15 / 41
第15話 シロクマ
しおりを挟む「対戦モード。ランク指定は139。」
【ランク139の相手と対戦モードに移行しました。
接続中…………。
彼女お貸ししますとの対戦が受理されました。侵略ゲートの場所を指定して下さい。】
対戦者は随分と高尚な趣味をお持ちらしい。借りるのだとしても、それってどうなの?と思うのに貸すだなんて。
まぁ…。相手がどうしても、と言うなら借りるのもやぶさかではない。
「ゲートを魔王軍の前へ。」
ゲートの向こう側に辿り着くと、辺り一面が白で覆いつくされている。空から降り注ぐ太陽光が反射してキラキラと光り、目が眩むようであった。それは銀世界と表現されるに相応しい幻想的な雪景色。
魔王軍はその光景に驚いてはいたが、すぐに探索を開始した。彼らはその寒さにもかかわらず、初めての雪に気分アゲアゲで楽し気に歌いながら散策している。
お前らピクニック気分かよ…。
そうしてピクニックを楽しんでいる魔王軍は、全身が真っ白い毛で覆われた2.5m程の獣と遭遇する。
どう見てもシロクマである。昔、動物園で何度もお世話になったものだ。
学生時代お付き合いしていた女の子がシロクマ好きで、喧嘩する度に動物園へ連れて行きシロクマを見せるのだ。それが定番の仲直りイベントであった。
何故別れたかって?
シロクマと私、どっちが可愛い?と聞かれたので彼女だと言うと、シロクマは世界一可愛いんだと涙ながらに力説され、じゃあシロクマの方が可愛いと言えば、私じゃないの?と泣きながらに俺を責めてくるのだ。
どうしろってんだよ…。
最初はそんなところも可愛いと思っていたのだが、これが週3日制で行われる。彼女は他に目移りしないタイプであった為、当然交代要員は一切無し。1年で疲れ果ててしまった。
今にして思えばなかなかの狂気である。
彼女の洗脳が功を奏したのか、俺はシロクマを好きになった。
でも、俺は彼女がちょっと嫌いになった。
そんな話は置いておいて、そのシロクマである。
シロクマは魔王軍を気にする事なく、もくもくと手を動かして何かをしている。
俺は気になり映像を拡大すると、氷で出来た丸いお皿に雪と果物を盛りつけしていた。
白いくまのアイスだ…。
周りを見れば、他にも同様に盛り付けを行っているシロクマがちらほらと見える。
その果物どこから持ってきたんだよ。
盛り付けている果物はイチゴにミカン、パイナップル、キウイ…と多様であり、どう見てもこの場の植生と合わない。
シロクマ欲しいなぁ…。
俺は思わずシロクマ達を捕獲し、こちらの世界に連れてくるようサリリに指示を出した。
(捕獲魔法起動、有視界内全てのシロクマを囲うように縦横5m、高さ3mの檻を形成。材質は鋼、魔力でコーティング。檻ごと転移魔法を起動し、座標を元世界の北極点へ。)
「汝のあるべき場所へ帰れ。キャッチ&リリぃぃス!」
サリリは杖をクルクルと回すように振ると、シロクマ達は突如出現した檻に捕らわれ、悲しそうな鳴き声をあげる。
それはまるで、助けを訴えているようであった。
檻は点滅するように輝いており、徐々に点滅の感覚が短くなっていき最後には…。
この世界から中身ごと消え去った。
【彼女お貸ししますが音声通話を申請してきました。承諾しますか?】
お?対戦相手に連絡って出来たの?
今まで、よろ~、とかお願いします、とかオンラインゲーム基本の挨拶なんてしてなかったんだけど。今度からは対戦前に挨拶しとこ。
「許可。」
【彼女お貸ししますと通話を開始します。】
「初めまして。」
「初めまして。対戦ありがとうございます。」
女性の声だ。
「シロクマをどうしたんですか?」
声の中に憎しみがこもっている。
相手は明らかに怒ってるな。
対戦とは言え、こっちが無理矢理連れ去ったのだから、ここは素直に謝っておこう。
「すみません。シロクマがあまりに可愛かったので、つい自分の世界に連れて行ってしまいました。」
許してくれるだろうか?
「あ、そうだったんですね!シロクマ可愛いですもんね。」
先程とは一転して、嬉しそうな声に変化する。
「実は私、シロクマが昔から好きで、このゲームを始めた時からシロクマの世界を創って眺めていたんです!」
話を聞けば、どうやら彼女はゲームを始める際にシロクマという種族の存在強度を一律で設定したらしく、全部の個体がそこそこ強いようだ。
種族全ての存在強度を1上げる為にはWP1,000消費するそうで、現在のシロクマは存在強度330,000だとの事。
ゲーム内時間を早送りに設定し、地道にWPを稼いでシロクマ達を一律に強くしていったらしい。ちなみに現在の個体数は6万頭程だとか。
「もし良かったら直接会ってお話しませんか?同じシロクマ好きの人に会えると思っていなくて、本当に嬉しかったんです!」
「それは良いですね。ぜひとも!」
シロクマ好きという事で気に入られたらしい。
ランク30を超えるとフレンド登録機能が解放され、お互いに行き来できるようになるそうだ。
ヘルプさんはそんな機能教えてくれなかったんですけど?
「それでは今回は私が降参しますので、是非シロクマについて語り合いましょう!先程あなたが捕まえたシロクマ達は、そのまま大事に育ててあげて下さい。また後で!」
そう言って互いにフレンド登録と会う約束をし、通話を終えた。
【彼女お貸ししますが降参しました。勝利報酬として1,000,000WPが与えられます。
あなたは創造神ランクが49になりました。おめでとうございます。
格上討伐報酬として10万上げる君を40個進呈します。】
オンラインゲームを通して付き合うようになったカップルの話は時々聞くが、もしかして俺も…。と想像するとワクワクが抑えられない。
早く会いたいな。声は可愛かった。きっと顔も可愛いに違いない。
しかし、どっかで聞いた事ある声だったような……。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユニークスキル【テキパキ】は最適解!イージーモードで教える冒険者講師
まったりー
ファンタジー
レベルアップも新たなスキルが覚えられず、ユニークスキルの【テキパキ】しか取り柄の無かった主人公【ベルトロン】は、冒険者を続ける事に壁を感じて引退した。
他の職も見つからず悩んでいると、酒場で若い冒険者が良からぬ奴らに絡まれていて、それを助けた事で生きがいを見つけ、彼らを一人前の冒険者にする新たな人生を送る事になりました。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる