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住み家の異変。
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お日様は山の稜線を離れて、青々とした空に飛び立っていた。『おはよう』の範疇ではあるものの、言えば『おそようだ』と返されてしまうかもしれない位の時間帯。人の往来が増え始めた大通りを、掻き分ける様にして横断する。残る通りはあと二つ。
「どうして、こんな事にっ?!」
大通りを渡り終え、駆ける速度を増しながら呟いた。
ローザさん達が帰った後、頭に違和感を覚えた私は彼女が煎じてくれた二日酔いに効く薬湯を飲んでベッドに入った。そこまではいい。しかし、再度目覚めて個室に入り、瞑想を済ませた時に事態は急変する。
日課である個室の瞑想で、アレの量は大体把握している。しかし、今回に限ってその量が多いのだ。慌てて外に出て城壁を見ると、垂れ幕には『豊穣祭五日目』と、デカデカと書かれていた。それを見た瞬間大量の汗が噴き出る。
踵を返して室内に駆け込み、四日目が消失した事をボヤきながら、クローゼットを開けて着替えを済まして部屋を飛び出し今に至る。
「ハァ、ハァッ! もう少しっ」
二つ目の大通りを無事に渡りきり、残る通りはあと一つ。これなら何とか間に合いそう。と思ったのも束の間、行く先に見える人の壁が淡い期待を粉砕する。
「どないせーっちゅうの……」
絶え間なく往来する肉壁は、二つの通りとは比較にならない程の密度。ここを渡らなければ目的地には大回りをしていく他無く、その為には一度戻らねばならない。
なので、被害を最小限にする為にはここを強引に突っ切るしか道は無く、ぶつかり合った肉同士で荒事に発展する可能性が高い。私はゴクリッと唾を飲み込み、覚悟を決めてその流れへと飛び込んだ。
「はぁ……きっつぅ」
最後で最大の難関を渡り終え、壁に手を付いて荒い息を繰り返す。思っていた通り揉みくちゃにされた。しかもお尻も触られた気がする。だが今は、そんな些細な事よりも目の前の遅刻を回避する事だ。そう割り切って息を整え、再度駆け出した。
通商ギルド『アルカイック』。このキュアノスの港事情を一手に仕切る単一のギルドで、大型魔導船も入港可能な発着場。そして、広大な敷地に並ぶ倉庫群。その規模はこの国でも一、二を争う程だ。従業員数もそれなりの数が居るが、今は祭りの只中という事もあって大幅に増員して対処をしている。しかしそれでも回転率には限界があり、現在沖合には何隻もの魔導貨物船が停泊している状態だ。
従業員用の出入り口から入った私は、素知らぬ顔で更衣室へと真っ直ぐに向かっている。ここで大事なのは、私は遅刻なんかしてない。化粧に時間が掛かっただけ。そう思い込む事だ。恐らくこれは元の世界でも通用する。幾人かとすれ違い、無難に挨拶を熟しながら通路を進み、目的地である更衣室のドアノブに手を掛けた所でホッと胸を撫で下ろした。
「ふぅ、何とかなったわね」
「いえ、何ともなっていませんよ」
「うわっ!」
背後から掛けられた声に驚き振り向くと、そこには満面のアルカイックスマイルを浮かべたルレイルさんが立っていた。いつの間に忍び寄ってきたんだこの人は。
「遅刻ですよアユザワさん。次は負債に加算しますので注意して下さい。ところで、理由をお伺いしても?」
「あー、はい……」
私は遅刻の経緯を話して聞かせる。ルレイルさんは額に指を添えて首を左右に振った。
「全く、ハメを外して良いとは言いましたが、節度は必要ですよ?」
大人なんですから。と、ルレイルさんは付け加えた。ごもっともです。
「ところで、よく私が遅刻したって分かりましたね?」
ギルドマスターという立場上彼も忙しいだろうし、出勤簿には書くのを忘れていた。と言えば誤魔化せるものと思っていた。私の問い掛けに、ルレイルさんはアルカイックスマイルのままで私を指差した。
「貴女が着けている首輪ですよ。それは装着者の魔力を使った発信器ですからね。何処に居ようとも分かります」
ぬかったっ! 首輪の事をスッカリ忘れていたっ。
「貴女は負債が終わるまでは我が社の物ですから、逃げても即対応出来るように逐一監視しているのですよ」
「へー、そうなん……え?」
逐一監視!? という事は私がお風呂やトイレに入っている事も筒抜けにっ?!
「でも安心して下さい。通話機能は有りませんので、シャワーを浴びようがトイレに入ろうが音は聞こえません。さあさ、今日も仕事が山積みです。頑張って働きましょう」
ルレイルさんはそう言って更衣室のドアを開け、私をグイグイと押し込んでドアを閉めた。
──豊穣祭七日目。あれから二日が経ち、搬入される物資は益々増えてゆく。私達受付嬢も含め、従業員はフル回転でこれに当たっていたが、それでも沖にはまだ五隻の船が停泊し入港の時を待っている。
ちなみに今日はアレの予定日。何事もなく無事産まれ出たアレは布に包んでクローゼットに隠してある。軟禁状態の現状でそんな物を提出する訳にはいかず、休暇の時に持ち出して浜辺を彷徨き辻褄合わせをしてから売りに出すつもりだ。
忙しい忙しいと仕事に従事していると、騒ついていた店内が不意に静かになり、代わりにガシャリガシャリとした音が近付く。そして人の列が割れると、甲冑を身に纏った一団が姿を現した。
「カナ=アユザワという者はここに居るか?」
その言葉に従業員から熱い眼差しが注がれる。隊長格の男がガシャリと私の前に立つと、値踏みするかの様に見つめた。暫し沈黙の時が流れる。
「お前がカナ=アユザワだな?」
「は、はい」
流石に熱視線を注がれては違うとも言えず、おずおずしながら頷いた。
「少し話がある。詰所までご同行願おう。抵抗はするな、こちらとて事を荒立てるつもりはない」
「えっと、その……」
「おや、衛兵の方がお揃いで当社に何用ですか?」
どう反応すれば良いのやら。と思っていると、アルカイックスマイルが衛兵さん達の肩越しに見えた。衛兵さん達が驚いた風でガシャリ。と身体ごと振り返る。さっきの事といい、アンタ背後霊か何かか?
「失礼。騒がせた非礼は詫びよう。我々はここに居るカナ=アユザワに用があって来たのだ」
「そうですか。とにかく、ここでは人の目に付きますので、奥の部屋にどうぞ。ウィンさんご案内お願いします」
分かりました。と男性職員のウィンさんは頷いて、こちらへどうぞ。と衛兵さん達を案内してゆく。
「さ、カナさんも」
「は、はい……」
私は一体何をやらかしたのか。と、過去を省みつつルレイルさんの後に続いた。
連行されたのは応接室。部屋の出入り口には衛兵の一人が立ち、私が逃げない様に見張っている。何もしてないのに犯人扱いするとは。
「私は何もしていませんっ」
突然の犯人扱いに少し腹が立って、刑事ドラマで見た事のある疑われた人のセリフを吐いてみた。
「まあまあ、取り敢えずはお話をお伺いしましょう」
ルレイルさんが無言のままで視線を送ると、隊長格の男の人がガシャリ。と頷いた。
「カナ=アユザワ。お前は今、『トレントハウス』に住んでいるな?」
「はい、住んでいます」
「二百五号室だな?」
「はい、そうです」
この世界に来て間もない頃、右往左往していた私におばさまが紹介してくれたアパート。入居時は埃まみれでヒドイ有様だったが、掃除を繰り返し見付けてきた小物を揃えて、何とか小洒落た部屋になった。
「となれば間違いは無いな。実は今朝方、他の住人から『異臭がする』と通報があった。調査の結果、異臭の元はお前の部屋である事が分かった訳だ」
私の部屋から異臭が? 別に生モノとか放置していた訳では……
「あっ」
思わず声を上げて口を『あ』の形に保ったまま虚空を見つめる。
「何か思い当たる節がある様だな」
ある。あった。ありまくりっ。
「正直に話して貰おう。誰を殺した?」
衛兵さん達から鋭い眼光が私に向けて放たれる。隣にいたルレイルさんは、辛うじてアルカイックスマイルを維持していた。殺人確定!?
「ひ、人なんて殺してませんよっ!」
「ならば、異臭の原因は何だ?」
「そ、それはですね……」
「どうした、言えないのか?」
い、言えない。こんな大勢の前で言える訳が無いっ。
「あの、えっと。隊長さん一人に話すって事で……」
「それはダメだ。今ここで言って貰おう」
くっ。ええいっ、こうなったらうら若き乙女の口から真っ白なモノを吐き出してやろうじゃないのっ! ……でもやっぱり恥ずかしいから、それとなく分かる様に。
「な、流し忘れたんです」
「流す? 何をだ? 死体か?」
どうしてソッチに話を持っていくかなっ!? ダメだ。この人達鈍感で気付いてくれない。
「ですから、その……」
膝に置いた手をギュッと握り、股をキュッと閉じて俯く。そして、ギュウッと目を瞑って口を開いた。
「──を流し忘れたんですっ」
告白後、急に静かになったので閉じていた目をソッと開ける。衛兵さん達は皆唖然とし、ルレイルさんに至ってはアルカイックスマイルのままで口の端を痙攣らせていた。その顔を維持している事が驚きだよ。そして隊長さんは額の真ん中に指を添える。
「すまん。何を言っているのか理解出来なかった。もう一度頼む」
こんな恥ずかしい事を二度も言わせるのっ?!
「ですからっ、ニ日前に出したのを流し忘れたんですっ!」
半ばヤケになって大声で叫ぶ。そう、異臭の原因はニ日前に出したアレ。休日が終わっている事に気付いて慌てて出社した時に、流し忘れていたのを忘れていて今に至る。
「そ、そうか。ならば、今スグに処理して貰えるかな……?」
「分かりました。出て構いませんよね? マスター」
「え、ええ。今日はこのまま上がって下さい。そして、ご迷惑をお掛けした住民の皆様によく謝って来て下さい」
「はい、分かりました」
そう言って席を立ち、ドアへと向かう私をルレイルさんが引き止める。
「アユザワさん。ソレを忘れては動物と変わりありませんよ?」
分かっとるわっ! 皆まで言うなっ!
「どうして、こんな事にっ?!」
大通りを渡り終え、駆ける速度を増しながら呟いた。
ローザさん達が帰った後、頭に違和感を覚えた私は彼女が煎じてくれた二日酔いに効く薬湯を飲んでベッドに入った。そこまではいい。しかし、再度目覚めて個室に入り、瞑想を済ませた時に事態は急変する。
日課である個室の瞑想で、アレの量は大体把握している。しかし、今回に限ってその量が多いのだ。慌てて外に出て城壁を見ると、垂れ幕には『豊穣祭五日目』と、デカデカと書かれていた。それを見た瞬間大量の汗が噴き出る。
踵を返して室内に駆け込み、四日目が消失した事をボヤきながら、クローゼットを開けて着替えを済まして部屋を飛び出し今に至る。
「ハァ、ハァッ! もう少しっ」
二つ目の大通りを無事に渡りきり、残る通りはあと一つ。これなら何とか間に合いそう。と思ったのも束の間、行く先に見える人の壁が淡い期待を粉砕する。
「どないせーっちゅうの……」
絶え間なく往来する肉壁は、二つの通りとは比較にならない程の密度。ここを渡らなければ目的地には大回りをしていく他無く、その為には一度戻らねばならない。
なので、被害を最小限にする為にはここを強引に突っ切るしか道は無く、ぶつかり合った肉同士で荒事に発展する可能性が高い。私はゴクリッと唾を飲み込み、覚悟を決めてその流れへと飛び込んだ。
「はぁ……きっつぅ」
最後で最大の難関を渡り終え、壁に手を付いて荒い息を繰り返す。思っていた通り揉みくちゃにされた。しかもお尻も触られた気がする。だが今は、そんな些細な事よりも目の前の遅刻を回避する事だ。そう割り切って息を整え、再度駆け出した。
通商ギルド『アルカイック』。このキュアノスの港事情を一手に仕切る単一のギルドで、大型魔導船も入港可能な発着場。そして、広大な敷地に並ぶ倉庫群。その規模はこの国でも一、二を争う程だ。従業員数もそれなりの数が居るが、今は祭りの只中という事もあって大幅に増員して対処をしている。しかしそれでも回転率には限界があり、現在沖合には何隻もの魔導貨物船が停泊している状態だ。
従業員用の出入り口から入った私は、素知らぬ顔で更衣室へと真っ直ぐに向かっている。ここで大事なのは、私は遅刻なんかしてない。化粧に時間が掛かっただけ。そう思い込む事だ。恐らくこれは元の世界でも通用する。幾人かとすれ違い、無難に挨拶を熟しながら通路を進み、目的地である更衣室のドアノブに手を掛けた所でホッと胸を撫で下ろした。
「ふぅ、何とかなったわね」
「いえ、何ともなっていませんよ」
「うわっ!」
背後から掛けられた声に驚き振り向くと、そこには満面のアルカイックスマイルを浮かべたルレイルさんが立っていた。いつの間に忍び寄ってきたんだこの人は。
「遅刻ですよアユザワさん。次は負債に加算しますので注意して下さい。ところで、理由をお伺いしても?」
「あー、はい……」
私は遅刻の経緯を話して聞かせる。ルレイルさんは額に指を添えて首を左右に振った。
「全く、ハメを外して良いとは言いましたが、節度は必要ですよ?」
大人なんですから。と、ルレイルさんは付け加えた。ごもっともです。
「ところで、よく私が遅刻したって分かりましたね?」
ギルドマスターという立場上彼も忙しいだろうし、出勤簿には書くのを忘れていた。と言えば誤魔化せるものと思っていた。私の問い掛けに、ルレイルさんはアルカイックスマイルのままで私を指差した。
「貴女が着けている首輪ですよ。それは装着者の魔力を使った発信器ですからね。何処に居ようとも分かります」
ぬかったっ! 首輪の事をスッカリ忘れていたっ。
「貴女は負債が終わるまでは我が社の物ですから、逃げても即対応出来るように逐一監視しているのですよ」
「へー、そうなん……え?」
逐一監視!? という事は私がお風呂やトイレに入っている事も筒抜けにっ?!
「でも安心して下さい。通話機能は有りませんので、シャワーを浴びようがトイレに入ろうが音は聞こえません。さあさ、今日も仕事が山積みです。頑張って働きましょう」
ルレイルさんはそう言って更衣室のドアを開け、私をグイグイと押し込んでドアを閉めた。
──豊穣祭七日目。あれから二日が経ち、搬入される物資は益々増えてゆく。私達受付嬢も含め、従業員はフル回転でこれに当たっていたが、それでも沖にはまだ五隻の船が停泊し入港の時を待っている。
ちなみに今日はアレの予定日。何事もなく無事産まれ出たアレは布に包んでクローゼットに隠してある。軟禁状態の現状でそんな物を提出する訳にはいかず、休暇の時に持ち出して浜辺を彷徨き辻褄合わせをしてから売りに出すつもりだ。
忙しい忙しいと仕事に従事していると、騒ついていた店内が不意に静かになり、代わりにガシャリガシャリとした音が近付く。そして人の列が割れると、甲冑を身に纏った一団が姿を現した。
「カナ=アユザワという者はここに居るか?」
その言葉に従業員から熱い眼差しが注がれる。隊長格の男がガシャリと私の前に立つと、値踏みするかの様に見つめた。暫し沈黙の時が流れる。
「お前がカナ=アユザワだな?」
「は、はい」
流石に熱視線を注がれては違うとも言えず、おずおずしながら頷いた。
「少し話がある。詰所までご同行願おう。抵抗はするな、こちらとて事を荒立てるつもりはない」
「えっと、その……」
「おや、衛兵の方がお揃いで当社に何用ですか?」
どう反応すれば良いのやら。と思っていると、アルカイックスマイルが衛兵さん達の肩越しに見えた。衛兵さん達が驚いた風でガシャリ。と身体ごと振り返る。さっきの事といい、アンタ背後霊か何かか?
「失礼。騒がせた非礼は詫びよう。我々はここに居るカナ=アユザワに用があって来たのだ」
「そうですか。とにかく、ここでは人の目に付きますので、奥の部屋にどうぞ。ウィンさんご案内お願いします」
分かりました。と男性職員のウィンさんは頷いて、こちらへどうぞ。と衛兵さん達を案内してゆく。
「さ、カナさんも」
「は、はい……」
私は一体何をやらかしたのか。と、過去を省みつつルレイルさんの後に続いた。
連行されたのは応接室。部屋の出入り口には衛兵の一人が立ち、私が逃げない様に見張っている。何もしてないのに犯人扱いするとは。
「私は何もしていませんっ」
突然の犯人扱いに少し腹が立って、刑事ドラマで見た事のある疑われた人のセリフを吐いてみた。
「まあまあ、取り敢えずはお話をお伺いしましょう」
ルレイルさんが無言のままで視線を送ると、隊長格の男の人がガシャリ。と頷いた。
「カナ=アユザワ。お前は今、『トレントハウス』に住んでいるな?」
「はい、住んでいます」
「二百五号室だな?」
「はい、そうです」
この世界に来て間もない頃、右往左往していた私におばさまが紹介してくれたアパート。入居時は埃まみれでヒドイ有様だったが、掃除を繰り返し見付けてきた小物を揃えて、何とか小洒落た部屋になった。
「となれば間違いは無いな。実は今朝方、他の住人から『異臭がする』と通報があった。調査の結果、異臭の元はお前の部屋である事が分かった訳だ」
私の部屋から異臭が? 別に生モノとか放置していた訳では……
「あっ」
思わず声を上げて口を『あ』の形に保ったまま虚空を見つめる。
「何か思い当たる節がある様だな」
ある。あった。ありまくりっ。
「正直に話して貰おう。誰を殺した?」
衛兵さん達から鋭い眼光が私に向けて放たれる。隣にいたルレイルさんは、辛うじてアルカイックスマイルを維持していた。殺人確定!?
「ひ、人なんて殺してませんよっ!」
「ならば、異臭の原因は何だ?」
「そ、それはですね……」
「どうした、言えないのか?」
い、言えない。こんな大勢の前で言える訳が無いっ。
「あの、えっと。隊長さん一人に話すって事で……」
「それはダメだ。今ここで言って貰おう」
くっ。ええいっ、こうなったらうら若き乙女の口から真っ白なモノを吐き出してやろうじゃないのっ! ……でもやっぱり恥ずかしいから、それとなく分かる様に。
「な、流し忘れたんです」
「流す? 何をだ? 死体か?」
どうしてソッチに話を持っていくかなっ!? ダメだ。この人達鈍感で気付いてくれない。
「ですから、その……」
膝に置いた手をギュッと握り、股をキュッと閉じて俯く。そして、ギュウッと目を瞑って口を開いた。
「──を流し忘れたんですっ」
告白後、急に静かになったので閉じていた目をソッと開ける。衛兵さん達は皆唖然とし、ルレイルさんに至ってはアルカイックスマイルのままで口の端を痙攣らせていた。その顔を維持している事が驚きだよ。そして隊長さんは額の真ん中に指を添える。
「すまん。何を言っているのか理解出来なかった。もう一度頼む」
こんな恥ずかしい事を二度も言わせるのっ?!
「ですからっ、ニ日前に出したのを流し忘れたんですっ!」
半ばヤケになって大声で叫ぶ。そう、異臭の原因はニ日前に出したアレ。休日が終わっている事に気付いて慌てて出社した時に、流し忘れていたのを忘れていて今に至る。
「そ、そうか。ならば、今スグに処理して貰えるかな……?」
「分かりました。出て構いませんよね? マスター」
「え、ええ。今日はこのまま上がって下さい。そして、ご迷惑をお掛けした住民の皆様によく謝って来て下さい」
「はい、分かりました」
そう言って席を立ち、ドアへと向かう私をルレイルさんが引き止める。
「アユザワさん。ソレを忘れては動物と変わりありませんよ?」
分かっとるわっ! 皆まで言うなっ!
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