2 / 41
第2話 冗談じゃねえ
しおりを挟む「言うナレバ、イキモノガカリ デース!」
「……。」
イキモノガカリ?生き物係?
学級の係かよ!
いやいや、生命創造をそんなノリで言われても正直困る。
「…ちなみに、貴方はどちら様ですか?」
冷静さを失いかけたが、なるべく普通に会話する。相手はこんな場所に俺を連れてきた張本人なのだ。どう考えても常識外の存在である事は間違いない。
ツッコミ所満載の人物に対し、冷静に返答出来た自分を褒めて欲しい。
問題はツッコミ所が多すぎて冷静さを保つのが難しいことであるわけだが。
「申しオクリマシタ。ワタクシ、コーユー者デス。」
名刺を差し出してくる。
まるで普通のサラリーマンのようである。
まあ…。普通のサラリーマンはこんな場所に連れてきたり、胡散臭い外人みたいな喋り方はしないのだが。
なんだかなあ。と思いながら名刺を受け取る。
疑問点だらけではあるが、一先ず受け取った名刺に視線を落とす。
名刺にはこう書かれていた。
(仮想世界システム ジ・アースプロジェクト
システム担当兼文化研究員 ジョーダン・ジャ・ネーヨ)
冗談みたいな名前だった。
自分でも顔が引き攣っているのが分かる。が名前に文句を言っても始まらない。
相手の機嫌を損ねるのも得策では無いので、名前の件については一旦頭の隅に追いやり更に質問を続ける。
「この仮想世界システムと言うのは?」
努めて冷静に振る舞う俺。
恐らく今が人生で最も冷静に振る舞おうとしているだろう事は間違いない。
「シミュレーション仮説は御存じデスカ?」
「聞いたことがあります。確か…我々が生きているこの世界は、高度な文明を持つ知的生命体が作り出したコンピューター上でシミュレートされたものではないか? と言う説の事ですよね。」
「ソノ通りデス。
アナタはワタシにトッテ、そのシミュレーション世界の住人トイウ事です。
ワレワレが開発シタ仮想世界システムにアナタは住ンデイマス。」
「そんな…まさか!?」
信じられない…が、そう考えれば人間一人をこんな場所に放り込むなど訳無いだろう。実際、こんな何もない場所に連れてこられている事だし。
「ソノマサカ、デス。
アナタにトッテハ信じラリナイ話デショウガ、事実デス。」
「信じ難いですが、一旦その話が事実としてお話を伺いましょう。
どうして俺を選んだんですか?」
「モチロン理由がアリマス。
ワレワレの世界デハ現在、スシ、天ぷら、侍、忍者、家出神待ち少女、イロイロナ日本文化ガ流行シテイマス。
仮想世界システムを日本人に使ッテモライ、文化を創造シテ欲シイノデスオナシャス。」
日本文化ってのは他から見ると、やはり独特なのだろうか?
あと、家出神待ち少女は文化ではない。
「それだと、俺個人を選んだ理由にはなってないのですが…。」
俺の発言に対して男は何を馬鹿な事を、と言わんばかりの顔をして告げた。
「アナタ家出少女ムッチャスキーの人デスヨネ?
ソレガ理由デスヨ。」
「え?」
「エ?」
その瞬間、世界は凍り付いた。
「…。違いますけど?」
ムッチャスキーって何だよ。
「御前戸大五郎サンデスヨネ?」
「折戸大五郎ですけど。」
「…。」
「…。」
またも、空気が凍り付く。
「だああありゃっしゃあああぁぁー!!!」
「うおっ?!」
「人違いかよーー!
めっちゃ時間かけて準備してきたのにいぃいぃいぃぃ!」
突然切れだすジョーダンさん。
先程までの雰囲気はなんだったのかと思うほど取り乱し奇声を発している。
「あの…。」
一旦落ち着いてもらおうと声を掛ける。正直怖い。
「エセ外人みたいなトークでウケまで狙ったのによおうおうおうおう!!
折戸大五郎だと?俺とお前と、大五郎~♪ってか?!
バッカヤロー!!
ムッチャスキーって何だよ!!
意味わっかんねえんだよーおうおうお-う!!」
おぉう。
何だか知らんが人違いだったようだ。先程までの話し方はどうやらキャラ付けらしい。
あと、ムッチャスキーと言ったのはそっちだ。
ひとしきり暴れて落ち着いたのか急に静かになるジョーダンさん。
初回同様温和な雰囲気に戻っている。
そんなニコニコしても、もう誤魔化せねえよ。
「ところで、大五郎さんにお願いがあるのですが。」
「あ、はい。」
先程のブチギレシーンは完全に無かった事にするようだ。
いくら何でもそりゃ無理があるだろう。
「仮想世界システムを使って文化を創造して下さい。」
成程。どうしても先程の事は無かった事にしたいようだ。
またキレられても困るので乗っかっておこう。
仮想世界システムには正直興味がある。面白そうだから気の済むまでシステムを弄り倒してみたい。使いこなせれば人間が想像しうる全ての望みがそれだけで叶ってしまいそうだ。
金、女、地位、何だったら超能力みたいなものまでイケそうな気がする。
そして、こんなチャンスなんてもう二度とないだろう。
となれば返事は決まっている。
「やります!」
ニコっと笑顔のジョーダンさん。
やる、と返事をした途端ジョーダンさんめっちゃ良い笑顔。
いやいや、さっきのブチギレシーンは本当に何だったのか。
「ありがとうございます。では今日からあなたの役職はイキモノガカリです。
改めましてよろしくお願いします、大五郎さん。」
ジョーダンさんが笑顔で握手を求める。
「こちらこそよろしくお願いします。」
俺はイキモノガカリで決定らしい。
その役職のネーミングセンスどうにかならんの?
「それではシステムについて説明していきます。」
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユニークスキル【テキパキ】は最適解!イージーモードで教える冒険者講師
まったりー
ファンタジー
レベルアップも新たなスキルが覚えられず、ユニークスキルの【テキパキ】しか取り柄の無かった主人公【ベルトロン】は、冒険者を続ける事に壁を感じて引退した。
他の職も見つからず悩んでいると、酒場で若い冒険者が良からぬ奴らに絡まれていて、それを助けた事で生きがいを見つけ、彼らを一人前の冒険者にする新たな人生を送る事になりました。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す
takosuke3
ファンタジー
〝出来損ない〟の烙印を押されたアレクシアの日々は、不遇の一言だった。挙句、彼女を虐げる者によって濡れ衣を着せられ、死刑宣告を受ける。
絶望の中で与えられた法具の転移術式によって難を逃れるも、アレクシアが飛ばされたのは敵国にして未知の只中だった。
未知の言葉、未知の文化、未知の文明、未知の価値観──それらを知っていく中で、アレクシアの閉ざされていた世界は、大きく広がっていく。
<2018年8月1日告知>
本日より、連載を開始します。
今作は、可能な限り短い間隔での更新に挑戦します。だいぶ粗が目立つと思いますので、気づいた点がございましたらご指摘をお願いします。
<2018年8月29日告知>
本日の更新で本編は完結いたします。以降は主な登場人物の紹介と補足を掲載していきます。
<2018年9月6日告知>
本日の更新をもちまして、当作品は完結といたします。短い間でしたが、お付き合いくださりありがとうございました。
なお、第11回ファンタジー小説大賞に応募しておりますので、よろしければ温かいご一票を・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる