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第34話 恋愛? 自分の希望が叶うとは限らない。

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「むっくん。付き合ってくれるのね? 確実に録音したし言質取ったわよ?」

「えっと。先生? 貴女、本気で言ってるの? 武太はまだ学生よ?」

「えぇ。私は本気ですお義母様。どんな手段を用いてもおたくの息子さんを貰おうと思っています。」


 ミイちゃん。今日もキマッてるね…………目が。


「あのね? 先生と生徒って世間体が……。」
「大丈夫です。一生養う覚悟は出来ています。」


 それ、普通は男の台詞だよね?


「先生と武太じゃ年の差が……。」
「年の差はコスプレで誤魔化せます。」


 誤魔化す意味とは?


「武太は童貞ですが。」
「私も処女です。」


 母さん。俺の性事情をバラさないで。


「うちの息子じゃ貴女とつり合いが取れないと思うんだけど……。」
「もっと女を磨きます。」


 ミイちゃん。逆だよ逆。俺がつり合ってないんだって。


「えー……っと。後は若い者同士でごゆっくりー。」


 そそくさと家の中に入りバタンと玄関の扉を閉める母。

 俺はもしや売られたのだろうか?

 いや分かるよ? 今のミイちゃんはちょっと怖いもんね。俺が逆の立場でも同じ事するもんね。

 でもさ、息子としてはもう少し粘って欲しかったと言うか……。


「むっくん。お義母様は認めてくれたみたいだよ? 正式に結婚を前提に付き合おうね?」

「え、えーっと……。」


 どうしよう。

 ただでさえ今の俺は女子耐性が無いってのに、こんな獰猛な肉食系女子を相手にやり過ごす事が出来るのか?

 ミイちゃんと付き合うのはちょっとヤバイ。

 ヤバイはずなのに……何でこんなに可愛いんだよちくしょう。


「あれあれー? やっぱりいつもと違うよね? 車の中でもかなりガチガチだったけど、私相手に緊張してる? もしかして興味が戻ってきたのかな?」


 一番バレてはマズい相手にバレてるじゃん。


「ま、まだ少し戻っただけだから。ちょっとしか戻ってないから。」


 嘘をついてもどうせバレる。ならば少しだけ戻ったという感じならどうか。


「少ししか戻ってないのね? じゃあむっくんは私を超好きって事だね。」


 何故そうなる。どう解釈したんだ?


「むっくんは少ししか恋愛に興味ないはずなのに、私にはガッチガチに緊張してたもん。これはもう私に恋してると言っても過言ではないはずよ。」

「過言だよ。」


 落ち着け俺。冷静に……そう、冷静に考えてみよう。

 ミイちゃんは先ず可愛い。俺とは不釣り合い過ぎて本当に俺で良いの?ってくらいだ。

 そして年上は別に嫌いじゃない。性格は……結構合うかも。

 あれ? 拒否する理由がない?


「まーだ悩んでるの? ここ最近、私と過ごして楽しくなかった?」

「た、楽しかった……です。」

「綺麗なお姉さんは好きですか?」


 それは大昔のフレーズだろ。


「……ミイちゃんは綺麗よりは可愛いの方じゃん。」

「素直でよろしい。」


 もう俺……腹を括るべきか?


「ま、恋愛に興味が戻ったなら良かったよね。。むっくん覚えてる?」

「なにを?」

「今の私達の関係は、元々恋愛に興味をなくしたむっくんに恋愛指導するという話だった。」

「……。」


 そうだった。

 ミイちゃんの下心が前提ではあるけどね。


「条件も覚えてる?」

「……条件?」


 そんなのあったっけ?

 いつの間にか付き合ってる事にされてただけじゃん。特に条件なんて無かったはずだ。


「私を落としたら付き合うって条件。忘れたとは言わせないわよ?」


 確かにそんな事言ってたかもしんない。


「じゃ、晴れてお付き合いという事で良い?」

「よ……。」


 くない、と言葉を続けようとした瞬間に、ミイちゃんはうるうると上目遣いで俺を見ている。

 ずるいだろそれ。

 今の俺にうるうる攻撃をするんじゃない!


「……良いです。」

「それではいただきまーす!」

「え?」


 俺が了承の返事をした途端、ミイちゃんの顔が近づいてくる。

 脈絡なさ過ぎるだろ! 遮るものがないと分かればすかさず食いつくなんてマジで肉食かよ!?

 や、やばい! このままでは食われる。

 誰か助け……。


「って母さん。何見てんの?」

「え?」


 母が玄関のドアを少しだけ開けて俺達をじっと見ていた。

 こんな時に覗きとは良い趣味だ。お蔭で助かったわけだが。


「お、お構いなく。」

「いや構うでしょ。」

「息子が大人になる瞬間を見ておこうかと。」


 ニタニタと笑う母を見て確信した。

 最初は俺を売ったのかと思ったが違うな。この人はこういう展開になると分かってわざと引き下がったに違いない。

 あわよくばキスシーンを見てやろうという気持ちが透けて見える。


「あ、先生も私なんて気にしないでひと思いにぶちゅっといって構いませんから。」

「そうですか? なら遠慮なく。」

「遠慮しろよ。」

「まぁ、むっくんったら。いきなり命令だなんてそんな……。」


 体をくねらせ照れるミイちゃんは可愛い。

 可愛いのが腹立つ。そして腹立っても可愛いのが更に腹立つな。


「せっかくだからお義母様にキスシーンを見てもらいましょう。」

「嫌だよ。そんなんするのは結婚式の時くらいでしょ。」

「じゃあ結婚する?」


 何でそうなった。


「あらあら。本当に仲良いのね。あの武太がこんな可愛い年上の人にタメ口だなんて……。」


 そう言えば……。いつの間にか普段の調子で話してたな。

 今の俺は再び恋愛への興味を失ったわけではない。その証拠にミイちゃんを見るとドキドキするのは相変わらずだ。

 しかしそれとは反対に、ミイちゃんとのやり取りを自然に出来てしまう自分がいる。


「私達、前世でも結婚してましたので。」

「違うでしょ。」


 その設定、どっから持ってきた?


「ごめんなさいね。母さん、武太が大人の階段上る瞬間を見たかったのよ。でも結果的に邪魔しちゃったわね。」

「……別に。」


 むしろ助かった。

 ちょっと残念な気もしないでもないようなそうでもないような気はするけども。


「確かにそんな雰囲気ではなくなっちゃいましたね。」

「ごめんなさいね。」

「いえいえ。気にしないで下さいお義母様。」


 ミイちゃんはそう言って俺の顔をガシッと両手で掴み、おもむろに唇を重ねてきた。


「え?」

「ごちそうさまでした。」

「お粗末様です。」


 いや、なに二人して普通に会話してんの?

 今の俺のファーストキスだったんだけど? なんなら、感動も何もあったもんじゃなかったんだけど?


「ちなみに私もファーストキスよ?」


 心を読むな。怖えよ。


「ではお義母様。今日のところはこれで退散致します。」

「はい。お気を付けてー。」

「はーい。」


 お前ら友達かっ!

 ミイちゃんは笑顔で去って行った。


「俺、ファーストキスだったのに……。」

「やーだわ、この子ったら。男が乙女みたいな事言わないで。あんなに可愛い先生とキス出来て何が不満だってのよ。」

「俺は……夜の街並みを一望出来るホテルでキスしたいって夢があったんだ!」


 くっ……俺の夢が……。

 でも柔らかかった。何がとは言わないけども。


「うっわ。童貞くさ。童貞がうつるからあっちいってよね。」


 げんなりした顔でしっしっと俺を追いやろうとする母はなかなかに辛辣だった。

 泣くぞこのアマ!

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