはずが無い。まさか、死刑にっ?!
「まあ、エリシア王女も喜んでおられた様ですし、問題無いと思いますよ」
思いますよって。
「王女様は良くても王様はどうなのよ?」
「陛下は公明正大な御方だ。だが、愛娘が絡むとどうなるかは分からん」
コトリ。と淹れたてのコーヒーを置くオジサマ。あのオジサマ、それフォローになってないっ!
「……どうやら、いらした様ですわ」
「へ? いいいいらしたって、ななな何が?!」
祭りの喧騒を静寂に変え、ガタゴトと近付く音がオジサマのお店の前で止まる。そして、引手であろうものがヒヒヒンと嘶いた。その鳴き声を聞き、ギョグッとツバを飲み込む。そして、皆の意識が外へと向けられているスキを突いて、私はソッと裏口へと足を忍ばせた。しかし、阻まれてしまった。
「お姉様何方に行かれるのですかっ?!」
「私今から自分探しの旅に出るからっ!」
「何、お一人で逃げようとなさっているのですかっ!」
「大丈夫よカナちゃん。あの御方なら悪い結果にはならないわ」
おばさまはそう言うけれど、不安しか湧き上がってこない。
ガラランッ。と、ドアに取り付けられた来客を知らせる鐘が鳴る。入店して来たのは、燕尾服を身に纏い、白髪を短く揃えた初老の男。嵌めた手袋が白い軌跡を生み、お辞儀と共にお腹の部分に当てられる。
「我が主人、オドリック=アリエス=ティアリム陛下の命により、リリーカ=リブラ=ユーリウス様。そして、カーン=アシュフォード様を御迎えに参りました。御支度をお願い致します」
最早逃れる事叶わぬ。そう悟ると、汗がドッと吹き出る。
「だっ、だいひょうぶれすわっ。おおお姉様は、私がお守りしまひゅっ」
更に不安が深まったのは言うまでもない。
胃が痛い。現在のこの状況とこれから訪れるであろう状況を想像するだけで胃がキリキリと痛み出す。これからというのは王様に謁見する事。そして現在というのは、テーマパークでお姫様が乗っている様な馬車に乗せられている事だ。
祭りも終盤に近付き、更に賑わいを増した通りを王冠型の馬車が通っているのだから目立たない筈がない。歩く人々は皆足を止め、何事かと奇異な視線を向けてくる。中には何かの催し物かと思っている人もいるかもしれない。そんな状態が下層と中層を隔てる城壁まで続けば胃も痛くなるというもんである。うう、いい晒しもんだよぅ。
門番に充たっていた衛兵さんの指示で巨大な門が開かれる。それを二度ほど通り抜けると、車窓の景色が一変する。
王城を取り囲む湖から流れる綺麗な水が、網の目の様に張り巡らされた水路によって、中層、そして下層へと運ばれてゆく。色取り取りの花が咲き乱れ、所々に設けられたため池に逆さ富士の様に映り込んでいた。
王城を中心とした鏡面絶景。インスタ映えなんてレベルじゃない。まるで御伽の国に舞い込んだような錯覚さえ覚える程だ。
「すごい……」
もう、その言葉しか出てこない。
「エルフ族の超一流の庭師によって完璧に調和された自慢の庭だそうですわ」
朝、昼、夕、夜。時間毎に違う表情を覗かせ、季節によってもまた違うそうだ。その様子から、フェアエンデル・ガーデンと呼ばれているそうである。城壁を見る度に上層の見学をしてみたいと思っていたが、まさかこんな形で実現するなんて……
そんな素晴らしい庭園を横目で見つつ、紅に染まる白亜の城に、忘れていた胃の痛みが強まった。
「ユーリウス様っ!」
掛けられた男性の声に視線を向けると、韓流ドラマの様な匠な彫り物が成された鎧を着た人物が、顔だけを露出させた兜を被った人達を伴い駆け寄って来る。と同時に、エリィちゃんが私のお尻の後ろに隠れた。
「ご連絡頂き誠に感謝に耐えません」
「いえ、こちらの方こそショーが終わるまでお任せ頂き、有難う御座いますウォルハイマー卿」
「なんの。リブラ様のお願いとあってはお断りする訳にも参りませんから。さ、それではお屋敷へ戻りましょう。お父上もご心配されておいでです」
「いやっ! エリィもっと遊びたいっ!」
私の尻の後ろに完全に身を隠すエリィちゃん。絶対に帰らないと意思を示すその手は、オジサマから借りているズボンをガッツリと掴んでいた。ちょ、尻肉まで掴まないでっ!
「ダメですよエリィさん。私達と約束したではありませんか」
「うー」
エリィちゃんはほっぺをプクリと膨らませ、尻肉を掴む手の力が増す。いたたたっ。食い込んでる食い込んでるって。
「それじゃあこうしよう。今日はもう日が暮れるし、明日また遊ぼう」
「ほんと?!」
「ああ、次はエリィちゃんのお家で、ね」
「カーン様、それは……」
リリーカさんは眉間にシワを寄せ、困った表情で口ごもる。
「どうせ例の件を熟さなければならないしそれに、お屋敷の敷地内で遊ぶ分には別に問題ないだろう?」
「それはまあ、そうですが……」
「失礼ですが『礼の件』とは?」
何かしらのカンが働いたのか、ウォルハイマーさんが口を挟む。
「ああ、いえ。わ……ボクとリリーカの話でして、他の方には何の害も御座いません」
ニセのフィアンセを演じている事を話す訳にはいかない。慌てて言い繕ったが信じてはくれないだろうな。
「はい。私とカーン様の話ですので問題御座いませんわ」
「リブラ様がそう仰っしゃるのなら問題ないでしょう」
リリーカさんからの援護射撃が地味に有り難いな。
「ねぇ」
「ん?」
「ほんとうにあそんでくれるの?」
「ああ勿論。信じられないかい?」
コクリと頷くエリィちゃん。
「それじゃあ、約束をしよう」
「やくそく?」
「そう」
小指を立てた手を差し出すと、エリィちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「なに?」
「これはね、ボクの国で約束をする時の儀式なんだよ」
幼い頃、誰しもがやった事があるであろう約束の歌。エリィちゃんの小指を絡ませてその歌を紡ぐ。そして、歌い終わると同時に小指同士が離れる。
「これが約束の儀式だよ」
「うんっ」
小指を立てたままで、本日最高の笑顔を見せたエリィちゃん。ウォルハイマーさん御一行に囲まれて家路へと着き、その場に私達が残された。
「宜しいのですか? あの様な約束をしてしまって」
「まあ、問題無いでしょ。ところで、エリィちゃんって何方のご息女なの?」
誰の子供か知らなければ遊びに行きようがない。約束を振っておいて自ら破る訳にもいかないからね。何度か遊んであげれば満足してくれるだろう。
「あのお方の本当の名前は、エリシア=アリエス=ティアリム様。冠一位、つまりは国王陛下の御息女で御座います」
へ? 国王のご息女? って事はつまり……
「お、じょ?」
錆びた人形の様にギギギギと首を向けると、コクリと頷くリリーカさん。露店で買ったオジサマへのお土産がドサリと落ちた。
『あ』。それは五十音の最初の文字であり、現代語の五母音の一つ。そして、今私の頭の中を埋め尽くしている文字である。頭の中に入りきらないモノは、口から漏れ出して周囲を漂っていた。
「リリー。カナちゃんどうかしたの? 今日はちょっと壊れているみたいだけど」
「お姉様はエリシア王女を王族と知らずに接していたのですわ」
「あらあらまあまあ。それは大変ね」
当たり前だけど完全に他人事だなっ!
「ねぇっ、リリーカさんっ! 私、どうなっちゃうのっ!? 市中引き回し?! ハラキリっ?! スシゲイシャッ!?」
リリーカさんの肩を掴みカックンカックンと前後に揺さぶる。
「お、落ち着いて下さいましお姉様っ! 仰っている意味が分かりませんわっ!」
「そんな声が認識出来なかった時の様な事を言わないでっ! リリーカさんは知ってたのに、何で教えてくれなかったのっ?!」
「それはその……」
リリーカさんは私からスッと視線を逸らす。
「あの時、口止めされてしまいましたから」
「あの時……?」
「王女殿下がスイーツを食されていた時ですわ」
美幼女が『私の』スイーツをモリモリと食べていた光景が思い出される。そういえば、あの時からリリーカさんの様子がおかしくなった。
「お姉様に伝えれば確実に態度がお変わりになるでしょう。それでは私が話をしたという事がバレてしまいますので」
確かにそうだ。美幼女が王女と知ったら、私の態度は変わってしまっただろう。
「別に六歳児なら分からなかったんじゃ?」
「いえ、実際には十一歳ですわ。見た目が幼い御方ですから、ウォルハイマー卿も混乱を避ける為にそう仰ったのでしょう」
実年齢十一歳っていくらなんでもサバ読み過ぎ。違和感無かったけど。
「だだだ大丈夫かな……? 王女様を美幼女扱いして街中を連れて歩いて……コレってある意味誘拐になるんじゃ?」
王族を誘拐してタダで済むはずが無い。まさか、死刑にっ?!
「まあ、エリシア王女も喜んでおられた様ですし、問題無いと思いますよ」
思いますよって。
「王女様は良くても王様はどうなのよ?」
「陛下は公明正大な御方だ。だが、愛娘が絡むとどうなるかは分からん」
コトリ。と淹れたてのコーヒーを置くオジサマ。あのオジサマ、それフォローになってないっ!
「……どうやら、いらした様ですわ」
「へ? いいいいらしたって、ななな何が?!」
祭りの喧騒を静寂に変え、ガタゴトと近付く音がオジサマのお店の前で止まる。そして、引手であろうものがヒヒヒンと嘶いた。その鳴き声を聞き、ギョグッとツバを飲み込む。そして、皆の意識が外へと向けられているスキを突いて、私はソッと裏口へと足を忍ばせた。しかし、阻まれてしまった。
「お姉様何方に行かれるのですかっ?!」
「私今から自分探しの旅に出るからっ!」
「何、お一人で逃げようとなさっているのですかっ!」
「大丈夫よカナちゃん。あの御方なら悪い結果にはならないわ」
おばさまはそう言うけれど、不安しか湧き上がってこない。
ガラランッ。と、ドアに取り付けられた来客を知らせる鐘が鳴る。入店して来たのは、燕尾服を身に纏い、白髪を短く揃えた初老の男。嵌めた手袋が白い軌跡を生み、お辞儀と共にお腹の部分に当てられる。
「我が主人、オドリック=アリエス=ティアリム陛下の命により、リリーカ=リブラ=ユーリウス様。そして、カーン=アシュフォード様を御迎えに参りました。御支度をお願い致します」
最早逃れる事叶わぬ。そう悟ると、汗がドッと吹き出る。
「だっ、だいひょうぶれすわっ。おおお姉様は、私がお守りしまひゅっ」
更に不安が深まったのは言うまでもない。
胃が痛い。現在のこの状況とこれから訪れるであろう状況を想像するだけで胃がキリキリと痛み出す。これからというのは王様に謁見する事。そして現在というのは、テーマパークでお姫様が乗っている様な馬車に乗せられている事だ。
祭りも終盤に近付き、更に賑わいを増した通りを王冠型の馬車が通っているのだから目立たない筈がない。歩く人々は皆足を止め、何事かと奇異な視線を向けてくる。中には何かの催し物かと思っている人もいるかもしれない。そんな状態が下層と中層を隔てる城壁まで続けば胃も痛くなるというもんである。うう、いい晒しもんだよぅ。
門番に充たっていた衛兵さんの指示で巨大な門が開かれる。それを二度ほど通り抜けると、車窓の景色が一変する。
王城を取り囲む湖から流れる綺麗な水が、網の目の様に張り巡らされた水路によって、中層、そして下層へと運ばれてゆく。色取り取りの花が咲き乱れ、所々に設けられたため池に逆さ富士の様に映り込んでいた。
王城を中心とした鏡面絶景。インスタ映えなんてレベルじゃない。まるで御伽の国に舞い込んだような錯覚さえ覚える程だ。
「すごい……」
もう、その言葉しか出てこない。
「エルフ族の超一流の庭師によって完璧に調和された自慢の庭だそうですわ」
朝、昼、夕、夜。時間毎に違う表情を覗かせ、季節によってもまた違うそうだ。その様子から、フェアエンデル・ガーデンと呼ばれているそうである。城壁を見る度に上層の見学をしてみたいと思っていたが、まさかこんな形で実現するなんて……
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