17 / 41
第17話 紳士ってやつはさ、どんな時も言い訳しないもんさ。
しおりを挟む完全にバレてしまった。作戦を練り直そう。ここはやはり、アレだろ。
「あー、久満子ちゃんこそ…いつ気付くかなーって思って。」
ハハハと乾いた笑いが出る。
ダメだ、誤魔化せてない。彼女は涙を溜め、下を向いている。
「えーと、あー…。そう!こんなにも綺麗になっててさ。ほら!なかなか、その…照れくさかった…かな?うん。そうそう!きっとそう。」
雑っ!!
焦り過ぎて誤魔化し方が我ながら酷い。
俺がそう言うや否や、バッと音がしたかと思う程、勢いよく顔を上げる彼女。
「え?えー?そ、そうかな?恥ずかしいな…。」
目元はまだ赤いが、既に泣き止み嬉し気な声で返事をする。
「もう!嫌われてるのかと思ってちょっと泣いちゃったじゃん。」
安心したように笑う久満子ちゃん。
うん。確かに可愛いんだけどね?限度を超越したシロクマ好きがちょっとね?
「まぁ、私の勘違いだったみたいだけど。綺麗って…それに、良いなって言ってくれたし…。」
もじもじとしながら言い淀む。
「でもさ…。大五郎君ったら、連絡とかしたのになんで返事くれなかったのよー。」
「それにはちゃんと訳があってさ…。」
彼女は昔から可愛くて、泣かれるとどうしても許してしまう。俺は紳士だから泣いている女の子に追い打ちをかける事が出来ないのだ。紳士だからな。
復縁なんか迫られたら断れない。紳士だからな。
なので、受験勉強に集中したいから別れようと、もっともらしい事を言って別れたのだ。勿論高校も別だったし、携帯はトイレに落とした事にして番号変更して買い替えたので、シロクマを見るまで彼女の事はすっかり忘れていたのだ。
紳士は過去を引きずらないのさ。
「高校入学の時に携帯壊しちゃって、みんなの連絡先消えちゃったんだよね。」
「それだったら友達伝いに連絡先聞いてくれれば良かったのに。」
「別れた原因が俺だから、連絡先を聞きにくくてさ…。」
「だったら仕方ないか。私だって同じ状況なら、自分からは聞きにくいもん。」
「だよね!」
確かに確かに、と二人で笑い合う。
「それなら問題ないね?今はもう社会のしがらみみたいなモノもないし、昔みたいに付き合おうよ!」
え?
あ…。
確かにさっきの答え方だと、何も問題ないように聞こえるな…。
どうしよう。
「どうしたの?」
「え?あ、うん。」
「大丈夫?おっぱい揉む?」
「あ、うん。」
どうぞ。と突き出してきた中学の時には存在しなかった彼女の胸部装甲を無意識に堪能しながら、どうしたものかと考え込んでしまう。
「あ、もしかしてシロクマを連れて行った事気にしちゃってる?」
「あー。うん、あー…と、いきなり泥棒みたいな事しちゃったから、久満子ちゃんに相応しくないかな?って思ってさ。」
そう言いながらも俺の手は無意識に動いている。
「うん?そこはシロクマを好きだったんだから仕方ないし。」
「そうなんだ…。」
「それに、もう私もいい歳した大人だから。昔みたいに変な事ばっかり言わないよ?安心して付き合ってくれて大丈夫だよ?もしかして、それが不安?」
もう良いんじゃないかな?こんなに可愛いし。厚い胸部装甲装備してるし。俺の強靭な精神は既に陥落しかかっている。
「ね?」
「うん。これからもよろしく。」
「へへっ!ありがとね。こちらこそよろしく。」
嬉しそうに笑う彼女を見ていると、少し早まったかな?という気がしなくもないが、まぁ良いかと思ってしまった。
「って、いつまで触るの?」
「え?」
俺の手はトランポリンの上で弾むように、自然な動きで彼女の胸部を楽し気に上下動していた。
いつの間に…?
一体いつから俺は…。
〔どうしたの?
え?あ、うん。
大丈夫?おっぱい揉む?
あ、うん。〕
あの時か!!
触っている俺自身にさえ、気付く間もなく触らせるとは…。なかなかやるじゃないか。
俺は紳士だ。決して欲望に駆られたのではない。装甲の厚みをしっかりと確認していたのだ。
ただ、彼女が分かってくれるかどうか……。
「あぁ。ごめんごめん。」
ぱっと手をどけ、触っていることに気付いていなかったという体で…。
「あまりにも自然な流れだったからついね。ああ、決してわざという訳ではないし、下心とかでは全くないんだけどね?なんというか、そう!造形がね?凄く美しいから、芸術的観点から考察して、どのように触れればより美しさを際立たせるかを調べていたんだよ?いざ触ってみれば、芸術的なだけでなく実用性も兼ね備えていると俺は思ったんだ。それは何故かというと、低反発クッションなんて比べ物にならないくらいの触感?そして人が持つ特有の温かみとマッチして、より人を惹きつける何かを見いだしたんだ。これはまだ仮説でしかないんだけど、恐らく精神へのリラックス効果も期待できて……。」
「あ、うん。大丈夫。分かってる…よ?」
「分かってくれているなら良いんだ。」
どうやら彼女には何も言わずとも分かっていたらしい。
ははっ。俺って奴は全く…。彼女をもっと信頼してあげないとな。
言わなくても分かってくれる人がいる事の喜びを、今はゆっくり噛み締めさせて欲しい。
※久満子ちゃんは彼の言い分を理解していた訳ではありません
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

転生してモンスター診療所を始めました。
十本スイ
ファンタジー
日本で普通の高校生として日常を送っていた三月倫斗だったが、ある日、車に引かれそうになっていた子犬を助けたことで命を落としてしまう。
気づけばそこは地球ではない異世界――【エテルナ】。
モンスターや魔術などが普通に存在するファンタジーな世界だった。
倫斗は転生してリント・ミツキとして第二の人生を歩むことに。しかし転生してすぐに親に捨てられてしまい、早くもバッドエンディングを迎えてしまいそうになる。
そこへ現れたのは銀の羽毛に覆われた巨大な鳥。
名を――キンカ。彼女にリントは育てられることになるのだ。
そうして時が経ち、リントは人よりもモンスターを愛するようになり、彼らのために何かできないかと考え、世界でも数少ないモンスター専門の医者である〝モンスター医〟になる。
人とのしがらみを嫌い、街ではなく小高い丘に診療所を用意し腕を揮っていた。傍には助手のニュウという獣人を置き、二人で閑古鳥が鳴く診療所を切り盛りする。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユニークスキル【テキパキ】は最適解!イージーモードで教える冒険者講師
まったりー
ファンタジー
レベルアップも新たなスキルが覚えられず、ユニークスキルの【テキパキ】しか取り柄の無かった主人公【ベルトロン】は、冒険者を続ける事に壁を感じて引退した。
他の職も見つからず悩んでいると、酒場で若い冒険者が良からぬ奴らに絡まれていて、それを助けた事で生きがいを見つけ、彼らを一人前の冒険者にする新たな人生を送る事になりました。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる